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もう二度とあなたを失くせないから - 『恋人ごっこ(マカロニえんぴつ)』を聴いて

Music Novelize Project 5th song
今日紹介する曲 : 恋人ごっこ sung by マカロニえんぴつ

曲の世界観を物語で紹介する
【Music Novelize Project】
毎回難産なこの企画ですが、第5弾の今回は割とすらすら書けました。
あまりの神曲さに衝撃を受けて、一瞬で好きになったからかもしれません。

歌詞が最高で。

PVの世界観も素敵で。

まるでひとつの物語を読み終えたような気持ちになりました。

【Music Novelize Project】3つのルール
1.曲から思い浮かんだ情景を物語に
2.歌詞の表現は7割程度が目標
3.曲が終わるまでに読める長さで

このルールに沿って、今回はPVの内容を再現するように書いてみました。

イントロ

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…….まったく、なんであいつの方が泣くんだよ。

別れの瞬間、彼女が流した涙。
少し経った今でも、折にふれて思い出す。

今日は、大通りに出ようとして、この土手に来てしまった。彼女の家に行くときに、いつも通っていた道だ。
「やっぱり、ここに来ると思い出しちゃうなぁ」
諦めにも似た声が頭に響いて、自分自身をあざ笑う。

彼女の泣き顔が頭から離れなかった頃に比べたら、少しずつマシになっているはずだけど、それでも、彼女を忘れられる日が本当に来るのかと思ってしまう。

出会ってもうすぐ2年、別れた日からまだ半年しか経ってない。いや、付き合った訳でもないのに、別れたと言えるのだろうか。

忘れていいのはいつからで
忘れたいのはいつまでだ?

もう二度とあなたを失くせないから

「あれー?こんなところで何してるのー?」

家の最寄駅のコンビニで、馴れ馴れしい声がする。振り向くと、よく知った顔が立っていた。
「あれ?汐梨さんじゃないですか。なんで?」
「こっちのセリフだよ!私はこの近くにすんでるの。もしかしてはっとりくんも?」店内に響き渡るような大声で、彼女は言う。
「はい、住んでるのは駅の反対側ですけど。てか俺以外でこの街に住んでる人、大学入って初めて見ました」
「反対側だから今まで合わなかったのか。私も初めて見たよ!ほんと、びっくりした〜」

大学に行くまでに、2回電車を乗り換えなきゃいけないこの街に住んでいる学生は、実際ほとんどいない。
大学の最寄りに住むと、家が友人のたまり場になるとはよく聞く話だ。それを恐れた僕は、誰も知らないこの街で休日を謳歌するつもりだったのに。……でも少し、嬉しい偶然かもしれない。

「はっとりくんはひどいよね〜。春にあれだけ奢ってあげたのに、結局うちのサークルに入ってくれなかったんだもん」コンビニを出た僕らは、周りに気にすることなくのびのびと言葉を交わす。
「確かに新歓期はお世話になりました。でもね、もうその言葉は効きませんから。そうやって言うから期末の試験範囲教えてあげたんでしょ?」
彼女は不満そうに「え〜」と言って頬を膨らませる。
「だいたい、汐梨さんは2年生なんだからこの授業2回目でしょ?教えてほしいのはこっちの方なんですからね」
「いや、だってあの授業毎年テストの問題違うし」今度は少し縮こまって、彼女は答える。
「じゃあ、なんで授業全然来なかったの?」
「いや、だってここ大学まで遠いじゃん」
「ふははっ」思わず笑ってしまう。さっきから言い訳にもなっていない。実家と大学の間にあるからこの街を選んだと、さっき言っていたはずだ。

「とにかく!また飲みに行こうよ!せっかくこの街に住んでいるもの同士、仲良くしようではないか!」そう言って彼女は僕の背中を大げさに叩く。もうほとんど無い先輩の威厳を、なんとか保とうとしているらしい。
「そうっすね。いつでも呼んでください」
「そうこなくっちゃ!後期の授業も助けてもらわないといけないしね!」
「ちょっと待って、まさか後期も授業一緒なの?」
「まぁまぁ、仕方ないからまた奢ってあげるよ!じゃあね、ばいばーい」
そう言って足早に去っていく彼女を、呆れた笑顔で見送る。頬に触れて、呆れながらも笑っている自分に気づいた。彼女とのやりとりは楽しくて、思わず笑ってしまう。

駅を越えて、ひとり家に帰る。
優雅な休日を過ごす為に選んだ、落ち着いていて、そして退屈なこの街が、今日はいつもより賑やかに見えた。

***

中学に入った時も、高校に入った時もそうだった。なんで、たった1〜2年早く入学しただけなのに、先輩ってこんなに輝いて見えるのだろう。

汐梨さんは底抜けに明るくて、なれなれしくて、どう考えても計算されたあざとさがある人だった。
けれど僕を含めた新入生はみんな彼女に騙されて、彼女に会う為にサークルに顔を出して、そして彼女に恋人がいると知って絶望した。

