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トップ海運による航空貨物参入ではすでにマースクが抜きん出た?
ここ2年ほどの間に、世界3大コンテナ船社として知られるデンマークのマースク、フランスのCMA CGM、スイスに本社があるメディテラニアン・シッピング(MSC)が次々と航空貨物分野に本格進出してきて注目を浴びていますが、どうやらその中ではマースクが一歩も二歩も抜け出した存在になっているようです。
もともとマースクは1987年から傘下の一部門としてスターエアという航空貨物を扱う会社を持っていたのですが、これはあくまで独立して航空小包やエクスプレス小荷物を扱うだけの目立たない存在でした。その小さな航空会社をマースクは2021年、自らの総合物流化戦略における航空貨物分野を担う「マースク・エアカーゴ」として拡大展開することにして、同年11月に大型貨物機B777F×2機を新規購入するとともに、換装型フレイターB767BCF×3機(その後6機に増機)もリース導入して、海運関係者だけでなく世界の航空貨物業界をアッと驚かせたのでした。
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マースク・エアカーゴは当初こそ貨物機をチャーターベースで飛ばすだけでしたが、有力な航空フォワーダーを買収して傘下に収め、世界トップクラスのコンテナ海運業として幅広く多様な荷主層を抱える強みを航空貨物分野にも連携させて、すぐにいくつかの路線で貨物定期便を運航するようになったのです。もちろん、フレイター業界の常識として一部はACMI契約で運航委託しているケースもありますが、すべてにマースク・エアカーゴとしてのエアウエイビルを発行しています。
中でも独フランクフルト(ハーン空港)を基点にした定期路線が多いようで、ここから米国シカゴ・ロックフォード空港や、同じく米サウスカロライナ州にあるグリーンビル・スパータンバーグ空港、シンガポールのチャンギ空港、南アフリカ・ヨハネスブルクのタンボ空港に貨物機を定期運航しています。同社のホームページを見ると、ほかにも韓国・仁川空港とグリーンビル・スパータンバーグ間、中国・杭州からシカゴとの間を結ぶ定期便も運航中ですから、これはもう片手間ではない立派なフレイター・キャリアの一勢力に成長していることが分かります。
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一方で、世界最大規模のコンテナ船団を要するMSCや世界3位のCMA CGMといったメガ海運キャリア2社も、負けじと航空貨物分野への参入を果たしたものの、まだまだ急成長とは言えないレベルで戦っているようで、常時運航するフレイター機数も定期路線もそれほど多くなったとは聞こえてきません。いまはまだ地道に足元固めをしている段階なのではないでしょうか。
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海運と言えば航空よりもはるかに歴史が長く(なにしろ太古からあったのですからね)、そのため荷主層の裾野の広さも航空の比にならないほど大きいのです。その国際海運のトップキャリアが航空貨物に参入してきたことは、既存の伝統的フレイター企業には大きな脅威かもしれませんが、同時に航空貨物の対象分野や荷主層をこうした新規参入キャリアが押し広げてくれるかもしれません。業界としてはその可能性に期待していたいところです。
2023年12月15日掲載