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わたしの機嫌は、わたしがとれるようになったの - 『とびきりのおしゃれして別れ話を(SHE IS SUMMER)』を聴いて

今日紹介する曲 『とびきりのおしゃれして別れ話を』 sung by SHE IS SUMMER

2020/01/19 作成

曲の世界観を物語で紹介する
【Music Novelize Project】
第4弾は最近Spotifyを聴くようになって知ったこのアーティストから。

年末に断捨離の記事を投稿したこともあり、今回は恋人を断捨離する話です
彼女にとっての写真だったり、僕にとってのnoteだったり…「創作を通して、心が自由になることもあるなぁ」と思って書きました。

【Music Novelize Project】3つのルール
1.曲から思い浮かんだ情景を物語に
2.歌詞の表現は7割程度が目標
3.曲が終わるまでに読める長さで

今回もこのルールで、3は難しいから最近は気にしてません。

イントロ

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「いい匂〜い」

目の前にはお気に入りのお店のラーメン。
輝くスープに、炙られた焼豚と柚子が香ばしい。
ひと口食べて「写真を撮っておけば良かった」と後悔した。

寒い季節はラーメンが美味しい。
冷え切った身体を慣らすように、ゆっくりとラーメンを食べる。…ひとりで。

誤解のないように言っておくけど、わたしは普段からおひとり様でラーメン屋さんに入れるタイプの女じゃない。今日だって、久しぶりにきた。
そもそも、このお店は女性に人気で雰囲気も良くて、女性の1人客だってちらほら居るんだから。

それでも、こんなに気合の入った格好でラーメンを食べているのはわたしぐらいかも。
スープを口に運びながら、今日の彼の表情を思い返す。

…ぽかーんとしてたな。
思い返して少し笑っちゃう。

なんだか久しぶりだった。
わたしの言動に、ころころ表情を変える彼を見るのは。

…そう、久しぶり。
ラーメンを食べるのも久しぶり。最近は我慢してた。でも、もうその必要もない。
なんだか空っぽな心と身体に、分厚い焼豚がずっしりと響く。

わたしの機嫌は、わたしが取れるようになったの

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…うん、間違いない。今日はメイクのノリがいい。
早起きして、半身浴とマッサージをしたおかげかも。化粧水はすっと肌に馴染むし、下地もさらりと肌にのってくれる。

ノリノリで、それでいて入念にメイクをする。いつもより少しだけ発色の良いリップを塗って、わたしの機嫌はますます良くなる。

上機嫌の理由は、初売りで買った真っ赤なワンピース。シルエットもメリハリがあって可愛い。
このワンピースを可愛く着るために、今日のわたしはあると言ってもいいぐらいだ。

その勢いのままヘアセットも済ませる。
ふわふわにした髪を、ラフにひとつ結びにしたヘアスタイルは、わたしと、そして彼のお気に入りだ。

ブラウンのジャケットを羽織って、準備は万全。

さぁ、とびきりのおしゃれをして、これから別れ話をしにいこう。

・・・

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1月も5日になれば、明治神宮も割とすんなり参拝できる。
それでも、境内には“まったり”と“そわそわ”が同居した年始独特の空気が漂っていた。
「絵になるなぁ」と思いカメラを構える。その空気感ごと切り取るように、シャッターを押す。

「久しぶりのデートに、初詣に行かない?」と、誘ったのはわたしからだった。

去年のクリスマス、わたしたちは会わなかった。
去年はイブも当日も平日だったこともあるけど、昔の2人なら短い時間でも会っただろう。
特に「クリスマスの代わり」と示し合わせた訳ではない12月中旬のデートが、2人が会った最後になっていた。

おまけに、わたしが年末にインフルエンザに感染し、昨日まで実家に引きこもっていたこともあり、今日になってほとんど1ヶ月ぶりに会う都合がついた訳だ。

付き合ってもうすぐ4年。
最近の彼は、あまりわたしを見てくれなくなった気がする。
最近はデートに誘うのも、話をするのも、いつもわたしの方からだ。

そんな彼だから、この赤いワンピースに気づいて「珍しいね」と言ってくれた時は、びっくりした。

・・・

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「かわいい〜」
レトロなイメージのあるウインナーコーヒーだけど、このお店のはクリームが丸くツイストしてあって、可愛らしく仕上がっている。

