台湾統一 中国は本気 だから日本よ、目を覚ませ!|【特集】押し寄せる中国の脅威 危機は海からやってくる[Part3]
「中国の攻撃は2027年よりも前に起こる可能性がある」──。アキリーノ米太平洋艦隊司令官(当時)は今年3月、台湾有事への危機感をこう表現した。狭い海を隔てて押し寄せる中国の脅威。情勢は緊迫する一方だ。この状況に正面から向き合わなければ、日本は戦後、経験したことのないような「危機」に直面することになるだろう。今、求められる必要な「備え」を徹底検証する。
※年号、肩書、年齢は掲載当時のもの
中国にとって尖閣諸島は南西諸島奪取の「前菜」に過ぎない──。元米海兵隊大佐が日本人に警鐘を鳴らす、衝撃の論攷。
もしも富士山が鳴動し、地震を起こし、水蒸気を噴き上げているとしたら、日本の国民も政府も危機感を抱き、噴火に備えて対策を講じるだろう。
日本は今、国の周辺でも同じくらい深刻な脅威に直面しているが、国民が特に心配している様子はない。永田町と霞が関がわずかながら懸念しているだけのようだ。
脅威の震源地は「北京」であり、すでにその初期微動も感じられる。
中国共産党は、慎み深さとは無縁だ。「欲しいものを欲しい」と公然と言い放ち、それを手に入れるために行動する。その中には南シナ海、南西諸島、台湾が含まれている。支配力を確立するための中国の行動は拡大・加速をし、これまでのところかなりの成功を収めている。
南シナ海を例にとると、中国政府はそのほぼ全域について領有権を主張し、人工島を造成し、軍事基地化するなど、組織的な防衛体制を構築した。いまや中国海軍、海警、海上民兵を常時展開している。このままでは、日本の交易、エネルギー輸送のためほとんどの船舶が通過する戦略的な海上交通路(シーレーン)を中国政府が事実上支配することになりかねない。
尖閣諸島周辺における中国による圧力と侵入行為は、筆者の知る関係者が非公式に認めているように、海上保安庁や自衛隊を「圧倒」しかねない状況にある。そして中国にとって尖閣諸島は、南西諸島全体を手に入れる前の「前菜」にすぎないことを忘れてはならない。中国が南シナ海と尖閣諸島の双方、または片方だけでも支配するようになれば、日本にとってきわめて深刻な事態となるだろう。
6年以内に中国は動く
米軍が阻止できないケースも
しかし、日本に迫りつつあるより大きな危機は、中国による台湾の支配だ。見識ある自衛隊幹部は長年「台湾の防衛は日本の防衛だ」と主張してきた。その理由を知りたければ、台湾が中国の支配下に置かれた場合に何が起こるかを考えてみればよい。
それは現在、中国を封じ込めている「第一列島線」を突破されることを意味し、中国人民解放軍(PLA)が、沖縄の米軍基地も含め、南西諸島における日本の防衛体制を側面から突破することになる。そして、中国の艦船、潜水艦、航空機が日本の西方、南方、東方で(ロシアが黙認すれば北方でも)日常的に活動することになる。日本はちょうど(終戦前の)1945年のように、事実上、国を包囲される。
PLAは台湾の基地を使用し、太平洋に自由にアクセスし、日本の海外との海上・航空輸送を制限し、さらには止めることさえもできる。また日本を東アジアから孤立させる。それは日本がインド洋とペルシャ湾に直接アクセスできなくなることを意味する。
同様に、米国の防衛にとっても台湾はきわめて重要だ。台湾の自由を守ることができなければ、米国の威信は失墜し、アジアにおける大国としての米国の時代は終わるだろう。おそらく日本と豪州を除くアジアのほとんどの国は、可能なかぎり最良の取引をしようと中国に殺到し、米国から離れていく。そうなれば日本と豪州にも迷いが生じるだろう。南シナ海は永遠に失われ、南西諸島すべてではないにしても、おそらく尖閣諸島は失われる。
それではここから、読者のいくつかの疑問に答えよう。
中国は本当に本気なのだろうか?
──本気だ。彼らは戦わずして台湾を統一するのが望ましいと考えているが、政治戦で統一できないのであれば、間違いなく軍事力に訴えるだろう。PLAはまさに台湾に全面攻撃を仕掛けるために装備し、訓練も実施している。
中国が台湾を攻撃するのはいつか?
──米インド太平洋軍司令官のジョン・アキリーノ海軍大将は今年3月、米連邦議会上院において、「中国の攻撃が2027年よりも前に、場合によってはそれよりもかなり前に起こる可能性がある」と語った。すべての機密情報にアクセスできるアキリーノ海軍大将がこれを公に語ったとなれば、事態は深刻だ。
これまでの米国の対応は?
──10年頃、当時米海軍太平洋艦隊で情報戦を統括する立場にあったジェームズ・ファネル大佐は、中国の脅威について警告し、当時の情勢を前提とすれば、20年代がこれまで以上に中国の攻撃の可能性が高まる「懸念すべき10年」になると明言した。この発言で大佐は米軍内部やワシントンで笑い者にされたが、大佐は正しかった。その警告がいまや共通の認識となりつつある。
何十年にもわたって、中国が最終的にはリベラルで友好的な国となり、「台湾問題」がなくなることを望んできた米国政府も、トランプ前政権でようやく目覚めたようだ。トランプ前大統領の名誉のために言っておくと、彼は台湾への武器輸出の増加と、より高度な武器の売却を承認し、多くの政治的支援を与えた。
バイデン政権は、トランプ政権の台湾政策を継続しているようであり、台湾の事実上の駐米大使(編集部注・蕭美琴氏。Part1に同氏の寄稿)に対して強い支持を表明して面会し、米台当局者の接触に関する制限の緩和を続けている。(編集部注・これまで米国は中国に配慮し台湾との交流を制限していたが、米中間の緊張の影響で台湾当局者間の非公式接触の制限緩和方針を打ち出している)
米国は台湾をめぐる戦いで中国に対抗できるのか?
