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権限移譲の争いやめ 都区は未来に備えた体制整備を|【特集】あなたの知らない東京問題[PART-7]

東京と言えば、五輪やコロナばかりがクローズアップされるが、問題はそれだけではない。一極集中が今後も加速する中、高齢化と建物の老朽化という危機に直面するだけでなく、格差が広がる東京23区の持続可能性にも黄信号が灯り始めている。「東京問題」は静かに、しかし、確実に深刻化している。打開策はあるのか——。

2108 東京問題ヘッダー

文・伊藤正次(東京都立大学大学院法学政治学研究科教授)

都区間の権限移譲に関する協議は膠着状態にある。東京が抱える問題を考えると、これ以上、権限移譲にこだわるのは得策ではない。東京、さらには日本のためにも、時代に合った体制整備が必要である。

 いわゆる「大阪都」構想、すなわち、政令市の大阪市を廃止して特別区を設置し、大阪市が担っていた事務の一部を大阪府が一元的に担う構想は、2020年11月1日の住民投票の結果、否決された。15年5月17日の住民投票に続く、2度目の否決である。

「大阪都」構想を推進した勢力は、大阪府・市の「二重行政」を解消するため、東京に適用されている「都」の制度を理想とし、大阪市の廃止と特別区の設置を提唱していたといえる。しかし、特別区である東京23区の関係者は、現在の「東京都」のシステムを理想とし、「大阪都」構想が現実になった場合、自らが置かれた立場が苦しくなるという〝警戒感〟をもっていた。

 というのも、これまで23区は、東京都からさらなる権限移譲を通じた自治権の拡充を求め、市と同等以上の基礎自治体になるために運動を続けてきたからである。23区は、特別区としての地位に甘んじることなく、法的に「基礎的な地方公共団体」と認められた00年の都区制度改革以降も、自主性・自立性強化を求めてきた。

「大阪都」構想が潰えたことによって、23区は、再び安心して自らの自主性・自立性の拡充を主張することができるようになった。

権限拡張によって
23区は児相設置可能に

 権限移譲に関する都区間の協議は近年、具体的な進展はないが、16年の児童福祉法改正によって23区も児童相談所を設置できるようになり、21年4月1日現在、世田谷、江戸川、荒川、港の4区が独自の児相を設置し、自治権を拡充させている。

 こうした23区の権限拡張をベースとする都区制度改革は、今後も引き続き進められるべきなのだろうか。

 東京圏、さらには日本社会が直面する困難な課題を視野に入れると、筆者は、いったん立ち止まって都区のあり方を再考することが必要だと考える。その理由を、筆者が副リーダーを務めた特別区長会調査研究機構(特別区長会のシンクタンク)の「大局的に見た特別区の将来像」に関する研究会(大局研)が行った調査研究(19、20年度)の成果に即して、明らかにしておこう。

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