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映画"バジーノイズ"を観て感じたあれこれ(ネタバレ有)

"バジーノイズ"の映画を観に行った記録です(ほぼクソ長自分語り)。

原作も読んでみたい。


きっかけ

まず私はJO1のファンなのですが、メンバーの川西拓実が出演するということでこの作品を知りました。
音楽を題材にしていることとストーリーが繊細な人間ドラマっぽいことから、公開前から「好きな雰囲気の作品かもしれない。気になるなー」と思いつつ観るのをすごく躊躇っていました。

というのもバジーノイズに限らず、こうした『居場所があるようで無いような若者を描く圧倒的共感を謳った作品』は自分と重なる部分が多そうで魅力的に映る分、「期待外れだったらどうしよう」「ド正論、根性論で説教されたらどうしよう」「ベタな生き方を押し付けられたら嫌だな」という不安が付きまとうのです。
他人の創作物に何求めてんだって感じですが、お金を払ったからには傷つきたくない。

うだうだ考え続けて観るのを半ば諦めていたのですが、せめて主題歌だけでもと思って聴いた主題歌に頭をぶん殴られるような衝撃を受けました。ここ最近聴いた曲の中で一番好きかもしれない。

「surgeを映画館の音響で浴びたい。浴びねば」

こんな感じで突発的に映画館に足を運ぶことになったのですが、結論から言うと観に行って本当に良かったです。


感想 ※以下、ネタバレ含みます。

①ストーリー

鑑賞前にあれだけ心配していたのが申し訳なくなるくらい、心地よくて自分にフィットした内容でした。
上手く言語化できないのですが、人間社会の単純で明るくて嫌~な部分と複雑で暗い海の底のような部分がバランスよくストーリーと登場人物に表れていて、すごくリアリティがあるなと思いました。

物語の主軸である清澄は音楽センスの塊のような人で、彼が作った曲を潮がSNSに投稿したのをきっかけに世間から注目を集め、レコード会社の目に留まり、CDを発売し、他のアーティストに楽曲提供するまでの売れっ子になっていきます。
(SNSでバズったかと思えば商業主義に飲まれていくスピード感、すげえリアルだ…)
傍からすれば彼は成功者なのですが、忙しくなるほどに目が死んでいく様子を見ると単なるサクセスストーリーとは言い難いです。

でも私はそこが好きです。
正と負、光と影が混ざり合う感じ。
だって、人生ってそういうものじゃないですか。
成功したり失敗したり、出会ったり別れたり、悩み苦しんだり解決したり…その繰り返しの中で自分を深めていく。
清澄を通して、人生とは何たるやを見た気がします。 
ちなみにこの作品はノーマル寄りのハッピーエンド(主観)で終わるのですが、清澄は多分この先も苦しんでは壁を壊し、苦しんでは壁を壊し…を繰り返すんだろうなと思いました。

②登場人物

ストーリーが進むごとに、自分の中で感情移入する人物が変わっていくのが面白かったです。

【清澄】
まず最初に感情移入したのが清澄。
私も極力人と関わりたくないので、清澄が働く姿を見て「集合住宅の管理人っていいかも!?」「清掃のバイトっていいかも!?」と短絡的に思いました笑
一方ですごいなーと思うのが、清澄の、夢中になれるものがあってそれを一人で突き詰められるところ。
そして、創り上げたものを自分の世界で完結させられるところ。
私があれだけの音楽を創れたら、誰かに聴いてほしい気持ちや承認欲求が止まらなくなる。
結局他人ありきでないと自分の存在を認識できないので、一人を極めた清澄が羨ましい限りです。

【陸】【航太郎】
次に感情移入したのが、陸と航太郎。
二人とも組織人な感じで、不満や疑問を抱きながら組織の一員として動いていました。
メインキャラクターの中では割と俗っぽい方なのかな…?
各々思うところがありつつも、飲み込んだり受け流したりする様は見ていて頭を抱えたくなりました。
(これだから組織は!他人は!人間は嫌なんだよ!)

