JCRGをレビューする
Ibanezの現行J-customには4つの弱点がある、と僕は考えている。
1つはステンレスフレットを標準装備していないこと。
1つはなんとも退屈なトップ材の杢目。
1つはEdge-Zero搭載機のザグリの隙間。
最後に、少し重いこと。
翻って、それら以外は完璧なのだ。
握りやすいネック。チタンロッドに補強され8年以上一度も動かなかったネック。ハムバッカーのパワーとシングルコイルのクランチの両立。好き嫌いがわかれるがTree of Lifeインレイも僕は好きだ。常にベストコンディションでいてくれる存在ということで道具として極めて優れている。
ただ、冒頭の要素が僕には辛かった。
そこで、手持ちのアイバニーズを元手に、最終的に長く傍らに置いておきたいJ-Customにグレードアップすることにした。以下レビューしてみよう。例によって前半はスペック的な部分を、後半は性能的な部分を書く。なお、今回は写真をすべて無加工で掲載する。
イシバシ楽器様の80周年記念モデル第5段と銘打ったRGの J-Customである。
ポプラバール/アッシュボディ
ウェンジ/ウォルナット5Pネック
ストライプド・エボニー指板
DiMarzio Tone Zone/Blue Velvet/Air Nortonの定番コンビネーション
Lo-Pro Edge
あたりでそれ以上詳しいスペックは良く分からないがおそらくレギュラー機と然程差は無いと思われる。
余談を挟んで申し訳ないが、僕は8年間クロサワ楽器様オーダーのMRGというチャンバー仕様のRGを所有していた。こちらはレギュラーのJ-CustomのRGよりも1ランク軽いため取り回しが格段に良かった。(この記事を書いた直後にこの文章にたどり着いた方は、たぶんイシバシ楽器様からそのうち中古でデジマートにでも掲載されると思うので見つけてみてほしい。)
色もシースルーの水色でかわゆく、ゴールドパーツとも相まって豪華だった。音も弾き心地も文句なしの超優秀ギターだ。だが、寒色シースルーに塗装されたマホガニーとフレイムメイプルの杢目がやはり好みになりきれなかった。
JCRGとなると、これはレギュラー品よりワンランク変な仕様というかスポット生産的に数本単位で制作されるスペシャルなモデルである。過去にはスルーネックモデル、唐松模様みたいな縁取りのモデル、レジン浸透させたバックアイバールトップ、コア材の隙間に一筋の天の川が注ぐモデルなど、記憶に残るだけでも癖が強いモデルが並んでいる。
そこで冒頭のこのモデル。正式にはIbanez j.custom IJCRG80TH5-Blue Malacite Ishibashi 80th Anniversary Modelと載っている。I(アイ)はイシバシ楽器様の頭文字だろう。一言で言うと、すんごい高い完成度だ。
トップのポプラバール。ヨーロッパのカスタム工房の当たり個体と比較すれば並と言われてしまうようなところだが、十分かっこいい。ボディエッジの青と緑の中間色から、センターに向かってナチュラルカラーにグラデーションを描いている。写真の角度によって中心部が白っぽく写ったり黄色っぽく写ったりするが、上の3枚連続の写真でいえば2枚めのやや黄色っぽい色が実物に近い色合いだ。
ボディは1ピースの色白おいしそうなアッシュ。これが軽めでよく振動する。このモデルはトップ材がドロップトップされておらず、エルボーカットとともに削り落とされている。ドロップトップになっているJCRGは20~30万くらい追加で積まないと入手できない。富裕層或いは支配層向け。
また、アッシュとポプラの間にはおそらく0.5mmほどのウォルナットが挟まれている。色味の明るいアッシュとポプラの境界線としてのアクセントだろう。エルボーカットの角度の浅さもあり、このウォルナットの層は少しぼやけて見える。でもアイバでカタログにないラミネートなんてザラですよね。プレミアムシリーズとかすんげぇ枚数ラミネートしてますし。
パネルにはロゴがあってかっちょいい。でもエッチングではなくプリントと思われるので剥げないように気を遣おう。
この彩度の低めの焦げ茶色の斑模様を含む指板はストライプドエボニー。エボニーにも色んな色があるんですね。やはりローズウッド系指板と比較して導管のキメが細かく、おそらく高密度であるといった手触りがある。
この指板の色味における個体差が非常に大きく、このシリーズの限定6本のうち指板の濃淡のバランスが一番整っている個体から売れていた。この個体もいい感じにバランスが良いと思う。真っ黒が好みの人には合わないだろう。また、古くから変わらないこのツリーオブライフインレイが乗って、所有するギターの中でもトップクラスに指板がうるさい。最高。
ネックはウェンジを主体としてウォルナットストライプ×2本が入ったネック。2010年代のトレンドとしてオープンポアフィニッシュ(導管の凸凹を埋めずに薄いトップコートを吹く仕上げ)が流行っていたが、この個体はがっちり閉じた上でつや消し仕上げとなっている。個人的にはウェンジは導管が広いためガバっと広く開く箇所があると嫌なのでこれが気に入っている。個人的にはローズウッドネックが理想。
では後半、性能面や音について書いてゆこう。
恥ずかしながら、アイバニーズのHSHギターを触れたことがなく、これが初めてであった。先述のRGはHHレイアウトで3wayセレクターが載っていた。結論、HSHの音の幅広さにびっくりした。
え、こんな綺麗にクランチ出るん?
