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激化するサイバー戦に無力の日本 法と体制整備を急げ|【特集】歪んだ戦後日本の安保観 改革するなら今しかない[PART08]
防衛費倍増の前にすべきこと
安全保障と言えば、真っ先に「軍事」を思い浮かべる人が多いであろう。
だが本来は「国を守る」という考え方で、想定し得るさまざまな脅威にいかに対峙するかを指す。
日本人が長年抱いてきた「安全保障観」を、今、見つめ直してみよう。
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激化するサイバー戦に対し、日本の備えが立ち遅れているのは明らかだ。このままでは国家の転覆を座して待つことになる。今こそ国が前面に立ち、大方針を掲げる必要がある。
文・佐藤 謙(Ken Sato)
中曽根康弘世界平和研究所 顧問
東京大学法学部卒業後、大蔵省入省。防衛庁教育訓練局長、経理局長、防衛局長、防衛事務次官などを歴任。退官後、防衛庁顧問、世界平和研究所理事長などを経て現職。小泉、安倍(第1次)、福田、麻生、安倍(第2次)各内閣の安保関係懇談会委員を歴任。
文・大澤 淳(Jun Osawa)
中曽根康弘世界平和研究所 主任研究員
慶應義塾大学法学部卒、同大学院修士課程修了。外務省外交政策調査員、米ブルッキングス研究所客員研究員、内閣官房国家安全保障局参事官補佐、同局シニアフェローなどを経て現職。鹿島平和研究所理事を兼務。専門は国際政治学(戦略評価、サイバー安全保障)。
ロシア・ウクライナ戦争では、ロシアによる本格的な「ハイブリッド戦争」が行われている。
この「ハイブリッド戦争」では、開戦前の段階から、社会の分断や政府の信用失墜、社会の攪乱を狙った「情報戦」が画策される。兵器によって軍事目標を破壊する以前の平時から、「情報戦」で社会を混乱させ、さらに「サイバー戦」によって通信などの重要インフラや政府機関の機能麻痺を起こすことで相手の継戦意志を削ぐことが重視されるようになっている。
軍事侵攻が始まった2月24日以降も、ウクライナ軍の攪乱を意図した電磁波領域の攻撃や、通信・電力などの重要インフラの麻痺を企図するサイバー攻撃が断続的に発生している。ウクライナでは、戦争が始まる前から欧米が心理戦やサイバー領域で強力に支援し、ロシアのハイブリッド戦を相当程度無力化することに成功した。
「サイバー戦」は、どこまでが平時で、どこまでがグレーゾーンか、武力攻撃かが判然とせず、移行も瞬時に起こり得る厄介な特性を持つ。また、システム障害などの重大な事象が「サイバー戦」によって生じる安全保障に関わる事案か、民間分野における事故かの判別も難しいという特徴がある。
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米国では2021年5月にランサムウェアのサイバー攻撃によって重要インフラである石油パイプラインが停止したが、米国政府は最初から安全保障事案として国家安全保障会議(NSC)が中心となり対処している。
日本では最近、情報窃取型サイバー攻撃の被害を受けた企業や組織が、「外部への情報流出は確認されていない」と被害がないかの如く振る舞う向きもあるが、これは単に通信モニタリング体制が整っておらず、通信記録(ログ)が残っていないからにすぎない。実際には、国の安全に関わる情報や企業の経営に関わる秘密が流出している危険性もある。
最近の安全保障では、平時の武力紛争事態に至らない段階からシームレスな対処が求められる。特にサイバー領域では、事象が発生した場合、「サイバー攻撃か否か」「攻撃の実行者は誰か」「攻撃目的は何か」をいち早く見極めて対処していくことが極めて重要になってきている。
重要度増すサイバー領域
日本の法体系は「周回遅れ」
日本ではサイバー領域の安全は、……
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