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君色に染まる僕だけど - 『Wish(嵐)』を聴いて

今日紹介する曲 『Wish』 sung by 嵐 

2019/12/04作成 2019/12/07最終更新

曲の世界観を物語で紹介する
【Music Novelize Project】
第3弾は嵐から。僕の冬ベストにも入っている1曲です(冬ベストのリンクは下に張りました)。

来年いっぱいでの活動休止を発表した嵐。
彼らは僕らの青春の一部です。

【Music Novelize Project】3つのルール
1.曲から思い浮かんだ情景を物語に
2.歌詞の表現は7割程度が目標
3.曲が終わるまでに読める長さで

この物語はフィクションです。

1.イントロ

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🎶



「うーん…」

アラームを止めて目を開ける。
カーテン越しに入ってくる光は限りなく弱く、部屋は暗い。時間の経過を感じさせるのは、朝の時間に設定したアラームだけだ。
夏は日の光を感じて自然に目が覚めるけれど、冬の目覚めは鳴り響くアラームによって強引にもたらされる。おかげで気分は良くない。おまけに布団の外はこの寒さだ。

それでもなんとか起き上がってライトをつける。
シャワーを浴びてストレッチをし, コーヒーを淹れる。
ソファに腰掛けコーヒーを飲むうちに、気分の高揚を感じた。髪をセットしながら、最近話題のバンドの曲を口ずさんだりもしている。よく知らないから音はズレてるけど。

ミルクを入れた2杯目のコーヒーを流し込み、家を出る。
外は室内よりもさらに寒いが、お気に入りのコートが活躍するからよしとしよう。足早に駅へ向かう。

1時間ほど電車に揺られ目的地へ。イヤホンでは、さっき口ずさんだバンドが正確なリズムを刻んでいる。
駅ビルの大きな本屋に立ち寄って、本を見るわけでもなくゆっくり歩く。歩きながら、頭の中を整理する。

そうして、自然と笑顔になる。
突然舞い込んだ幸運。今日は僕が待ち望んだデートの日だ。

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待ち合わせの時間に少し遅れて、彼女はやってきた。
毎度のことだから慣れている。待ち合わせの時間に、ちょうど着くような電車を選ぶ人なのだ。

誘ってきたくせに遅れてきた彼女は、ついでに今日のプランも全く考えてきていなかった。
「なにしたい?」って聞いたら、「うーん。明日仕事だから早めに寝たい」と、それだけ言う。
「なんだよそれ」と笑って突っ込むものの、そんな彼女にも慣れている僕は、華麗に今日のプランをいくつか提案する。仕事仲間に聞いた、いかにも同世代の女性が好きそうなコンテンツたちだ。

「あ!それ!行ったことなかったんだ。そこにしよう?」と、彼女が即決して、僕たちはとあるカフェに来た。
インスタに映える派手なメニューや内装があるわけじゃないが、オーガニックの食事が自慢で、落ちつく雰囲気のお店だ。
僕はキーマカレーを注文した。雑穀米の上に野菜たっぷりのルーがかけられていて、どこまでも身体に良さそうなカレーだけど、スパイスがしっかり効いていて美味しい。

目の前の彼女は注文したパンケーキを上機嫌で食べている。よくもそんな甘そうなものを、ご飯として食べられるよなぁって思うけど。
どんどん消えていくパンケーキに反比例するように、彼女の機嫌は上がっていく。鼻歌まで飛び出した。

「あ、それドラマのやつ?」

「お!よく分かったね!この曲好きなんだ」
言い当てられて、彼女はますますご機嫌になる。

彼女がSNSで好きだと言っていた曲。予習してきてよかった。

・・・

彼女は大学1年生の時に出会ってから、お互い社会人になった今日までずっと、いわゆる「今どきの女の子」って表現が似合う人だ。
生まれも育ちも東京で流行に敏感, 好奇心旺盛な彼女は、進学を機に田舎から上京してきた僕にとって、眩しいぐらいにきらきら輝く存在だった。
結構規模の大きなサークルで一緒だったのだけれど、彼女の存在はいつも目立っていた。彼女は人気者だった。

