令和座第8回公演・設立5周年記念作品【∞】を観劇して
こんばんは。
梅雨前なのに早くも猛暑。今年の夏、乗り切れるか不安になってきました。皆様も熱中症にお気をつけて。
かねてより楽しみにしていた、令和座の【∞】を初回と千秋楽の2回観劇してきました。この2回が自分の中で最も集中して堪能できる!と思っていたのですが、今となって、なぜ中日も観にいかなかったのか後悔がでてきました。
【∞】は出演者さんだけでなく、携わった全ての人の熱い想いが凝縮された素晴らしい作品でした。人生においてとても有意義な、楽しい時間を過ごすことができ、本当に心から幸せです。
Xで段々と情報が公開されていくにつれワクワクが募っていくなか、明らかにされた舞台美術。今回の舞台となる廃墟そのものがステージにありました。
過去観劇した【大麻を吸おうよ】【seven】の素の会場を利用したステージは、日常と日常の狭間の感が強く、そこに魅力を感じていた自分としては、完成されたステージがあることで想像の余地が減り、あの独特の空気感がなくなってしまうのではないかと少しドキッとしましたが、千秋楽を観終えた今となっては全くの杞憂でありました。まごうことなき、より具現化された令和座の世界がそこにあったからです。
廃墟に迷い込んだ男は、地下牢に閉じ込められた男を助けようとするも、土地の所有者に追い出されてしまいます。そこに麻袋を運ぶ謎の男が。麻袋の中には女が入っていました。乱暴されそうになりますが、怪しげな姉妹の登場により難を逃れます。麻袋の女は両親に売られてどこか遠くの国へ連れ去られるというのです。なぜかそれを喜ぶ麻袋の女と怪しげな姉妹が談笑していると、謎の男が再度現れて姉と揉め出します。どうやら2人は仲間の様子。そこに地下牢に閉じ込められた男が気になった迷い込んだ男と、土地の所有者が戻って来て、所有地内で好き勝手されていることに腹を立てます。迷い込んだ男は土地の所有者に地下牢の男をなぜ助けなかったのか咎めます。土地の所有者が地下牢を覗き込むとそこから縄と鎖が絡まった男が飛び出して、怪しげな姉につかみかかりました。姉を助けようと妹が地下牢の男に飛び掛かりますが、その隙に姉は妹を捨てて謎の男と逃げてしまいます。それを追う地下牢の男、自分の所有地で行われていた人身売買について何も知らなかった土地の所有者も後を追います。麻袋の女は苛立ちどこか遠くを目指します。迷い込んだ男は迷いながらも麻袋の女を追いかけました。一人ぼっちになった妹は、謎の老人に手を引かれ客席を通りながらどこかに消えます。
そしてステージは誰もいない開演前の静けさに戻りました。
暗転なしの8人の登場人物が織りなす不可思議な世界は、95分が一瞬に感じられるほど濃密な時間でした。
迷い込んだ男:神明雅巳さん
自殺場所を探していたとおもわれる男。きっと全てがふわっとしているんだろうなと、登場人物とのやりとりをみてて思いました。彼は麻袋の女についていって何か変わるのだろうか。主張の強い登場人物が多い中、緩急の緩の部分が良かったです。開幕時のヌルッとしたところが好きでした。
土地の所有者:中村拓未さん
故郷を愛する男。彼なりの主張をもち、頭の硬そうなところが好きでした。話し方や佇まいの雰囲気が存在感があってすごく良かったです。
麻袋を運ぶ謎の男:飯沼誠治さん
土地の所有者を騙して人身売買を行なっていた男。物腰の柔らかそうな言動から下卑た行為に及ぶシーンがとても好きでした。声のトーンがすごく気持ち良かったです。片岡さんとのやりとりが【大麻を吸おうよ】を思い出しました。飯沼さんは真反対の人間性の役と仰っておりましたが個人的にはハマり役だと思いました。
麻袋の女:片岡奈央乃さん
両親に売られた女。もしかしたらただ連れ去られただけかもしれない。ただ両親とはうまくいっていなかった様子。人物背景に関して1番情報量が少なかったと思いますが、売り飛ばされることに喜ぶ様子や、廃墟から立ち去る際のセリフで、歪みと鋭さのようなものを感じました。姉妹との掛け合いのポップさが前述とギャップがあって気持ちよかったです。
怪しげな姉妹の姉:道下悠里さん
人身売買を行なっていた女。橋の下で拾った女を妹のように扱う。彼女もまた自分の美学を持った人物で、前作【seven】で道下さんの演じたジャンボッティ味を感じましたが、終盤であっさり妹を捨てたことから、美学というより詭弁に感じてしまう人間臭さがあると思いました。今回の筋のような役割に感じましたがキュッと引き締まった緊張感が気持ちよかったです。
閉じ込められた男:おらんださん
連れ去られた妹を追いかけて地下牢に閉じ込められた男。登場シーンは圧巻の存在感、ヒーロー味も感じられ物語の急が華やかでした。かっこよかったです。
怪しげな姉妹の妹:守谷直子
どこか足りない女。今作の主人公であったと思います。常に姉に問われており、コメディとナンセンスも担っておりましたが、飄々とした様子が一貫してとてもナチュラルで、エンディングの不可思議感がより際立ったように感じました。
謎の老人:小原誠仁さん
物語中盤から突如登場する詳細不明のナンセンスの塊。小原さんだけザ・衣装という感じの老人の出立ちなのに違和感がなく、前作【seven】のヌメヌメした感じとはまた別の存在感がありました。アイコニックでした。
過去2作も含め、令和座は起転転急結と感じました。ナンセンスを存分に振り撒いておきながら、しっかりと締まるのです。とても気持ちの良いエンディング。
【大麻を吸おうよ】【seven】では切れ味の鋭いエンディングでしたが、今回のエンディングは表現の難しい不可思議なエンディングでした。気持ちの良い浮遊感がありながら、同時に怖さも感じました。小原さん守谷さんの演技ももちろんですが、照明が段々と絞られていく感じがより不可思議さを演出していたと思います。そして誰もいなくなったステージに飛来する謎の物体。静けさを取り戻すステージ。館内アナウンスで正気に戻される…、の流れが最高に気持ちよかったです。
令和座は好き嫌いの分かれる舞台と評される理由の1つに、観劇者が問われている、委ねられているところがあると思いますが、作り手からのメッセージもしっかりと込められていると今回改めて感じました。
大勢のスタッフさんで作る作品は純度をあげるのが難しいと想像しているのですが、出演者さんだけでなく、美術・音響・照明の演出からも強い熱意を感じる、携わる全ての人の想いのこもった素晴らしい作品でした。
そんな作品も本日で見納め。最終回。再放送はありません。なんと儚いこと。もうみんなの思い出となってしまいました。
でもそれは明日も明後日もこの先ずっと心の傷となり生き続けるのだと思います。
僕もこの思い出を抱いて令和座の次回作を待つこととします。
それではまた。
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