──それが大きな問題だ。支持の表明は「単なる言葉」にすぎない。また、米国が中国の攻撃から台湾を守ろうとしても、米軍は間に合わない、あるいはそもそも台湾に到達すらできない──。残念ながら中国の軍事力は、 習近平や中国共産党指導部がそう信じてもおかしくない水準にまで達している。
東アジアの軍事バランスは変わった。米海軍が南シナ海、台湾海峡、東シナ海に派遣できる艦船1隻に対し、中国海軍は10隻配備できる。中国空軍は恐るべき勢力になりつつあり、数千発の長距離ミサイルからなる中国のロケット軍は、洋上の空母や在日米軍基地を含め米軍にとっての脅威となっている。
中国軍は、特定のシナリオ、とりわけ中国本土周辺の戦闘では、米軍に勝利する可能性がある。台湾は中国本土からわずか約130㌔メートルしか離れていない。米国政府は台湾の重要性を理解していても、中国が台湾を攻撃した場合、成功裏に介入できない可能性がある。米国は中国に対して金融・経済上の圧力はかけられるが、直接的な軍事支援は難しい課題となるだろう。これは、中国が第二次世界大戦以降で最大・最速の軍備拡張をしている間、米国がその問題に目を背けていた結果だ。
台湾の孤立を終わらせ
支援することが求められる
米国は今、何をすべきか?
──何十年にもわたって台湾の軍隊は孤立してきた。特に緊急性が高いのは、彼らをもう孤立させないように支援することだ。台湾海軍陸戦隊の少人数の1隊が17年にハワイで米海兵隊と行った訓練などを除くと、40年以上、米国と台湾の軍隊は共同訓練を実施していない。この孤立を終わらせることが、台湾の軍事能力を向上させ、台湾の人々と指導者への心理的な後押しとなり、憂慮すべき状態にまで弱体化した台湾の防衛力を向上させる動機付けとなる。
では、日本は何をすべきか?
──日本が直面している危機は明らかだ。中国の台湾統一の意思は固く、それが現実になれば、日本の経済、領土、さらには国家としての独立さえも危険に晒されるだろう。そうならないためには、自衛隊の能力を強化し、日米両軍を完全に統合し、台湾に対して単なる言葉だけではない明示的な支援を提供すべきだ。
75年間にわたって米国に保護されてきた日本は、国内だけでなく、アジア地域においても米国に過度に依存するようになった。台湾防衛は日本にとってきわめて重要であるにもかかわらず、日本は台湾に対して意味のある支援をほとんど行ってこなかった。代わりに米国が「面倒を見る」と日本は期待してきた。
しかし残念ながら、米国はもはや単独でアジアやその他の地域の「面倒を見る」ことはできない。日本は軍事力強化のため抜本的な対策を講じる必要がある。ポジティブな面についていえば、日本が軍事能力の強化に努めるほど、日米同盟は強化されるだろう。自衛隊の能力が向上すれば米軍の戦闘力も高まり、日本や周辺地域の共同防衛にも資する。さらに中国に対する牽制にもなると期待できる。
また日本がその軍事力を真に向上させる(そしてそのために予算を投じる)ことで、政治的・心理的に日米関係の「バランス」が改善され、「日本がただ乗りをしている」というワシントンの認識を原因とした摩擦は減るだろう。
日本を揺るがす「地殻変動」
もう無視できない
日本単独では中国に対する防衛は無理だろう。中国の(現在および将来的な)軍事力は、日本が合理的な努力で獲得できるものを上回る。しかし強化された自衛隊と米軍の能力を組み合わせれば、日米両国の勝算は上がる。それを実現するため、日本は以下の7つの具体的なステップを踏まなければならない。
また、航空自衛隊と台湾空軍をグアムで一緒に訓練をさせ、海上自衛隊と台湾海軍が定期的な訓練活動を開始したり、ミサイル防衛活動および対北朝鮮制裁の違反監視活動に台湾を招く。
あるいは中国空軍が威嚇のために台湾周辺を飛行した際、沖縄の航空自衛隊機を米空軍機などとともに護衛任務で台湾空軍機に合流させる。最近合意された米台の沿岸警備に関する作業部会に海上保安庁を参加させる。
このような記事を書く必要があること自体驚くべきことであり、気の滅入ることだ。中国が脅威であることは10~20年前から明らかだったが、残念ながら、日本政府、企業、学界、メディアなどあまりにも多くの人が、日本と日本人を土台から揺るがす恐れのある「地殻変動」の予兆を無視してきた。
やるべきことをやる。さもなければ、船や飛行機を運航する際や、近隣の国々と交易をしたり、台湾・南シナ海・南西諸島を訪れる際にも中国政府の許可を求めることになると覚悟すべきだ。あるいは、ほとんど何をするにも中国政府の許可が必要になるかもしれない。まだ手遅れではないが、残された時間は少ない。
だから日本よ、目を覚ますのだ!
出典:Wedge 2021年6月号
ここから先は
「中国の攻撃は2027年よりも前に起こる可能性がある」──。アキリーノ米太平洋艦隊司令官(当時)は今年3月、台湾有事への危機感をこう表現し…
いただいたサポートは、今後の取材費などに使わせていただきます。