COVID-19と気象の関連について
「インフルエンザに季節性があるようにCOVID-19にも季節性はあるのか?」
これは誰しもが1度は抱く疑問です。先にはっきり記しておきますが、残念ながら未だに結論は示されていません。ところで、毎日新聞が8/26(水)に配信したニュースの記事に次のようなことが記されていました。
分科会は今月21日に6月以降の感染の再拡大について、「7月27~29日ごろに発症のピークに達した」などとする分析結果をまとめていた。尾身氏は「高温多湿が一定程度影響している可能性は否定できない」との見方を示しつつも、「正式なエビデンス(科学的根拠)は今のところない」と述べた。
この記事を読んで個人的に次のような疑問が湧きました。「今年は梅雨明けが例年より遅れて7月の下旬から8月の初めにかけてだった。梅雨が明けて一般には湿度が下がるタイミングでピークアウトしたのに、"高温"はまだしも"多湿"が影響しているとはちょっと考えにくいのでは?」
そこで、日本におけるサンプル地点として東京の過去の観測データを用いて、高温多湿がCOVID-19の第二波収束に影響した可能性について簡単な考察をしてみました。用いたのは、東京における日平均気温と日平均相対湿度の7/1から8/28におけるデータです。
東京におけるピークはいつだったのか??
まず、東京におけるピークの時期を調べるために東京都のサイトで「発症日別による陽性者数の推移」のデータを分析しました。発症日別のデータは、土日祝の医療機関の休みなどの影響を受けにくいため正確な感染状況の把握に用いられることの多いデータです。
このデータを見ると、発症日基準だと8/6頃を境にして大きく減少したことが読み取れます。(なお、直近の数が急激に減少しているのはデータ集計が完了していないため。)
一般にCOVID-19の感染から発症までに要する日数は5-6日であるとされていますから、東京における第二波の感染ピークは7/31~8/1頃であったのではないかと推測され、それ以降の感染はペースが落ちています。奇しくも今年の関東甲信地方の梅雨明けは8/1に発表されており、この時期を境に気象状況が大きく変化したことが推察されます。それでは実際に、気温、湿度の順にデータをみてみましょう。
気温に関する考察
上のグラフを見ると、8/1の梅雨明けを境にして平均気温が大きく上がったことが分かります。今年の梅雨は天気が悪く肌寒い日が続いたのに対して、梅雨明け以降は猛暑となっており、東京でも8月の猛暑日が8/29時点で11日と観測史上最多となっています。
したがって、平均気温の上昇が感染ペースが落ちる一つの要因となったことは十分に考えられます。もちろん、営業時間の短縮要請など様々な背景があるので結論付けるのは困難ですが、繁華街における人出のデータをみても8/1付近ではっきりとした変化はみられず、むしろ気温の変化の方が明瞭です。
相対湿度に関する考察
上のグラフを見ると、8/1の梅雨明けを境にして平均相対湿度が下がったことが分かります。今年の梅雨は天気が悪く肌寒い日が続いたので相対湿度が80%以上の特に湿った日が多かったですが、梅雨明け以降も湿度の高いじめじめした日が多いとはいえ気温が上がったこともあり平均湿度が80%を超えることはほとんどなくなっています。
したがって、今回の第二波に関して言えば、平均湿度の上昇が感染ペースが落ちる要因となったとは考えにくいです。
「なんとなく」の議論は許されない
冒頭の記事で「高温多湿が一定程度影響している可能性は否定できない」という発言を紹介しました。確かにインフルエンザは乾燥し気温の低い冬に流行するように、一般に高温多湿の環境はウイルスにとって不利に働きます。しかし、今回の第二波に限った話で言えば、「高温」が影響した可能性は十二分に考えられますが、「多湿」が影響したとは考えにくいのではないでしょうか。
まだ誰も正しいことを分かっていないからこそ、1人の気象オタクとして、医学生として、簡単な考察を行いました。時間さえ許せば、東京以外のデータも用いて考察を行いたいですが、しばらくは難しそうです。
ご意見あればお気軽にお願いします。
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