中国アニメ映画「羅小黒戦記」日本での興行収入が中国アニメの海外興行新記録を更新
要点
①興行収入(5.6億円)が中国アニメの海外興行新記録を更新
②国内での展開する国潮アニメ映画、海外で人気な本作との違いとは?
③中国アニメの今後に関する考察
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1、話題を呼んでいる映画「羅小黒戦記」とは
ここ最近中国国産アニメ映画が日本で話題を呼んでいる。一部劇場では連日満席で、予約待ちとなっているそうだ。中国アニメは国内で人気になることはあっても海外進出するケースすら珍しかった。しかし、中国アニメ映画「羅小黒戦記」が日本での興行収入で5.6億円という莫大な数字で中国アニメの海外興行新記録を更新した。本作を見て中国アニメ業界を知った方も多いのではないだろうか。でははじめに、中国アニメ映画「羅小黒戦記」とはどんな映画なのかを軽く紹介したい。
シリーズ原作は映画の原作者MTJJの漫画とWebアニメだ。中国では2011年からアニメ放送が開始され、猫の羅小黒(ロシャオヘイ)と人間の女の子小白の日常を描いたもので、ほのぼのした会話やタッチの可愛さから人気を博し、映画化することになったそうだ。アニメ版は、Youtubeでも更新されていて、一部日本語字幕もついていたり、中国語表現が簡単であるので中国語初級者にもおすすめの一作。是非一度見てみてほしい。(詳しくは以下のYoutubeリンクより*一部著作権上の問題で見れないので中国動画SNSのBilibiliで閲覧可)
ⅰ、劇場アニメ映画版が日本で人気なわけ
劇場アニメ映画版は、アニメ版とは内容が全く異なる。映画版は自然と人間及び人間と妖精との共生を描いたもので、日本では2019年9月より字幕版が、2020年11月より日本語吹き替え版が公開された。本作は日本での大ヒットを受け延長も決定している。ヒットした要因は、①日本語吹き替え版の声優陣の豪華さ、➁SNSでの宣伝効果、Twitterでの派生、➂キャラクターや絵が受容しやすい、➃国産アニメ歌手の起用、というこの4点だと考察する。
あらすじ(公式の紹介文よりhttps://luoxiaohei-movie.com/#intro)
人間たちの自然破壊によって、多くの妖精たちが居場所を失っていた。森が開発され、居場所を失なった黒猫の妖精、羅小黒(ロシャオヘイ)。そこに手を差し伸べたのは同じく妖精の風息(フーシー)だった。フーシ―はシャオヘイを仲間に加え、住処である人里から遠く離れた島へと案内する。その島に、人間でありながら執行人である無限(ムゲン)が現れる。フーシ―たちの不審な動きを察知し捕まえに来たのだ。戦いの中シャオヘイはムゲンに捕まってしまう。なんとか逃れたフーシ―はシャオヘイの奪還を誓い、かねてから計画していた「ある作戦」を始める。一方、ムゲンはシャオヘイとともに、人と共存する妖精たちが暮らす会館を目指す。シャオヘイは新たな居場所を見つけることができるのか、そして、人と妖精の未来ははたして・・・
①声優陣は花澤香菜をはじめ豪華メンバー
名前を挙げていくと、シャオヘイ(花澤香菜)、ムゲン(宮野真守)、フーシー(櫻井孝宏)、シューファイ(斉藤壮馬)、ロジュ(松岡禎丞)、テンフー(杉田智和)、シュイ(豊崎愛生)、ナタ(水瀬いのり)、館長(大塚芳忠)、花の妖精(宇垣美里)ととても豪華なメンバーが並んでいる。もともと9月公開時には、一部の映画館のみで海外の中国人に向けた実験的な放映だったのに対し、ヒット後には放映が決まった日本語吹き替え版はその本気度がうかがえる。ちなみに、中国語版は声優さんが劇中歌も歌っているので一つの推しポイントと言える。
声優さんあんまり詳しくないよという方はこれならわかりやすいのでは? 大ヒットした「鬼滅の刃」の声優からも多数出演していて、主役級ばかり。
甘露寺 蜜璃(花澤香菜)
冨岡 義勇(櫻井孝宏)
嘴平 伊之助(松岡禎丞)
悲鳴嶼 行冥(杉田智和)
鱗滝 左近次(大塚芳忠)
➁SNSでの宣伝効果、Twitterでの派生
中国アニメがこれまで海外で人気にならないのには、プロモーションの弱さもあったが、本作はSNSでのプロモーションに加え、日本アニメ界の各所が口コミをしたことで徐々に人気となっていった。いまではアニメ・映画視聴だけでなく、二次創作、音読、中国版漫画購読、グッズを利用した(ちなみに中国アニメはグッズ販売はかなり不得意)コスプレなどの広がりも見せており、その人気度がうかがえる。有志の翻訳者もTwitter上には多く、映画監督がWeiboで発言した内容はすぐさま日本語にも翻訳されアップされ熱のこもったコアファンが非常に多い。これらのSNSでの予期せぬ拡散が、日本でヒットした主因といえるだろう。
関連リンクはこちら
公式Twitter
中国語アフレコに関して:(初志さんに掲載許可いただきました、アフレコメンバーのみ可能なそうです。興味のある方は連絡してみてください)
24節季シリーズ:
羅小黒戦記 FAN WIKI:
漫画:日本でもAmazonや内山書店で購入可能 その他二次創作は個人アカウントのため不掲載とさせていただきます。
➂キャラクターや絵の親しみやすさ
