見出し画像

危機に瀕する「世界のパンかご」 日本の食料安保確立は急務|【POINT OF VIEW】

ウクライナ危機による世界的な食料および肥料価格の高騰は、日本にも影を落とす。今こそ、自給率というモノサシに縛られない、真の食料安全保障を実現する政策が必要である。

文・本間正義(Masayoshi Honma)
アジア成長研究所特別教授・東京大学名誉教授
東京大学大学院農学系研究科博士課程単位修得退学、米アイオワ州立大学大学院経済学研究科博士課程修了。成蹊大学経済学部教授、東京大学大学院農学生命科学研究科教授、西南学院大学教授を経て、現職。著書に『現代日本農業の政策過程』(慶應義塾大学出版会)、『農業問題:TPP後、農政はこう変わる』(ちくま新書)など。

 ウクライナ危機で穀物価格が上昇している。ウクライナは世界の穀倉地帯の一つであり、小麦の生産量は近年で約2700万㌧、トウモロコシや大麦、粟、雑穀といった粗粒穀物は約4400万㌧、うちトウモロコシが3400万㌧である。

 小麦の輸出量は1800万㌧、粗粒穀物の輸出は3300万㌧に達する。そのウクライナが戦禍で、生産に支障をきたすとすれば、新型コロナウイルスからの回復で需要が増加している食料価格がさらに高騰する。

 ロシアもまた3700万㌧程度の小麦を輸出する小麦大国である。しかし、国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除されたロシアは、貿易の決済がしにくくなり、他の経済制裁と併せて小麦の輸出が困難になるとみられる。

 ロシアの主要な小麦輸出先は中東・北アフリカ地域(エジプト、トルコ、イランなど)であり、近年ではサブサハラ・アフリカ地域(ナイジェリアなど)への輸出も増えている。ロシアからの小麦供給が止まれば、これらの発展途上国での食料問題が深刻化し、社会不安が広がる恐れがある。

 日本への影響も必至だ。国際市場での小麦供給が減少すれば、国際価格は上昇する。日本はウクライナとロシアから小麦は輸入していないが、日本が輸入する米国、カナダ、豪州産小麦の価格上昇は避けられない。小麦価格の上昇は代替する他の穀物の需要を増加させ、穀物価格全般の高騰をもたらす。

 さらに、ロシアは肥料の原料である窒素とカリ、リン酸の生産国であり、日本もロシアに多くを依存している。ロシアからの供給不安で肥料の国際価格も高騰している。肥料については、ウクライナ危機以前から別の問題を抱える。窒素肥料の原料となるアンモニアだ。

 アンモニアが注目されているのは、……

ここから先は

3,322字 / 2画像
この記事のみ ¥ 300

いただいたサポートは、今後の取材費などに使わせていただきます。