そんな彼女に近づこうと、流行りのカフェやアーティストについて勉強したこともある。
そうして、彼女に導かれるように好きになった物事が、今の僕の一部を作っている。

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カフェを出た僕らは、彼女の希望で買い物をしてから、毎度お決まりの居酒屋に向かう。
途中、イルミネーションを横目に見た彼女の「そっか。もうすぐクリスマスか」と呟く声が聞こえたけれど、その足が止まることはなかった。

お決まりの店で、僕たちは決まって仕事の話になる。
仕事の話と言っても、ほとんどは彼女の愚痴だ。
彼女は出版社で女性誌を作っている。大きな出版社は大変なのだろう。今日も彼女は、若手はなかなか企画が通らないと嘆いている。

そんな彼女に、優しい声をかける。
僕はwebメディアのライターとして働いていて、そこでは彼女の出版社とは対照的に、新人の頃からどんどん記事を任された。自分の無力さに苛まれながら、悪戦苦闘の日々を送っている。

社会人になってもうすぐ2年。毎日仕事に追われていると、どうしても話のネタも仕事関係になってしまう。
だから、こうして仕事の愚痴を言い合える同業者の友達は貴重だ。大学時代は彼女と2人で会うことのなかった僕だけど、こうして共通の話題があることで、彼女とデートする資格を得た訳だ。

会話がひと段落して、束の間の沈黙が訪れる。そこで、彼女が次の話題を切り出した。
「連絡が来たの」と言って、彼女は別れた恋人の名前を出す。

僕と彼女を結びつける共通の話題は、実は、もうひとつある。

2.君色に染まる僕だけど

彼女の前の恋人はサークルの同期だった。つまり、僕の友達でもある。

スマートな外見なのにだらしなくて、優しいのに軽率で、そして憎めないやつだった。

大学3年で付き合い始めた彼女たちが、去年別れるまでの2年半に何があったのか、僕はよく知らない。でもあいつとのことだから、しょうもない理由で別れたんだろうと思っている。
そして彼女に届いた「今度みんなで飲みに行こう!」というLINEも、多分何も考えずに送ったんだろう。ちなみに僕にも届いた。

そんなやつのことを、彼女は1年経った今でも忘れられずにいるらしい。
同業者というよりも、あいつと仲が良いという理由で、去年から数回彼女に呼び出されている。
だから今日この日をデートと呼んでいるのは、きっと僕の方だけで、そしてその呼び方は正しくない。
あいつが僕と彼女を繋げる、ほとんど唯一のもので、それはすごく歯痒い。歯痒いけれど、今の僕はその繋がりにすがることしかできない。

今日も結局、彼女に何もしてあげられなかった。
彼女から呼び出されるたびに、彼女の好きそうなお店を探し, 彼女の話を聞き, 優しい言葉をかける。
でも、彼女がそんな僕に振り向いてくれる気配は一向になかった。

***

クリスマスも過ぎた年の瀬、彼女から連絡が来た。
年末恒例の音楽フェスへ誘われたのだ。

先週末のサークルOBの忘年会に、彼女は姿を見せなかった。
まぁ僕はサークルでは男連中とつるんでばっかりだったから、もし来ても話すことはなかったと思う。

僕らの代の幹事だったあいつは、会ったらやっぱり拍子抜けするほど良いやつで、毒気が抜かれてしまった。
最近付き合いが悪いことを咎められたときは「人の気も知らないで」って思ったけど。

そこで、彼に新しい恋人ができたと聞いた。

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本来ジャニーズ系のアイドルを好きな彼女が、フェスに行くのは初めてだそうだ。確かに珍しいと思いつつ、タイムテーブルを見ると、この前口ずさんでたバンドの名前があった。

お昼に駅に集合する。
彼らの出番は夜からだったけど、彼女はせっかくだから最初から見てみたいと言うんだ。良かった、思ったより元気そうで。

本当なら入場するのに抽選が必要なほど人気のフェスだけど、彼女は出版社の取材枠として来るらしい。取材なんてしないのに、役得とはこのこと。

一方の僕はWebメディアで音楽系の記事を主に書いていることもあって、今日も仕事の一環として来ている。普段からアーティストのリサーチは欠かさないし、このフェスに向けて取材もした。
それでも、今日は一観客として思いっきり楽しむつもりだ。彼女と違ってチケットも自力で入手している。

