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チェリー【ミツハシ】
僕は来月で32歳になるのですが、
この歳になるまで歯医者さんにかかったことがありませんでした。
子どもの頃から、歯が痛くなることは一切なく、
学校で全員が受ける歯科検診でも虫歯が見つからず、先生から褒められたものです。
そういったこともあり、人並みに歯磨きをする以外は、歯に関して特に気にすることなく生きてきました。
ある日、ライブ会場の楽屋でとてつもなく暇な時間があり、周りに人もいなかったので、なんとなく自分の顔を鏡でまじまじと見ていました。
楽屋の鏡は大きくて見やすく、髭の剃り残し、いつの間にかできていたシミなどが見つかり、
普段いかに自分が鏡をちゃんと見ていないか、気付かされたのです。
人前に出る職業として、非常に良くない。
今度から、ひかりちゃんの鏡をこっそり借りよう。
そんなことを思いながら、まだ時間があったので更に自分の顔の様々な部分を見ていました。
「そういえば、治りかけの口内炎がどうなっているか見てみよう」
そう思い、口内炎のあった下唇をめくると、
口内炎よりも先に、とてつもなく汚い下の歯が目に入って来ました。
ヤニや茶渋が染み付いた色、噂に聞いていた程度で全く気にしていなかった歯石らしきもの。
とんでもないショックを受けました。
唯一、褒められてきたのが歯だったので、僕の長所が失われてしまう。
そういえば学校を卒業して以来、歯科検診も受けていない。
この状態であれば、もしかしたら虫歯があるかもしれない。
これは早急に歯医者さんにかかるしかない。
しかし、人生で一度もかかったことがないので、どのようにして予約を取ればいいのか、もしかしたら怒られたりするのではないのか、とてつもなく怒られるのではないのか、ひかりちゃんと一緒に行くのはダメかな…
そんなことばかり考えてしまい、行くのを躊躇してしまうばかり。
そして、初めて歯に危機感を覚えてから5年が経ち、
ついに先日、歯医者さんに生まれて初めてかかりました。
電話で「歯を診てほしいんですけれども…」と恐る恐る聞いてみると、
「じゃあ○日の○時に来てください」と、
すんなりと予約が取れたのです。
初めて行く歯医者さんは、とてもオシャレでキレイな内装で、受付の方も優しくしてくれて、僕の不安感をほんの少しだけ和らげてくれました。
すぐに「三橋さんどうぞー」と名前が呼ばれ、診察室へ。
診察台に座り、やり手っぽい雰囲気の先生に歯を一通り診せて、レントゲンへ。
そしてまた診察台へ戻り、僕の歯のレントゲンを持った先生が僕に言うのです。
「あなたは稀に見る存在です」
僕は何のことかわからず、ぽかんとしていると、
「診た感じ虫歯も虫歯の跡もありませんでした。この歳までこの状態ということは、あなたの口内には虫歯菌がいません。」
人生で初めて行く場所で、人生で初めて言われたこと。
僕は何てリアクションしたらいいのかわからず、
「あぁ、そうですか」
としか言えませんでした。
先生は続けて、
「普通は3歳くらいまでにお母さんから虫歯菌をうつされるものです。お母さんに感謝してくださいね」
と言い残し、
歯のクリーニングを担当してくれる歯科衛生士さんとバトンタッチし、診察室を離れていきました。
倒された診察台で僕は、唯一の長所をくれたお母さんに感謝していました。
お母さんの前では吸ったことの無いタバコのヤニを落としてもらいながら。
磨きづらい親知らずの汚れをキレイにしてもらいながら。
クリーニングの後、キレイになった歯を鏡で見せてもらうと、
「これが本当に僕?」とつい口に出してしまい、
歯科衛生士さんに
「本当の貴方を保ってくださいね」
と素敵な言葉をかけてもらい、歯医者さんをあとにしました。
それ以来、朝晩人並みにやっていた歯磨きを、一日4,5回するようになり、
歯磨き粉に配合されているフッ素の効果か、地味に悩んでいた軽い知覚過敏が改善されました。
これからの人生、まだまだ初めてやることがあるかと思いますが、
臆することなく挑戦していこうと強く思いました。
必ず良いことがあるから…。
【妻へ】
好きなネタは『ペットボトル』です。
我ながらアホで面白いなと思います。
しゃべくり漫才、やはり良いですね。
明日はお誕生日ですね。
感想はありますか?