言わずもがなであるが、羅小黒(ロシャオヘイ)がとても可愛い。愛らしさに溢れたキャラクターで、話し方もかわいい。他にも絵のタッチや声が可愛く、誰でも好きになるのは間違いない。また、中国要素もそこまで強くはなく、監督が日本アニメの影響を受けていることも加え、日本人でも親しみやすい。では、子供向けのものなのか、と問われれば、そうではない。前述のとおり、自然と人間及び人間と妖精との共生を描いた内容になっており、考えさせられるものは多いため、大人から子供まで楽しめる内容になっている。筆者が映画館に訪れた際も、大人の多さには驚かされた。
➃国産アニメ歌手「周深」/「LMYK」さんの起用
ここは、少しコアな部分になるので読み飛ばしてもらって構わない。中国の国産アニメには必ずと言っていいほど、「周深」の名前がある、日本でもファンクラブがあるくらいで、意外と日本でも知られている歌手だ。彼は「国産動漫歌手」と呼ばれていて、映画の曲を歌うと必ずヒットするとも言われ、映画には欠かせないピースとなっている。たとえば彼が歌ったものに、大魚海棠の《大魚》、昨日青空の《来不及勇敢》、大護法の《不說話》、姜子牙の《请笃信一个梦》、千と千尋の神隠しのいつも何度でもをカバーした《親愛的旅人啊》などがあり、彼を採用した映画は例外なく成功している、と言っても過言ではないほど。今回の映画のキャッチコピーは彼が歌う曲名にちなみ「不再流浪」とも呼ばれており、火付け役となったのは間違いない、初めて聞いた人は男の人が歌ってるとは思いもしなかったのではないだろうか。他にも若者に人気で古典ドラマの曲で大人気の周筆暢の《走過世界每個角落》や去年Tiktokでバックミュージックに何度も使われ、抖音での再生回数50億回を超えた「下山」など話題になりそうな曲が多数ある。ただ、この映画がすごいのはそれだけでない、日本語版では、今大ブレイク中のLMYK さんが歌う「Unity」が映画のイメージにピッタリだったりと全体的に曲へのこだわりが強い。「周深」とLMYKさんに共通するのは声が澄み渡っていて、感動させることができる点だろう。是非聞いてみてほしい。
劇中歌 リンク(Yotube/ameba利用)
LMYK 『Unity』:日本語吹き替え版主題歌
羅小黒戦記の中国語曲まとめ(筆者作成)
周深 《不再流浪》
周深まとめサイト(筆者作成)
抖音ヒット曲『下山』
周筆暢《走過世界每個角落》
雙笙《容身之所》
2、これまでの国産映画との違いとは?
中国国内で人気のある、いわゆる「国潮映画・国風映画」とは大きく異なる。中国国内では興行収入トップの映画「哪吒の魔童降臨」、「大魚海棠」、「姜子牙」は中国人であればだれもが知っている神話を題材として扱ったこと、最先端技術を駆使し非常にクオリティーが高いことを要因として人気を集めた。特に「哪吒(Ne Zha)」は、チケット売り上げ枚数が歴代2位の49.3億枚、興収は約766億円と空前の大ヒットを記録している。しかし、国風映画が題材とするのは「中国人になじみがあるもの」であり、あまり外国人にピンと来るものではなかった。そのため、いくら中国アニメのクオリティーが高かろうが、海外でヒットするは難しかった。しかし本作は外国人でもなじみやすい題材であり、かつ中国要素はそれらに比べるとかなり少ない。そのため、日本での成功を収めることができたのではないだろうか。
3、中国アニメの今後
まず、本映画に関して言えば、今回ヒットした場所はあくまで「日本」である。中国の文化とは比較的近い地域であるため、師弟関係などのシーンも儒教の思想を理解している日本人には親しみやすいものだった。海外での歴代最高記録といってもあくまで日本でのヒットであり、今後英訳がされたり、他国での放映がされていくか、などについては非常に気になるところ。4年後公開の噂がある続編は日本以外でも放映することをひそかに期待している。今後、アニメや漫画を通じて日本文化が伝播していったように、サブカルを通じて中国文化は海外に広まっていくことが期待される。アニメ映画「羅小黒戦記」はまさに、その第一歩となっただろう。
アニメ業界に関して述べると、昨今、日本では、中国アニメの進化を目の当たりにして、日本アニメの危機や人材流出の危機などと叫ばれている。クリエーターの中にもそういった反応があったかもしれない(中国のレベルが高いのは、今回の件より前に知っていた方のが多いだろうが)。映画を見ればわかるように、中国のアニメーション制作技術は非常に高く、すでに模倣段階を終えて、独自制作を可能としている。中国アニメが最先端に追いついてきたのは別に今に始まったわけではない、一般人が中国アニメが猛烈な発展を遂げたのに気づけなかったのは、中国産アニメが2章で述べてきた要因によってなかなか輸入されてこなかったからだろう。アニメや漫画は日本で生まれたカルチャーであるが、今後は、反対にコンテンツの受容地になる可能性すらある。では、果たしてこの経過から脅威論に結びつける必要はあるだろうか?更なるアニメ・漫画の発展に向け合作を行っていけば業界の発展につながっていくだろうし、人材の引き抜きにしても、世界中で行われていることであり、むしろ引き抜かれてしまう原因の方に目を向けた方がいいのかもしれない。最後に、日本のアニメ産業の更なる発展や、今後の日中合作にも期待しています。
追記
中国語サイトでこのような記事もあったので合わせて紹介。要因分析は筆者のものとは異なりますがこれはこれで面白いので。
文/Tagawa Taichi
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