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雪囲

雪囲
狩の名人に供へる獲物かな
母の舌より濃くなりぬ寒鮃
二ツ目の炬燵へ入る仕草かな
口辺の合はぬ女や玉子酒
血色の戻る鍋焼饂飩かな
隼や生抜く術の急降下
玻璃の壁挟む見舞や日向ぼこ
誘致する大病院や冬木立
経絡の人体模型冬北斗
湯冷めせぬかと看護師の項かな
ざく切りの浅漬の焼飯を出す
放課後の少女のパンツ小春かな
羊水の中の溺れぬ冬紅葉
年齢不詳紙漉の背中かな
襟飾や内視鏡飲む十二月
冬至かな潰してマヨネーズの撒拉托
ハンガーの足りぬ今朝なり冬の晴
取入れの棘の傷染む柚子湯かな
煤逃や濃厚接触者なりぬ
空風に一点遠きホームかな
老ゆ父の履かぬ靴下年惜しむ
ぴょん吉の目玉の歪む寒暮かな
人様の気付かぬ呆けや年暮るる
遠火事の容疑者の顔写真かな
休診の予定を配る年詰まる
雪囲の高さより降る予報かな
売声の勢ひを飲む年の市
三回目接種の予約年の内
呟きの垢の凍結古日記
ボーナスを知らぬこを持つ疫禍かな
余命より長き一日や枯尾花
点滴の袋の下がる今年かな
面会時間の倹し新年会
認められないなきがらと寝正月
止むを得ず場所を移して初句会
呼吸器の警報止まぬ初笑
新聞の休刊日なる二日かな
咳く人や五日以内に飲む薬
笑ふには足らぬ腹筋三日かな
寝酒やらぬ睡眠薬の量増ゆる
再診のタクシーを呼ぶ四日かな
病食の皆が同じく七日粥
歯の裏の甘辛きこと松の内
急行の止まらぬ風や寒がはり
寒雀火事全焼の今朝の夢
小寒の親指に付くソースかな
待春や漏らせる糞の後始末
競泳の選手や雪へダイブする
幼さの残る選手の雪眼鏡
蝋梅や散弾銃の発射さる
菊池洋勝拝

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