「国家 対 国民」の対立意識やめ 真の社会保障を実現しよう|【特集】昭和を引きずる社会保障 崩壊防ぐ復活の処方箋[PART-7]
西村周三(京都先端科学大学経済経営学部教授)
近年、日本の政策において〝ナッジ〟という手法が注目されている。「行動経済学」の知見に基づくこの手法は、補助金、税制、規制といった政府主導の従来的政策手法とは一味違う。少しの工夫や仕組みで、我々個人にとっての賢い選択を支援し、結果として、社会全体にとってより良い方向に導こうとする「国民主導型」の政策手法といえる。
個人と政策をつなぐ「行動経済学」を日本に広めた草分け的存在である西村氏に、日本の社会保障における難題への向き合い方について聞いた。
編集部(以下、──)社会保障改革の手法としても期待される〝ナッジ〟を含む「行動経済学」の分野に興味を持ったきっかけを教えてください。
西村 元々の専門は医療経済学でしたが、病気にかかった人の行動を観察していると、合理性に基づく従来の経済学では説明がつかない場面に多く遭遇しました。それまで多くの経済学者は人間の行動がお金に左右され、金銭的な負担が増えれば医者にかからなくなる前提でしたが、病気にかかった人のかなり多くが、「無理をしてでもお金を工面し、医療を受けたい」といった経済学的には説明の難しい行動原理があることに気づいたのです。1984年に1年間米国に研究滞在した際に、そうした人間の思考のクセを伝統的な経済学に取り入れ、再設計した「行動経済学」という学問に出会い、日本に持ち帰って研究を始めました。
──我々は、国の社会保障制度とどう向き合っていくべきでしょうか。
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