既に社会人らしい彼女の恋人のことを思うと、慣れないビールを無理して飲んでいた僕自身が、ひどく幼く感じられてしまう。

結局僕が居ついたのは他のサークルで、そのことに彼女は関係ないつもりだけど、実際はどうなのか分からないでいる。

***

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「今日の夜飲みに行こうよ」

あれから数日して汐梨さんから連絡がきた。
ふたつ返事でOKした僕は、駅前の居酒屋で彼女と落ちあった。

……そして、気づいたときには彼女の家で朝を迎えていた。

「う〜ん」

にぶい頭のまま、なんとなく見覚えのある台所で水を飲み、置いてあった缶コーヒーを開ける。

物音に気づいた彼女の起きる音が、リビングから聞こえてきた。
「そっか。はっとりくん昨日うち来たんだもんね」
そう言って服を着る彼女の目はうつろで、やけに湿ったシーツだけが、昨日何があったのかを覚えているみたいだった。

「あれ?コーヒー飲んじゃった?」彼女は空き缶に気づいて言った。
「あ、ごめんなさい飲んじゃいました」
「ううん。いいの、これ彼がここに来るといつも置いていくんだ」
そう、彼女には恋人がいる。改めて突きつけられた事実が重たくて、「新しいの買ってきます」と言って、部屋を飛び出した。

自転車で近くの自販機へ行き、コーヒーを3本買う。汐梨さんとその彼氏と、そして僕の分。
浮かれてはいけない、汐梨さんには彼氏がいる。これはひと晩の過ちってやつなんだろうと、自分に言い聞かせた。

アパートに戻ると、汐梨さんはベランダで洗濯物を干していた。彼女にコーヒーを投げて、部屋に戻って乾杯する。
洗濯物を一緒に干しながら、彼女はシーツを頭から被せてきた。その中で、僕らはキスをする。

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洗剤の香りのするシーツの中で、コーヒーで冴えた頭で……昨晩を覚えているものはもう何もないのに、どうにもならない2人だと思った。

***

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それからたびたび、僕は彼女の部屋に行った。
彼女は寂しい夜に決まって連絡をよこして、僕は「もう一度だけ」と彼女に会いに行き、寂しさを募らせた。

けど、あの時はそれで良かった。
彼女と一緒にいれるなら、恋人ごっこで構わなかった。

去年の夏、そんな僕たちの関係が始まって1年が経とうとしていて、そして僕はそれに耐えられなかった。
彼女と過ごした思い出は増えても、2人の関係に名前をつけることができないことが、たまらなくやるせなかった。

別れの瞬間、彼女が流した涙。
彼女に取って僕は、忘れてもいい存在なはずなのに。
彼女を忘れたい僕の心に、あの涙がずっと残っている。

・・・

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ふたりで歩いた土手。
やっぱり、ここにくると彼女のことを思い出す。
でも彼女のことで思い出すのは、身体やキスの感触だったり、表面的なことばかりだ。
大切な話なんて、ひとつもできなかったからな。

恋って最初はなんとなく好きになっても、心を通わせながら想いを確かなものにしていくものだと思う。

でも恋人ごっこの僕に、彼女の内面に踏み込む勇気はなかった。
フられるのが怖くて、愛を伝えることすらできなかった。

それでも、表面的な思い出しかなくても、彼女のことを忘れられないでいる。
それならこの思い出を抱えて生きていくしかないんだろう。

ひとり自転車を漕ぐ土手の上。
彼女のことをできるだけ鮮明に思い出してみる。

もし時間が巻き戻って、もう一度あなたといられるのなら、今度はちゃんと愛を伝えよう。
あなたへの想いが報われることはないだろうけど、もう二度とあなたを、あなたとの思い出を失くせないなら…言い訳じみた言葉は捨てる、ふたりの未来も少しずつ諦める。そして正面から彼女と向き合おう。
あなたとの思い出を抱えても、前を向いて歩き出せるように。

あんなに忘れようとしていたのに、呆れるほどはっきりと彼女の姿が頭に浮かんだ。まるで懐かしい場所に帰ってきたような気持ちになる。
あまりに脆かった彼女との日々、その記憶を抱きしめて、僕はもう一度彼女にさよならを告げた。

ただいま。さよなら。

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今日紹介した曲

『恋人ごっこ』

歌 マカロニえんぴつ
作詞作曲 はっとり

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「ねえ、もう一度だけ」
を何回もやろう、そういう運命をしよう
愛を伝えそびれた
でもたしかに恋をしていた
恋をしていた
***
缶コーヒーで乾杯
シーツは湿って どうにもならない二人だ
言う通りにするから、
恋人ごっこでいいから
今だけ笑っていてほしい
・・・
余計な荷物に気付くのは
歩き疲れた坂道だ
忘れていいのはいつからで
忘れたいのはいつまでだ?
・・・
「ねえ、もう一度だけ」
を何回もやろう、そういう運命でいよう
愛を伝えそびれた
でもたしかな恋をしていた
恋をしていた
***
無駄な話に頼るのだ
隠し疲れた罪を運ぶため
忘れていいのは君なのに
忘れたいのは僕だけか
・・・
「ねえ、もう一度だけ」
もう無しにしよう?そういう運命を取ろう
愛を伝え損ねた
またこんな恋をしてみたい
恋をしてみたい
***
裸や、撫で肩や、キスや乾かない髪
もう一度あなたと居られるのなら
きっともっともっとちゃんと
ちゃんと愛を伝える
もう二度とあなたを失くせないから
言葉を棄てる 少しずつ諦める
あまりに脆い今日を抱き締めて手放す
・・・
ただいま さよなら
たった今 さよなら

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だいきです。 サポートしてくれたら嬉しいことこの上ないです。 もっと頑張れます!