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夏休みのおもいで(痛)

夏になると思い出す。あの瞬間を。


あれは私が小学校中学年の頃だったと思う。
田舎の夏休み。遊びなんて学校のプールかザリガニ釣りくらいで、ほとんどの日は誰かの家に集まってただ時間が過ぎるだけの日々を過ごしていた。
勿論宿題には手を付けていない。


ある日私はいつものように友人の家に向かっていた。今日は私が漫画を貸す番だ。
カゴに漫画を沢山積んだママチャリでいくら風を切ろうがこの炎天下では意味などなく、何粒もの汗が私の肌を滑り落ちていった。


「あっつ……」


その時ふと、良いことを思いついた。


「あの坂道を思いっきり下ったら気持ちいんじゃないか?」


そう、友人の家までの道のりには坂がある。
その坂を速いスピードで思いきり下ればその分体に当たる風は強くなり涼しくなるのではないかと思ったのだ。
我ながらナイスアイディア!と、鼻歌まじりにペダルを踏んだ。


遂にその坂を下る時が来た。


トップスピードで坂を下れるように、坂に向かってどんどん、どんどん、力強く、ペダルを漕いだ。
もはや涼しさなんてどうでもいい。
はやくその坂を下って快感を得たかった。


そして遂にその時が来た。
前輪が坂に入っていくと、見える景色が一瞬で変わり、ヒュッと背筋に電気が走った。


気持ちい、、っ


なんて気持ちがいいんだ。
私の横を、肌を、風が物凄い勢いで通ってゆく。私はペダルを漕ぐことをやめ、足を放り出してその風に身を任せた。


するとその時、鈍い音がした。


「グギュキュッ」


一瞬、私は何が起こったのか分からなかった。
ゆっくりとしたスローモーションの後、気がつくと私は硬いコンクリートの上に突っ伏していた。身体は何故かぴくりとも動かない。そして身体中が熱くて、重くて…痛い?


そう、私はあの時坂で放り投げた足が前輪に絡まり乗っていた自転車ごと縦に大回転し転倒したのちに上から落ちて来た自転車をその身体で受け止めていたのだ。


つまり私は自転車の下敷きになっており、全身強打+全身擦り傷+自転車の重みで動けなくなってしまっていた。
しかもそれだけではない。
友人に貸すためカゴぎゅうぎゅうに積み込んでいた「魔法先生ネギま!」数十冊が周りに散らばっていたのだ。


「し、死ぬ……。」


その時、やや遠くから声が聞こえた。


「あら〜!大丈夫け〜!?」


それは近所に住んでいるであろう知らないおばちゃんだった。
私の大転倒による音で駆けつけてくれたのだ。
しかし色んな意味で恥ずかしかった私はめちゃくちゃ平気な感じを装って


「え?大丈夫ですー!」


と答えてしまった。ひょうひょうと。
口が勝手に動いたのだ。
身体はビクとも動かないのに。


そのあとおばちゃんは私の戯言など一切聞き入れず自転車を起こし、私も起こし、ネギまもカゴに積んでくれた。
そして一言、ピシャリとこう言った。


「あんた夏休み?なあに?こんなに沢山…。漫画ばっかり読まんで勉強しな!」


ついさっきできたての擦り傷に塩を塗りたくられた気分だった。
これが生まれて初めての正論パンチだったのかもしれない。


私は自転車をただカラカラと引く事しかできなかった。
ボロボロになった魔法先生ネギま!を乗せて。


※この一件で母から自転車禁止令が下されました

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