人間失格大学生、旅に出た。③【夜の金沢に翻弄される】
金沢駅周辺はそこそこ人がいた。学校帰りか塾帰りかの中高生。カップルやサラリーマン。そんな中私たちは夕食を食べようと街を徘徊していた。私たちの本命は金沢おでん。完全に冷え切ってしまっている今の私の身体にはうってつけだ。わくわくしながら調べておいたおでんの店に向かった。やっていなかった。
まあまあ。こういうことはよくある。ネットではやっていると書いていたが、実際に行ってみれば臨時休業なんてことはざらだ。気を取り直して私たちは次のおでんの店に向かった。今度はおでんと共にお酒も飲める居酒屋スタイルだ。むしろここが本命まであった。やっていなかった。
いったんおでんから離れようと思った。おそらく金沢では日曜日におでんは提供してはいけないのだろう。次の店を探そうと歩いていると看板が異常に光っている居酒屋のキャッチにはなしかけられた。いやいやせっかく金沢に来ておいてビッカビカの居酒屋は入らんだろ。私たちはスルーしてさらに金沢駅から離れた方に歩を進めた。
進むにつれて人とすれ違わなくなり、明かりも少なくなった。目に入るのは非情なまでのシャッター街のみである。
こんなに店ってやってないもんかね?
本気で金沢には時短営業が要請されているのかと思った。スマホの地図に出てくる店はほぼすべて閉まっていた。営業しているはずなのにどの店もすでに閉まっている。もはやすべての店が私たちを入れないように示し合わせているように感じた。
そこから住宅街の方に入って、小さなホルモン屋を見つけた。コンビニくらいのサイズ感でいかにも老舗という雰囲気。中からは常連であろうおじさま方の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。入れなかった。察してほしい。まだまだ私は人間失格のままのようだ。
もーやだーさっきのビッカビカの居酒屋入ればよかったよー。気づけば歩き始めてすでに1時間。いくら遅い時間にラーメンを食べたとはいえさすがにおなかもすいてくる。そんななか飲み屋街のようなものを発見した。当然どの店も真っ暗である。しかし、一軒だけ明かりがついていた。どうやら鶏をメインに出している居酒屋らしく、私たちは雪山で遭難していて山小屋を発見したかのようにその店に駆け込んだ。
そこで食べた鶏料理は非常においしかった。おそらく今まで食べた鶏のなかで一番だった。その店にははじめ、客はほとんどいなかったのだが途中から常連の客が次々に入ってきた。普段は常連がニガテな私だが、この時ばかりは全く気にならなかった。
ホテルに帰って大浴場に向かった。ホテル自体はどれだけぼろくてもいいから大浴場だけは欲しいと思って宿を選んでいた。部屋に戻ってから晩酌をしてその日はすぐに寝てしまった。夜は散歩をしに街に出ようとか言っていたのだが、もう夜の金沢は見飽きてしまっていた。