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星の交わり

数多の星屑が流れる山の中の花園。そんなワールドに今日、私は一人足を運んだ。

Socialを開けば、混ざる場所はいくらでもある。けれど私はあえて、一人でいることを選ぶことがある。
なんとなく、人の輪にずっと留まって溶けだしていることは、私の中でよくない事のイメージがあるからだ。

人から向けられる好意は、心に依存を生む。
「ありがたい」と思っていたはずのことが、無意識に「当たり前」になっていく。
何気ないお話だけでも楽しかったのが、そのうち話だけでは満足できなくなる。相手の体に。心に。魂に。触れていたくなる。
「好かれなきゃ」と思うようになる。「もっと愛されたい」と焦るようになる。
新しい交わりを妬み、あの頃はよかったなんて。不謹慎な事を思うようになる。

そんな醜いものになり果ててしまう前に、危ないと思った時は、"私"の姿をきちんと見返しておきたい。
今日は「その日」だと思ったから、こうしていつものように"鏡"をOnにして、静かな夜の景色にすーっと溶け込んでいくのだ。

この姿。
ふんわり長いツインテール。真っ白なワンピース。植物をかたどった髪飾り。決意めいて背負った天使の羽。
例え現実とあまりに乖離していても、私の大好きな姿。この姿を纏うことで、何より自分が癒されたい。そんな───

物思いの最中、一瞬世界の時が止まった。 この一瞬の違和感。強く覚えがある。
案の定、鏡の後ろには別の誰かが 少し驚いたようにこちらを見つめていた。

「…こんばんは。」

黒いシックなワンピースを纏った、すらっと背の高い青い狐の女の子。
たじろぎながら見る相手の名前は、やはりというか白色。
そして、このワールドは何を間違えたか inviteでなくpublicで立てられていた。

「…こんばんは。はじめまして。たじろいじゃってごめんなさい。」
「あはは。もしかして間違えてpublicにしちゃったとか?」

こちらの考えを見透かしたように笑う彼女。私は色々と呆気にとられてしまい、パッとしない相槌しか打てないでいた。
すると、少しの間をおいてから 彼女はまたしっとりと語りかけてくる。

「VRCってさ。本当にいい世界だよね。無理に暗いのをやり過ごさなくたって、今の自分の気持ちに合った景色を選ぶことができる。私もね、いつもの場所がなんだか嫌になっちゃって。ほんとの野山にでも出るみたいに、ここをふらついてみたくなったんだ。私って、ほんとは何をどう綺麗だと思ってたんだっけ?ってね。」

「そうしたら、何の因果かあなたに会った。最もあなたは望んではいなかったようだけど… でもそれがなんだか、とても面白いなって思って。」

──最初の頃はこうやって、人を知ることが楽しくて。尊いって思ってたっけ。って…

そうしてまくしたて気味に続く彼女の話を、私はただ聞いていた。
ほんの数言話しただけなのに、「白い名前の人」でしかなかった彼女のことを、もっと知ってみたいと思うこの気持ちが 私もとても久しぶりだと思ったから。

「…つい前のめりになっちゃった。ごめんね。」
「いいえ。なんだか似た所があるなと、面白くお話を聞いていましたよ。」

「「…もしよかったら…」」


ふふっとかすかに漏れる互いの微笑みの後、彼女は黄色い名前になった。
私はお気に入りの夜の海のポータルを出して、一緒にこの場を後にした。

だって、この人との思い出を「鏡」だけにしてしまう事の方が、私はよほど罪深い気がしたから。

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