ディマジオってこんなノイズ少ないん?
といった感想だ。こんなきれいなクランチはベアナックルのネイルボムを載せるか、SuhrのML StandardとSSHのミックスを作らないと出せないと思っていたが、こんな古くからあるピックアップで作れるのか…。
あまり明るくないので申し訳ないが、この違いをもとに考えるならば、レギュラーのJ Custom買う場合もHSHのほうが音の幅格段に広いっすよ。そっち買ったほうがいいっすよ。と思う。
ハムバッカーの音は説明不要のアイバの音。フュージョンからメタルまで使えるし、癖がないため音を弄くりやすい。ただ一方で中音域の出方が強めであり、ゴムのような質感で軟質な印象を抱かせるといった見方もあるだろう。フロントはローが出すぎないが甘いリードにも使える、目隠しをしてセミアコだと騙して聞かせてもいけそうな太い音。興味深いのは、同じPUなのに前に持っていたマホボディのRGより若干太さは後退した印象があることだ。このギターのフロントの音にはかすれた色合いが含まれる。これがアッシュとマホガニーの違いだとしたら面白いくらいだが、全部木が違うので対照実験には向かない。
プレイアビリティに関しては特筆事項が無い。特筆するべきことが思い浮かばないくらい最高レベルだ。あとはネックが動かないことを祈るだけだ。そうそう、レギュラーのJ Customのヘッド裏にはKTS社製チタンロッドインサートっていう銀色のステッカーが貼ってあるのだが、デジマートで見るJCRGのヘッド裏にはそのステッカーが無いのだ。アレのおかげでネックが8年間1mmも動かなかったと思ってる節があるので、ちょっと不安である。
アイバニーズは独特の薄いネックシェイプに古くから賛否があるが個人的には極めて弾きやすい。24フレットまで余裕で届くジョイント部、ベストポジションにあるボリュームノブとセレクターSW。Lo-Pro Edgeは今回で初めて試したのだが、これが使い勝手が良い。これを90年代に開発していたと思うと、すげぇなアイバニーズ。
余談として新しいモデルの多くにはZeroPointシステムが搭載されている。弦が切れた際のチューニング保護という素晴らしい機能なのだが、クリケットができなくなる(あとライブしないから弦切れてもOK)という理由で外していた。
ボリューム、トーンともにプッシュプルなどのギミックは搭載せず。5WAYセレクターのみで魔法のように色合いを変える。普段Suhrのセレクタースイッチに慣れてしまった手でこのギターを弾くと、セレクタースイッチのタッチが若干硬い。いや、硬いというのはデメリットではなく、手が届きやすい場所に位置しているからこその誤操作防止の機能といえる。慣れよう。
フレットはアイバさんお得意の球面処理。残念ながらこのモデルはステンレスフレットではないようだ。国内のディーラーが仕入れて品質管理を行うブランドならいざしらず、なまじ英語とPayPalが使えるからとイキって個人工房から輸入なぞしようものなら、しっかりした品質管理の外側にあるとんでもねぇギターと出会ってしまう。何度もあった。アイバは安心だよ。山野楽器様は素晴らしいです。
あとはケースが革っぽいやつじゃなかった。
といことで、木材がモダンでほかはいつも通りのIJCRG80th5のレビューでした。多分音に関しては普通のJカスと思って良いでしょう。ギター選びのヒントになれば幸いです。スキつけてね。