Esportsをテーマとした大人気ドラマ「CrossFire」と中国におけるEsportsの社会的普及
要点
①実在のゲームを題材としたドラマ「CrossFire」が公開から4週間足らずで約9億8000万再生
②高まる普及度、トップ選手はWeiboのパーソンオブザイヤーでも1位に
③今や国も正式に認める一大産業、教育現場にも影響
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テンセントビデオで限定公開されているEsportsを主題としたドラマ、「CrossFire」(中国語名"穿越火线")が、公開から4週間足らずで9億8000万再生超えと、人気を博している。サッカーやバスケットボールといったスポーツをテーマとしたドラマは、日本を含め、世界中のあらゆるところで作られてきたが、Esportsを主題にしたドラマが制作されていること自体が、画期的であり、また、それが大ヒットしていることが、中国におけるEsportsの普及度の高さを示す一つの例と言えるのではないだろうか。
本作は、ゲームのマップ上で偶然出会った、2008年と2019年という全く違う時空を生きる2人の若いゲーマーが、お互い切磋琢磨し、Esportsの世界でキャリアを積もうとする青春ストーリーで、人気若手俳優である鹿晗と吴磊が主演を演じている。
また、ドラマの名前でテーマでもある「CrossFire」は、韓国発でテンセントが運営する実在のゲームだ。FPSと言われる一人称視点シューティングゲームであり、中国国内において人気が高く、Esportsのオリンピックと形容されることもあるWorld Cyber Gamesにも、正式競技種目として複数年に渡って選出されている。
さて、中国において、Espotsを取り巻く環境は、ここ近年で目まぐるしく変わっている。以前は一部の「オタク」だけのものだったEsportsが、あらゆる人にエンターテインメントとして消費されるようになっている。実際にEsportsをテーマとしたドラマは、これが初めてではなく、2019年には「全職高手」「親愛的、熱愛的」といったドラマが、Esportsを題材にしている。前者は放送開始から24時間で1億再生を超え、後者は2019年を通して合計で89億回再生されたというのだから、社会的な注目度の高さが伺えよう。
注目度の高さはこんなところからも伺える。Weiboが昨年末に開催した2019年の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」を決める投票では、女性から圧倒的人気がある王一博や迪麗熱巴といった中国人ならば誰もが知るトップ芸能人を抑え、一位に輝いたのは、「League of Legends」のプロ選手であるUzi(簡自豪)だ。日本ならば、サッカー選手や野球選手がこの類のランキングにランクインすることは想像できるが、Esports選手が載るのは、現状考えにくいのではないのではないだろうか。とはいえ、Esports選手の認知度が高くなっていれども、その商業価値はまだまだ芸能人やスポーツ選手に及ばないとの見方もある。
UziのようなEsports選手は、今や中国政府も認める正式な職業の1つだ。去年4月1日に、人力資源社会保障部が公表した新しい職業の中に、Esports選手及びEsports運営者が選出された。同部は、今後5年で約200万の関連人員が必要になると予測している。
以下は、Esportsの産業チェーンをまとめた図であるが、試合のテーマとなるゲームを開発する企業、実際に試合に参加するプレイヤー及び所属クラブ、試合の執行に携わる運営者や会場経営者、試合をもとにコンテンツを作成する企業、そのコンテンツを流す各種メディアやライブストリーミング会社など、多くのビジネスが関わってくるため、200万という数字も現実的にありえなくはないだろう。
また、Esportsは、教育需要も生み出している。将来のプロ選手を育成するための専門学校は、大都市を中心に、全国に展開されている。学生は、一流プレイヤーの指導のもと、実戦と理論を両方学び、自分のスキルを高めていくのだが、それだけでなく、試合の際に襲いかかる巨大なプレッシャーに打ち勝てるように、メンタルコントロールの授業を提供する学校もある。ちなみに、Esportsと言っても、様々な種目、つまりゲームがあるため、学校によっても、学べるゲームが異なる。
その他、上海体育学院には、スポーツ解説者のように、Esportsの試合を解説する人員を育てるための専攻が、上海戲劇学院には、Esportsの舞台設計を学ぶ専攻があるなど、決して表舞台に立つ選手だけではなく、裏方を育成する教育機会も、数とバリュエーションともに年々増えてきているようだ。
さて、今回はドラマ「CrossFire」の大成功を例として、中国におけるEsportsの社会的普及について触れた。ちなみに、テンセントは「CrossFire」以外にも、上でも紹介したUziが活躍する、中国で最も人気のあるEsportsリーグ「League of Legends Pro League(LPL)」を題材とした、別のドラマも現在制作中だ。ますます盛り上がるEsports業界、今後どこまで中国社会に根付いていくか、見守っていきたい。
文/邵 鴻成(Kousei Sho)