サイトリニューアルなら必ずすべき「リニューアルビジョン」の描き方
マーケティングディレクター兼データサイエンティストのtohari.です。
ECサイトにしろ、ブランドサイトにしろ、多くの会社では、3-5年程度に1度WEBサイトのリニューアルを実施しているところが多いと思います。きっかけは、デザインが古くなってしまった、競合サイトに比べ使い勝手が悪い、コンバージョン率を向上させたい、などなど様々です。同時にきっかけとなった理由だけでなく、どうせリニューアルするならあれもこれも、という感じで色々な改善に着手されることと思います。
そこで問題となるのが、限られた予算でどのようなリニューアルを行うのか、コンセプトやターゲット、やりたいことの優先順位を含めたリニューアルの全体像をどう描くのかです。この作業が実は結構難しいですし、とても大切です。
そこで今回は、そのリニューアル全体像の効果的な作り方をご紹介したいと思います。
この方法は、筆者の実際のWEBリニューアル案件でもよく用いており、それなりのお金をいただける現実的な方法論になります。それを無料で公開します。
この作業をリニューアル企画の初期段階(事業会社の方であればオリエンテーション前、制作会社の方であればPJTスタート直後)に行うと、作業に関わる全員でリニューアルとして向かう方向感を共有でき、詳細な企画の精度、その後の作業時間の短縮化、最終的なアウトプット精度など、様々なメリットが得られます。ぜひ、ご自身のWEBサイトリニューアルで活用してみてください。
リニューアルビジョンの3つの構成要素
リニューアルビジョンは、大きく3つの構成要素を明らかにしていくものです。
Current Belief(サイトの現状)
Desired Belief(リニューアルで目指すゴール)
Desired Beliefを実現させるための施策リスト
平たく言うと、「現状」「目標」「施策」ということなのでとても簡単なように思うかもしれませんが、大事な要素を抜け漏れなくきちんと「言い当てる」のは、それほど簡単ではありません。
実際にwebサイトリニューアルのオリエンテーションの中で、きちんと要素が網羅され、しっかりと表現されている資料をほとんど見たことがありません。非常に概念的、抽象的であったり、売上拡大のようにwebリニューアルだけでは実現が難しい内容が示されているだけのケースがほとんどです。
ですが、「言い当て」が適切であるほど、これからやろうとすることの確かさしさ、納得感は得られ、考案・実行する施策の有効性も高まりますので、きちんと言い当てることは極めて重要なことです。
まさにこの「言い当て(の導き)」がコンサルタントの1つの腕の見せどころになるわけです。
ちなみにここで「Belief(=信念)」という言葉を用いているのは、この方法が「Belief Dynamics法」という方法論をベースにしているからです。つまりこの方法は、webリニューアルに関わる各メンバーの信念、思い、考えを棚卸して、そこから1つのあるべき姿を導く方法論ということです。「Belief Dynamics法」は、マーケティング施策というのはそもそも答えが1つではなく、そのような取り組みにおいて何かを決定していくのは実行者の思いに他ならない、という考えが根本にある方法論になります。
3つの構成要素を導くための作業の進め方
作業は大きく3つのステップからなります。
ワークショップ準備
ワークショップの開催
レポーティングと最終協議
1. ワークショップの準備
ワークショップの準備でまず行なっていただきたいのが、メンバー集めです。
webリニューアルに携わるプロジェクトメンバーが基本になると思いますが、PJTメンバー以外でも、できればマーケ部、広報部、システム部、商品開発部、コール受付担当者、各部門責任者など、様々な立場の人に参加いただけるとより良いです。人数的には大きな会社であれば、15-18名程度(5-6名*3チーム程度)を目安としてください。ちなみに人数が少なくても少ないなりにできるので、できる範囲で集める、ということで良いと思います。
資料の準備については、ワークショップでの考案作業の参考情報をまとめておく必要があります。
例えばそれまでのアクセスログ情報は必須だと思います。それ以外にもECサイトであれば売上情報、顧客情報なども準備しておきたいところです。
2. ワークショップの開催
それでは次に、ワークショップの進め方についてご紹介します。
