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お金の歴史から見えてくる人間社会の本質とは?|【特集】破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか[COLUMN1]

日本の借金膨張が止まらない。世界一の「債務大国」であるにもかかわらず、新型コロナ対策を理由にした国債発行、予算増額はとどまるところを知らない。だが、際限なく天から降ってくるお金は、日本企業や国民一人ひとりが本来持つ自立の精神を奪い、思考停止へといざなう。このまま突き進めば、将来どのような危機が起こりうるのか。その未来を避ける方策とは。〝打ち出の小槌〟など、現実の世界には存在しない。

2022年1月号表紙画像(1280×500)

お金の歴史を振り返ると古今東西、共通する現象が見えてくる。国内外の歴史から得られる教訓、そして今後なすべきこととは何か──。

お金にまつわる歴史本を多数著している元国税調査官の大村大次郎氏に、お金(財政)の歴史から得られる教訓について聞いた。
話し手・大村大次郎(元国税調査官)  
聞き手・編集部(友森敏雄)

「徴税」が腐れば
国も亡ぶ

 まず、大村氏が指摘しているのは、古今東西共通していることとして「徴税」が腐れば、国が亡ぶということだ。日本で初めて中央集権国家を設立した大和朝廷。大化の改新後(645年)、班田収授法(田を与え、そこからの収穫の一部を徴税する)が実施され、各地に派遣されたColumn国司にのつかさの監督のもと、郡司ぐんじが徴税にあたった。そして、会計報告を毎年、中央政府に送った。これらの帳簿は厳重に管理され、国司の任期は4年と決められていた。しかし、次第にこの国司が不正に手を染めるようになる。〝学問の神様〟で知られる菅原道真は、これを改革しようとして逆襲され、大宰府に流された。

 国司が〝おいしい〟仕事になったことで門閥化する。これで権勢をふるったのが、かの藤原道長だ。道長に皆が賄賂を贈って国司にしてもらおうとした結果、集まるべき税金が国家に入らず、朝廷は衰退した。

 同じことは、古代エジプトでも起きている。「書記」と呼ばれる徴税役人が徴税を行っていたが、次第に腐敗した。古代ローマでも、征服地からの徴税がローマ帝国の財政を支えたが、国に代わって徴税を行う「徴税請負人」が腐敗していった。徴税請負人は、先に5年分の徴税を国に支払い、請負人になる権利を買う。請負人は利幅を増やすために征服地で苛烈な徴税を行った。そのあくどさは、『新約聖書』の中にも記されている。大村氏は言う。

 「門閥主義、世襲などは、人類にとって、永遠のテーマだ。富む人、権力を持つ人は必ず世襲に向かおうとする。良い制度、システムを作ったとしても、時間が経つと、チェック機能が働かなくなり、腐敗が進む。

 今の日本でも、世襲の国会議員が増え、資産価値の大きい会社ほど老舗企業であることが多い。長寿企業が多いことは良い点でもあるが、同じ企業が経済の中心に居座り続けているとGAFAのような新興企業が生まれてくることを阻害することになる。

 一方で、GAFAのようなグローバル企業はタックスヘイブンに資産を移すなどして、税逃れをしている。富の再分配が行われないということであり、結果的に国の衰退につながる」

一度やったら止められない
「貨幣改鋳」

 財源不足になって行われるのが貨幣改鋳で、これも古今東西共通している。古代ローマでは何度も行われた。江戸幕府でも「元禄小判」と呼ばれる、貨幣改鋳をして以降、財政が悪化するたびに行われるようになった。幕末には、小栗上野介が「万延二分金」と呼ばれる改鋳を行った。その結果として起きるのが、ハイパーインフレで、1860年(万延元年)からの7年間で物価が10倍となった。

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