
コロナ特需とともに終わる? 中欧班列が夢から覚める日|【特集】「一帯一路」大解剖 知れば知るほど日本はチャンス[COLUMN]
中国からカザフスタンを通り欧州に伸びる鉄道輸送網「中欧班列」は現在、特需状態にある。日本貿易振興機構(JETRO)がまとめたところによると、2020年の中欧班列の便数は前年比50%増の1万2400本、貨物輸送量は56%増の113万5000TEU(コンテナの国際規格である20㌳コンテナ換算値)に達した。JETROタシュケント事務所の高橋淳所長は「中国とカザフスタン国境の通関インフラのキャパシティに対し、想定以上の貨物が流れ込んできている」と現状を語る。
盛況の理由はコロナ禍だ。日本海事センター(東京・千代田区)によると、上海発ロッテルダム着航路の20㌳コンテナあたりの運賃は、20年1月には1430㌦だったのに対し、21年1月には5030㌦まで高騰している。
アジアの物流に詳しいJETROアジア経済研究所の池上寛研究グループ長代理は「欧州でのロックダウン(都市封鎖)が物流に決定的な打撃を与えた」と指摘する。港湾労働者の一時帰休や貨物船の欠航により、港湾での処理能力が低下した。また最近では、欧州では空のコンテナが滞留する一方、アジアでは輸出回復によるコンテナ不足が顕著になり、運賃高騰につながっている。
その結果、海運と鉄道輸送の価格差が縮まっている。18年から中欧班列を活用した中国経由の日本発ドイツ向けサービスを展開している日本通運によると、横浜や上海などの港から輸送する場合、19年時点では同じ条件ならば鉄道輸送の方が海運より2〜3倍ほど高かったものの、現在では鉄道輸送が20~30%高い程度まで運賃が肉薄している。また中国内陸部からの輸送なら、海運より廉価になる場合も散見されるという。
同じく物流大手の日新は、武漢市政府からの話を受けた中国物流大手の中国外運(シノトランス)日本法人と協力し、20年11月、日本発武漢経由ドイツ向けのトライアル輸送を実施し、中欧班列を利用した。日新事業戦略部中国室の小澤功司室長は「19年に長江を経由して日本と武漢を結ぶ直航コンテナ船が就航したことも大きい。コロナ禍前は、鉄道輸送は海運の2〜3倍高かったが、特に今年1月から、目的地が東欧など欧州内陸の場合は海運よりも安いケースも出てきた」と話す。
内陸部開発のための中国共産党の政治的ツール
では、コロナ禍が収束した後も中欧班列は定着するのだろうか。
ある国際物流業界関係者は「中国内陸部であっても、中欧班列以前からある企業ならばサプライチェーンは海路を前提に最適化されている。今は中欧班列を利用している企業も、コロナ禍が落ち着いたら、元の海路に戻るだろう。よほど付加価値が高い一部の製品以外は、中欧班列を利用するメリットは乏しい」と実情を語る。
また、前出の池上研究グループ長代理は「中欧班列はそもそも、中国内陸部の開発のための政治性の高いツール」と経済的メリットとは別の「必要性」を指摘する。江沢民政権時の2000年から始まった「西部大開発」がそうであったように、沿岸部に比べ発展の遅れた内陸部の開発は、中国共産党の正統性に直結する課題だった。
内陸部からの輸出品は、かつては上海など沿岸部に一度運び、そこで外航船に積み替えねばならなかったが、11年に中欧班列が運行開始されてからは、直接国外と結ばれるようになった。JETROによると20年の中欧班列のうち、4割が内陸部の成都と重慶から出発している。「中国政府にとっては、内陸部で生産された中国製品を運ぶための手段だろう」(池上研究グループ長代理)。
現在の中欧班列の盛況も、「中国の夢」といった過去のスローガンと同様に忘れ去られてしまうのかもしれない。(文・編集部 木寅雄斗)
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