意外だったのが、見た目いかつい陸が清澄の内面に寄り添った優しい性格で、一見普通に見える航太郎が勢いづくと暴走しがちだということ。
二人ともそれぞれのかっこよさがある。
個人的には、航太郎の油断すると語気が強くなるところにとても憧れます笑

【潮】
最終的に感情が流れ着いたのが潮。
登場してすぐは、強引だし距離感バグってて「うわーこの人が現実におったら絶対関わりたくない」と思ったのですが、物語が進むにつれて印象が変わってきました。
潮は初め、清澄の音楽を多くの人に届けたい、清澄を応援したいという気持ちで動き回ります。
おかげで段々と清澄に光が差していくのですが、その分、潮の影が濃くなっていきます。
以下、私の中の潮。
「自分だけの存在が手から離れていく感覚」
「私この場に必要?いなくてもいいじゃん」
「夢中になれるものも才能もない、何者でもない自分」

しんどい。しんどすぎる。
推し活していて幾度となく抱いた感情ですよ。
自分の好きなことで評価されてる人ってかっこいいし憧れるけど、輝きが強すぎて近寄ると火傷するんですよ。

最終的に潮は、会社勤めの日々を送りつつAZURのファンを続けています。
清澄と潮の関係性はただならぬものだとは思いますが、芸能人の清澄と一般人の潮という立ち位置で映画が終わっているのが苦しくもリアルだなと思う部分でした。
でもここまでリアリティを突き詰めておいてのラストが、潮も特技を身に着けて無双するとか、清澄と潮が結ばれるとかだったら正直冷めていたと思います。
典型的なハッピーエンドにならなかったのもこの作品が自分に合っていると感じた所以です。

【洋介】
メインキャラ以外も魅力的で、中でも陸が所属していたバンドのボーカル洋介に感情を掻き乱されました。
彼の、自身の限界に薄々気づきつつも応援してくれるファンのため活動を続けたいという気持ちに胸が痛くなりました。
もしかすると、この作品の中で一番泥臭く藻掻き苦しんでいたのは彼なのかなーと思ったり。
履き潰したジーンズみたいな青さ。哀愁漂ってて好きです。

どの登場人物にもフィクションの世界の住人という感じはせず、良くも悪くも「うわあ…現実…」という感想を抱きました笑
それぞれがそれぞれに事情を抱えていて、人間臭くて、上手とは言えない生き方をしていて、皆愛おしいと思いました。

③音

制作陣の音へのこだわりと映画館の音響が相まって没入感がすごかったです。
ある時はマンションの一室、ある時はライブハウス、ある時はレコーディングスタジオ。
特にライブシーンの音がすごくて、実際にバンド演奏を聴いた機会は片手で数えるほどしかないのですが、その時の記憶が鮮明に蘇るくらい迫力と厚みのある音でした。
そして、映画を観に行くきっかけにもなった主題歌は本当に素晴らしかったです。
PCで聴くのとは大違い(当たり前)で、音のシャワーでした。
頭に血液が昇り、清涼感に全身を包み込まれ、細胞一つ一つに音が浸透していく感覚がしました。
音楽って栄養だ。

主題歌以外の音楽も、というか流れてくる音楽が全て好みで「サントラ出たら絶対買おう」と思いました。
あと映画を通して「自分、シンセサイザーの音が好きだ」と気づきました。

④色

映像がとっても綺麗です。
あと「青って何色あんねん?」と思うくらい至るシーンに様々な青色が使われています。
私が「おお!」と思ったのが清澄と潮が跨線橋(?)を歩くシーン。
「鉄骨が青い!!!」
青というか寂びた水色だったかと思います。
「綺麗な色の橋だな~」と思うと同時に「普段意識して見ていないだけで、身の回りには綺麗な色が溢れているのかもしれない」と思いました。
素敵な発見をさせてくれて有難う。

⑤キャスト(主演二人について)

宣伝として二人がテレビに出ているのを何度か見ており、その時抱いたざっくりした印象(川西拓実=人見知りだけど芯がある人、桜田ひより=明るくて周りを引っ張る力のある人)を頭の隅に置いて映画を観ていました。
初めは、抱いていた印象が役とぴったりだったので「すごいハマり役じゃん」と思っていました。
が、物語が進むうちに川西拓実と桜田ひよりが消え、いつの間にかスクリーンの中に清澄と潮が存在していて不思議な気持ちになりました。
演者が役と綺麗にクロスして、次第に役に飲み込まれていくような感覚。
清澄を演じられるのは川西拓実しかいないし、潮を演じられるのは桜田ひよりしかいないと思うくらい、この二人が主演で良かったです。


総括

何度でも言いますが観に行って本当に良かったです。好き。
脚本、演出、音楽、美術、ロケーション、キャスティング…作品を構築する全ての要素に抜かりなくこだわりが垣間見えて、制作陣の並々ならぬ想いを感じました。
働き方や人との関係性のあり方など様々な生き方を提示してくれているので、いき詰まった時に定期的に見返したい作品だと思いました。


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