インフルエンサー経済にWeChatも参入 「MCN特区」開設
要点:
①「網紅経済」に貢献するMCNに大きな注目
②WeChatはミニプログラムなどで独自の経済圏を形成
③MCN企業はすでにウェイボーやTik Tokなどに参入
——
中国生活に欠かせないSNS、「微信」(WeChat、中国版LINE)のビジネス化が止まらない。11億人以上のアクティブユーザーを抱えるWeChatの次の一手は、コンテンツの代理運営だ。
WeChatは9日、「マルチ・チャンネル・ネットワーク」(MCN)特区の開設を発表した。この特区を通じて、MCN企業はより多くの顧客にサービスを提供できたり、データ収集が可能になったりする。WeChatでのライブ配信や公式アカウントの運営などが多様化する中で、コンテンツ代理運営への需要の高まりが背景にある。現在、参画する企業を募集している段階で、一定数集まれば正式に公開される。
本来、MCNはYouTuberなどの動画クリエイターを管理するタレント事務所のような機関を指し、主な収益源はYouTubeの広告収入だ。ところが中国の場合、2016年頃からMCN 業界が盛り上がりを見せると独自の変化を遂げ、現在ではライブ配信の商品販売や広告収入が大きな収益源である。
ライブ配信で4,000万元(約6億円)のロケットを販売した「薇婭」(ウェイ・ヤー)氏もMCNに所属するインフルエンサーの1人
こうした背景から、「網紅経済」(ワンホン経済、インフルエンサー経済の意)研究の一環でMCNが特集されるなど、この数年間で大きな注目を集めている分野でもある。2019中国MCN業界発展研究白書(以下、研究白書)によると、2018年時点で5,000万元(約7億5,400万円)以上の売り上げ規模を持つMCN企業は全体のおよそ3割に上る。さらに、全体の6%は1億元(約15億円)を超える規模だ。
一方、WeChatも数多のアップデートを重ね、単なるコミュニケーションツールではなくビジネス価値も含んだプラットホームへと進化した。今回のMCN特区を取り上げる上で注目すべきは、 2017年にリリースされた「小程序」(ミニプログラム)だ。
ミニプログラムは、WeChatのアプリ上で利用できるミニアプリのようなものだ。 インストールが不要で、配車サービスやフードデリバリー、「京東」(ジンドン)などのECサービス、さらには動画配信サービスやゲームなど、幅広いサービスを利用できる。大きな特徴は、これらのサービスがWeChatの11億人以上のコミュニティーに直接アクセスでき、集客やプロモーションなどの効果が見込めることだ。
ミニプログラムのゲーム「跳一跳」(テャオイテャオ)は2018年頃に大流行した
また、ミニプログラムで広告収入も得られる。ミニプログラムがリリースされて少しした頃に流行ったゲーム、「跳一跳」(テャオイテャオ)にナイキが広告を出した。1,000人以上の訪問者がいることなどの条件をクリアすればミニプログラムの収益化を申請でき、広告収入のおよそ50〜70%を収益として受け取れる。
こうした背景から、専門でコンテンツ運営を行うMCNへの需要が高まったと考えられる。
WeChatを取り巻く環境を見ると、中国版Twitterの「微博」(ウェイボー)や「抖音」(ドウイン、中国版Tik Tok)、ECサイトのタオバオなどに大手のMCN企業がすでに参入している。というのも、研究白書のデータによると、90%以上の有名インフルエンサーはすでにMCN企業に所属しているのだ。
この数年間で競争と淘汰を繰り返し、今ではすでに飽和状態と指摘されるMCN業界。こうした業界の競争がインフルエンサー経済や抖音などのショートムービープラットホームの発展に貢献した。
「プラットホームは視聴数を求め、MCNは収益と(プラットホームの)ブランドを求める」と研究レポートは両者のWin-Winな関係について述べる。また、それにより「弱肉強食」の傾向がより強く現れていると指摘する。
ミニプログラムなど独自の経済圏を形成しているWeChat。MCN特区の開設でより一層「スーパーアプリ」としての地位を確立するのではないだろうか。
文/田村 康剛
Weekly China
June 18th, 2020