初詣を済ませたわたしたちは、その足で近くのカフェに寄った。

はしゃぎながら写真を撮るわたしに「楽しそうだね」と、彼は笑って言った。
「なんか、今日はすごくいきいきしてる。何かいいことあった?」

いいこと…あったように見えるのかな?
わからない。でも、言うならこのタイミングしかないと思った。

「あのね、話があるの」

***

どうして彼みたいに素敵な人が、わたしなんかを選んでくれたのか、わからなかった。
友達に聞いた彼のタイプは、わたしとはかけ離れているのに。彼が過ごす毎日は、わたしには想像もつかない面白そうなことで溢れているのに。

でも、とても嬉しかった。
憧れの彼の隣にいれるんだ。わたしの小さな悩みなんてどうでも良かった。

そんなことよりも、彼にふさわしい女の子にならなきゃ。
彼からの告白を受けた4年前のあの日、わたしはそう決心した。

その時から、ずっと頑張ってきた。
彼が好きなモデルさんを意識して、メイクも勉強したし、落ち着いた服を選ぶようにもなった。
多趣味な彼の会話についていくのも、大変だった。

彼に飽きられないように、ほとんど必死だった。
でもそれが、すごく楽しかった。
彼の笑顔を見るたびに、わたしは、わたしのことを好きになれたから。

***

「美味しかった〜」

ラーメンを食べてぽかぽかに温まったから、夜道も気持ちが良い。
なんだか、今日は案外良い1日だった気もしてきた。

…でも、実際。今日は楽しかった。
彼の前で、あんなに素の自分でいられたことなんて、ほとんどなかったんじゃないかな。

駅のホームで、今日撮った写真を見返す。
昨年の秋に、このカメラを買った。
2人の姿をたくさん形に残せば、少しでも彼の心を引き留めておけると思ったから。

でも、カメラはわたしに意外なものをくれた。
写真を撮り始めてから、日常の何気ない風景にも心が動かされるようになった。そして、そんな自分の心にもよく耳をすませられるようになった。
写真を通じて、出会えた人もいる。想像以上にたくさんの人たちが、わたしの写真をいいねと言ってくれる。

そうして、自分の好きな服を着て、自分の心を大切にしているうちに、わたしの機嫌は、わたしがとれるようになったの。
彼が保証してくれなくても、わたしの毎日は素晴らしいって、思えるようになったの。

今日の彼を見て、わたしたちはまだ大丈夫な気もした。今も彼への気持ちは変わらない。
でも、このままだと、また彼に頼ってしまう。わたしの価値が、自分で分からなくなってしまう。
だから、バイバイするの。

どう?
ちょっとだけ、もったいない恋でしょ?

いつの間にか届いていた彼からのメッセージ。
4年弱の感謝を、短く伝える彼の言葉に、わたしも「ありがとう」と返す。

送信の表示をタップして、空を見上げる。
白い吐息とともに、言葉が漏れた。

「バーカ…」

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今日紹介した曲

とびきりのおしゃれして別れ話を

歌 SHE IS SUMMER

作詞 MICO・ヤマモトショウ 作曲 釣俊輔

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ねぇ今日はラストデー wake upは入念
メイクまで全部 break upのため

あなたの好きなら全部もう知ってるから
最後に気付いてね今のわたしに

とびきりのおしゃれして別れ話をしに行こう
いつもとかいつかより今日を思い出してね
とびきりのおしゃれして別れ話をしに行こう
ちょっとだけ ちょっとだけ もったいない恋でしょ?
じゃバイバイ

ねぇ今日のラストデート time upで終点
態度まで全部 move upのため

わたしの事なら全部もう知ってるとか
勘違い気付いてね今のわたしで

とびきりのおしゃれして別れ話をしに行こう
最初とかいつかより今日を思い出してね
とびきりのおしゃれして別れ話をしに行こう
ちょっと今 ちょっと今 後悔とかしてる?

とびきりのおしゃれして別れ話をしに行こう
ちょっとだけ ちょっとだけ もったいない恋でしょ?
でもバイバイ

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だいきです。 サポートしてくれたら嬉しいことこの上ないです。 もっと頑張れます!