
中国特有の「課題」を抱える 対外援助の実態|【特集】「一帯一路」大解剖 知れば知るほど日本はチャンス[PART-2]
北野尚宏(早稲田大学理工学術院教授)
対外援助においても国際社会での存在感を高めようとする中国。一方でそれを達成するには、政治体制に起因する「課題」も残る。
中国政府はアジア途上国との関係強化と中国企業の海外インフラ市場参入支援のために、「一帯一路」構想以前から、政策金融機関である中国輸出入銀行(以下、輸銀)および国家開発銀行(以下、開銀)の提供する融資を活用してきた。2004年以降、中央アジア、東南アジア諸国連合(ASEAN)、大洋州、アフリカ、ラテンアメリカ・カリブ、中東欧諸国に対し、それぞれ地域協力の枠組みを利用した融資枠のコミットメントが行われた。
13年に一帯一路が打ち出されて以降は、メコン川流域諸国、アラブ諸国に対しても資金協力を表明するなど、14年から18年にかけて、13年以前よりも大規模な輸銀・開銀の融資がコミットされた。これら地域協力枠組み以外にも「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」構想など二国間経済協力枠組みに基づく資金協力も行われている。
中国の政策金融機関の融資承諾額を検証する
筆者らは、中国の対外援助の実態を明らかにするために、このうち、輸銀が供与し、貸付条件が緩やかな長期・低利のソフトローンである中国政府優遇借款(優遇借款)と、それと同等の供与条件で融資する優遇バイヤーズ・クレジット(詳細は下の表参照)について、途上国政府が公開している融資データやその他の情報源をもとに、融資プロジェクト・リストを作成した。ちなみに、優遇借款も優遇バイヤーズ・クレジットもいずれもタイド(ひも付き)で、物資やサービスの購入先は中国企業に限定されている。

リストアップした輸銀ソフトローン・プロジェクトは、01年から19年に承諾されたアジア23カ国、338件、融資承諾総額は667億ドルである。輸銀ソフトローンは中国金融機関・企業による途上国向け投融資の一部にすぎないが、その政策性から中国の融資動向をみるには有力な指標といえる。
融資承諾額の地域別割合は、東南アジア44%、南アジア40%、中央アジア・コーカサス12%となっている。国別には、パキスタン約117億ドル、マレーシア約116億ドル、バングラデシュ約76億ドル、スリランカ約65億ドル、カンボジア約51億ドル、ラオス約43億ドルと続く。いずれも一帯一路で話題になる国々である。
融資承諾額の年別推移は、二つの大型プロジェクトを除けば16年までは増加し、それ以降は減少傾向にある。この傾向は、他の研究者の分析結果とも一致しており、中国の金融引き締め政策や、後述するように、借入国の債務持続性の問題などが背景にあるものとみられる。
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