ワークショップでは、上述した3つの要素を導くための討議を行うわけですが、「現状」「目標」「施策」を直接討議するのではなく、「SWOT」討議を行います。
SWOTについてはご存知の方も多いと思いますので、簡単なご紹介にとどめますが、「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「treat(脅威)」の頭文字をとったフレームワークです。ワークショップの中でチームごとに自社サイトにとっての「SWOT」を1つ1つ話し合ってもらいます。
たとえば、「自社サイトの強みとは?」というテーマに対して、「〇〇なコンテンツ」「システム部門とマーケ部門の〇〇作業の協力体制」など、考えられるすべての要素を出し合あってもらう形で進めていきます。
時間割としては以下のようになります。
時間はチーム数によって発表時間が異なりますので、一応の目安としてお考えください。
ちなみに上記時間割は3チームに分かれた場合の目安的な所要時間です。
上記案でも合計で7時間、丸一日かかりますので、そこまで時間が取れない場合は、短縮して行うなど工夫してください。
参考として、以前筆者が行った時のチーム発表内容をご紹介します。
ワークショップでの成果物として、チームごとに上記のような資料が出来上がってくると思います。
ちなみに、ワークショップではファシリテーション役がとても重要です。話が脱線したり、有効な議論が仕切れてない場合は、都度軌道修正する必要がありますし、全体発表に合わせて行うまとめでも、全体傾向を適切に読み取って話をまとめていかなければなりません。そのような作業を行う人を1人、討議者とは別に設けてください。
3. レポーティングと最終協議
ワークショップが終わると、上記で示したような内容がチーム分揃います。その内容をもとに1つの傾向を導くわけですが、ここはある程度力技になってきます。参加メンバーそれぞれの思い、考えから出てきた傾向とキーワードをもとに、本質へとつながる言葉を作る作業(言い当て)が必要だからです。と言いましても、いきなり高いレベルで誰でもできる訳ではありませんので、できる範囲で行なっていくしかありません。
ちなみに筆者の場合の作業プロセスとして、チームごとのSWOT図を1つに書き写す作業から始めます。
このようなものです。
ここからまず「現状」に対するコメントを内容ごとに抜き出します。
そのイメージがこれです。
そして、一通り現状のコメントを抜き出した後、それらをつなぎ合わせて1つのメッセージを作って行きます。こちらのようなイメージです。
この作業を同様に「目標」コメントについても行います。
このように現状と目標が出てくるので、今回のサイトリニューアルのスタート地点とゴール地点が明確になります。
さらにここから、ワークショップの中で出てきた施策アイデアをつなげて行きます。
上図では「コンテンツはどうあるべきか?」という問いに対するアイデアだけですが、ワークショップでは、「機能」「収益モデル」「組織・体制」なども個別に討議して行きますので、WEBサイトに必要な要素ごとに初期案としてのアイデアのロングリストが作られることになります。
これがワークショップレポートの概要であり、PJT初期としてのリニューアルの構想感(リニューアルビジョン)となるわけです。
一般的なオリエンテーションの内容やサイト制作会社からの提案内容と比べても、具体的で納得感の高いものを作り上げることができるとおもいます。
最後に
ここで描いていくリニューアルビジョンは、要素で言えば単純に「現状」「目標」「施策案」ということですが、これまでWEBサイトの運用に関わってきた様々なメンバーの思い・考えを棚卸しし、それらを正しく適切にまとめ上げたリニューアルビジョンでもあります。
この先の作業としては制作会社のメンバーに専門家としての施策アイデアの精緻化を行なっていただき、リニューアルの全体像を具体的な形に落とし込んでいくことになります。
プロジェクトの初期段階でこれだけの精度と具体性を持って全体像を描くことができれば、かなり有効なリニューアル作業になっていくはずです。
レポートづくり(まとめ)には、やや力技が必要ですが、ワークショップの実施までは初めてでもそれなりにできると思いますので、ぜひトライしてみてください。
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