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中国への対抗心にとらわれず 「日本型援助」の強みを見出せ|【特集】「一帯一路」大解剖 知れば知るほど日本はチャンス[PART-10]

佐藤 仁(東京大学東洋文化研究所教授)

中国の資金力を背景とした援助外交に、対抗心をあらわにしても意味はない。日本は今こそ、自らの過去の案件を冷静に評価し、「強み」を見出すべきだ。

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かつて訴訟にまで至ったインドネシアのコタパンジャン・ダム建設事業。現在は多くの人々がその恩恵を受けている(AFP=JIJI)

「一帯一路」の名を冠した中国の台頭は、国際開発協力の世界にどのような影響を与えるのか。見逃してならないのは、開発協力の実態よりも、中国が「援助の方法・考え方」に与える影響だ。内政不干渉を大きな原則として、軍事政権や独裁的な政権にも積極的に援助を送る。政治的に重要な施設をトップダウン、かつ迅速に施工する。こうした中国独自の援助外交は、昨今の新型コロナウイルス感染症をめぐるマスク・ワクチン外交とも共鳴しながら、西側諸国がつくり出してきた「援助の方法・考え方」を揺るがしつつある。

 ところで、欧米の援助規範に挑戦してきたのは中国が最初ではない。最も初期の1960年代初めから経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)のメンバーだった日本も、借款やインフラ建設の重視といった非欧米的なアプローチをとっていたことで、西欧援助国からは長く異端児とみなされていた。「元祖・異端児」として欧米諸国や開発途上国と対峙する中でたどってきた日本の歩みを振り返ることは、現在の中国の動きを理解するだけでなく、これからの日本の援助を定める上でも重要な参照点になる。

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