ANA Cargo脇谷謙一社長インタビュー:第2回
ことし4月1日付けで全日本空輸(ANA)執行役員貨物事業室長兼ANA Cargo社長に就任した脇谷謙一氏への直撃インタビュー。3回シリーズの2回目となる今回は、貨物事業/投資/現状のマーケットについて語ってもらった。
第1回目のインタビューはこちらから
──貨物事業についてはどうですか?
貨物事業については“スマートカーゴ”というキーワードを打ち出し、改革の完成形を作っていく段階に入っています。この数年間、構造改革を一生懸命やってきましたが、予算の都合でいろいろなことができなかった。しかし、ここへきて当グループのポートフォリオにおいても貨物事業の重要性が経営の中で認められてきたので、投資も得られるようになりました。
──具体的にどのような分野に投資する計画ですか?
システム、空港でのオペレーション、機材の3分野に重点的に投資します。システムについては、今年中に基幹システムを、来年にかけてオペレーションシステムをそれぞれバージョンアップさせる計画です。航空業界は世界で人手不足。その中で、極力「人」の作業を減らし、システムでできることはシステムで行い、業務を効率・省力化していくことが大事な課題です。そこで確保したマンパワーをサービス品質を上げるための重要な業務に投入していきたい。
──空港でのオペレーションについては?
空港オペレーションを起点に収益を伸ばすことを目指しています。空港においてお客さまのニーズを受けてカスタマイズする、お客さまの業務を空港でサポートする、このような「ひと工夫」入れたサービスを提供する。ここがすごく大事なポイントです。
──成田空港において何か新たな展開は?
成田の上屋については、現在、輸入上屋を含めると空港内5ヵ所くらいに点在していますが、来年に上屋を集約させることを考えています。集約する中で、三国間貨物輸送の接続の利便性を向上させることはもちろんですが、例えば、お客さまの梱包や検量・検尺など貨物配送前の準備を手伝う、お客さまがアジア各地から集めた貨物を成田空港でひとつにまとめて米国に輸送する、というようなことも考えています。お客さまそれぞれニーズが異なるので、カスタマイズして要望によりきめ細かく応え、ANAで運びたい、ANAと契約したいというお客さまを増やしていきたい。
──機材(フレイター)については?
フレイターは現在、B767-300Fを9機、大型のB777-200Fを2機保有していますが、大型機については28年頃に新たに2機のB777-8Fを導入する計画です。B777Fは燃費効率が良く、最大約100トンの貨物が積載できます。B767Fは最大ペイロードが約50トンですので、例えば同じ中国・上海に100トンの貨物を輸送する場合、B767Fでは2機必要となります。B777Fだと1機で運べますが、運航コストはB767F2機分より安くすみます。B777Fは米国、アジア、中国路線に就航していますが、この効率の良い機材をより効果的にネットワークに組み込んでいきたい。
──3分野への投資でサービス品質向上に繋げるわけですね。
そうです。さらに当社ではお客さまからの多様なニーズに応えられるよう、社内で医薬品/生鮮品/動物/自動車/半導体製造装置などの専門チーム“プロフェショナルユニット”を立ち上げ、ノウハウを蓄積しています。この専門チームと商材ごとのマーケティング担当とセールス担当が一体となって、お客さまの輸送ニーズにどう対応するか検討し、提案する。輸送時のご要望はたくさんあるので、そのリクエストに的確に応えられるようにしていきたい。
──現状のマーケットについてはどう見ていますか?
総じて下降気味ですね。日本市場が相対的に落ち込んでいます。ここ数ヵ月、日本の航空貨物は輸出入とも対前年で30%近い減少幅となっています。これは好調だった22年の裏年と言えますが、コロナ前の19年と比べても総量的には少ない。このような状況では日本を軸足とした会社として厳しいというのは現実です。ただ、ことし上期が低迷の底だろうと見ています。
──その理由は?
世界経済でも重要な自動車産業では半導体不足が嘆かれていましたが、ここへきてようやく車載用の半導体の動きが活発になり、自動車生産が回復傾向にあります。これまで、半導体不足やサプライチェーンの混乱をきっかけに、自動車メーカーは在庫を積み増していましたが、在庫が徐々に減ってきていると聞いています。この減ってきたあたりから貨物が動き始めるのではないかと期待しています。
<インタビュー第3回に続く>
脇谷謙一(わきやけんいち)社長プロフィール:
1991年4月ANA入社。貨物本部マーケティング部チャネル企画チームリーダーや貨物事業室マーケティング業務部部長などを経て、ことし4月から執行役員貨物事業室長兼ANA Cargo社長を務める。趣味は、自転車・自動車の運転、スポーツ、麻雀、将棋、料理、映画鑑賞など多岐にわたる。自動車はマニュアル車が好きで、「将来はスポーツカーに乗りたい」と画策する。学生時代は野球/ラグビー/柔道に励み、スポーツ観戦も好む。「先読み好き」がこうじて麻雀や将棋を嗜むが、「仕事は先ばかり見ていて、足元が疎かになってはいけない」と笑う。今後は、コロナ禍で辞めていた水泳を再開したいと意気込んでいる。55歳。
2023年7月27日掲載
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