会場に入ると、各ステージから観客たちの熱狂が伝わってくる。
僕らはタイムテーブルとにらめっこしながら、様々なアーティストのパフォーマンスを聴いて回った。
僕は聞かれれば、彼女の興を削がないよう控えめに彼らについて語り、ときに彼女を連れ回した。
彼女はとても楽しそうで、終いにはサークルやモッシュにも果敢に飛び込んでいく。
そして今日の最後、お目当のバンドのパフォーマンスに彼女は黙って聴き入っていた。

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「次はどこへ行く?」
そう言われて、僕は都内のジャズバーに彼女を連れていく。
先ほど聴いたバンドの人気の秘密が、ジャズを取り入れた独特のサウンドにあることを知って感心していた彼女に、僕から提案した。

「初めてちゃんとジャズを聴いたけど、なんかいいね」
彼女にとっては初めてでも、僕にとっては馴染みの場所。フェスの話にはじまり仕事の話や大学時代の思い出話に至るまで、今日は終始僕が会話をリードした。彼女といて、こんなに自分から話をしたのは初めてかもしれない。

「そろそろ帰ろうか?」と聞くと「うん。じゃあもう1杯頼んでからにしよう?」と言われて、僕らは注文と会計をお願いする。

「実はさ、知ってるかもだけど、良くないニュースがありまして…」最後の1杯を飲みながら、彼女がゆっくりとあいつの話を始めた。ここに来てからずっと、この話がしたかったんだろう。
「…それで、少しだけ落ち込んでて、でも今日はすごく楽しくて元気が出た。ありがとう。なんか、男子がみんな君のことを面白い人だって言っている理由が、分かった気がする」
そう言って、君は僕に笑ってくれた。

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駅に向かう帰り道、ここには数日前までクリスマスのイルミネーションが灯っていた。前に会ったとき、横目に素通りした景色だ。

その先にあったツリーを思い浮かべる。
様々な色が重なりあって、ツリーは輝いていた。

僕はずっと、君みたいになりたかった。僕に様々なことを教えてくれて、それと同じ数だけ新しい世界を見せてくれた、君のような人に。
そして、そんな君に近づきたかった。君に会うときは、君が好きそうなお店を調べて, 君の話に耳を傾けた。

でもそれじゃだめだったんだ。
君の色に染まるばかりの僕じゃ、君は物足りなかったよね。
もっと自分だけの魅力を持って、それを磨いて、君の世界に新しい色を足せるような男になろう。
それが、僕が君に似合いの男になるってことなんじゃないかな。

1歩だけ、大きく踏み出す。君より少しだけ、前を歩く。
「また、遊びに行こう」
そう言うと、君は笑顔で応えてくれる。

待ってて。
また来年、街に愛の歌が流れ始めて, イルミネーションの光が灯るとき … 僕は君をきっと、その輝きの中へ連れて行ってみせるから。

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今日紹介した曲

Wish

歌 嵐

作詞 久保田洋司 作曲 オオヤギヒロオ

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街に愛の歌 流れはじめたら
人々は 寄り添い合う
輝きの中へ 僕は君をきっと
連れて行ってみせるよ

恋は届かない時を経験するうちに
強くなって ゆくものだね 切ない胸さえ

君に似合いの男になるまでこの僕に
振り向いては くれないみたい 手厳しい君さ

過ぎてく季節を美しいと思えるこの頃
君がそこにいるからだと知ったのさ
今こそ 伝えよう

街に愛の歌 流れはじめたら
人々は 寄り添い合う
輝きの中へ 僕は君をきっと
連れて行ってみせるよ

やさしい男になろうと 試みてみたけど
君はそんな僕じゃ まるで 物足りないんだね

風当たり強い坂道ものぼって行けばいい
二人で生きてゆけるなら僕が君を守る
誓おう

街に愛の歌 流れはじめたら
人々は 微笑み合う
鐘の音(ね)響く時 僕は君をきっと
強く 抱きしめている

街に愛の歌 流れはじめたら
人々は 愛を語る
輝きの中へ 僕は君をきっと
連れて行ってみせるよ

君を愛し続ける

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冬ベスト


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