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【IT小説】データの守護者~最後のセキュリティエンジニア~

登場人物紹介

春野 健(はるの けん)

  • 年齢: 22歳

  • 職歴: 大学を卒業後、大手IT企業でセキュリティエンジニアとして働き始めて1年目。

  • 性格: 素直で真面目だが、失敗を恐れるあまり慎重になりすぎる一面がある。新しい挑戦には好奇心旺盛で、周囲からの信頼も厚い。

  • 特徴: 幼い頃から壊れた家電を修理するのが好きで、物事の仕組みに興味を持つ。特にネットワークセキュリティに強い関心を持つ。

村上 修一(むらかみ しゅういち)

  • 年齢: 45歳

  • 職歴: 元政府機関のサイバーセキュリティ専門家。現在は大学で講師を務める。

  • 性格: 温厚で、健の才能を見抜いて指導にあたる。過去の経験から、データ保護の重要性を深く理解している。

  • 特徴: 技術的なスキルと共に、社会的な責任について強調することが多い。

相沢 美咲(あいざわ みさき)

  • 年齢: 28歳

  • 職歴: 健と同じ会社で働く先輩エンジニア。インシデントレスポンスチームのリーダー。

  • 性格: 明るく面倒見が良いが、過去のトラウマから失敗を過剰に恐れてしまう部分がある。

  • 特徴: 人を引っ張る力が強く、リーダーシップに優れている。一方で、時折自分を追い詰めてしまうことも。


第1章: 不正アクセスの影

オフィスに潜む異変

健はいつものように朝8時に出社し、デスクに向かった。新入社員としての仕事にも徐々に慣れ始め、いくつかの小さなプロジェクトを任されるようになっていた。だが、その日、彼の目に飛び込んできたのは、インシデント管理システムに記録された赤いアラートだった。

「またか…最近、この手のアラートが増えてるな。」

隣のデスクでモニターを睨んでいた美咲が呟いた。

「何か大きな問題ですか?」

健は恐る恐る尋ねた。美咲は一瞬戸惑った表情を見せた後、深く息をついて答えた。

「外部からの不正アクセスが増えてるの。ここ1週間で、ログを追いきれないくらい。」

美咲が指摘した不正アクセスとは、システムやデータベースに対して認可されていないアクセスの試みを指す。これが成功すると、企業の重要なデータが盗まれたり、悪意ある目的に利用されたりする可能性がある。

初めての責任

健はその日、美咲の指示でアラートログの解析を担当することになった。システムに記録されたログを眺めながら、彼は次第にその奥深さに引き込まれていく。

「このログ、どこかおかしい…。」

健は気づいた。特定のIPアドレスが、毎日同じ時間帯に同じ形式でアクセスを試みている。普通のユーザーの行動ではない。

「美咲さん、このIPアドレスを確認してもいいですか?」

「うん、お願い。」

健は手早くスクリプトを組み、IPアドレスの逆引き検索を行った。しかし、結果は予想外だった。そのIPアドレスは、匿名プロキシサーバーを通じて隠されていた。

「これは簡単には追えないな…。」

美咲が後ろから画面を覗き込み、驚いた声を上げた。

「これ、単なるスクリプトキディ(初心者ハッカー)じゃないわね。もっと組織的な匂いがする。」

不安と決意

健の心に緊張が走った。大きなインシデントに関わることは初めてだったからだ。万が一、対応を誤れば会社に多大な損害を与えることになる。

「怖いな…でも、これが僕の仕事なんだ。」

健は心の中でそう呟き、モニターに向き直った。彼は村上先生からの教えを思い出した。

「技術は人を守るためにある。恐れるな、自分を信じろ。」

その言葉が、彼に小さな勇気を与えてくれた。

新たな展開

ログ解析を続ける中で、健は重大な手がかりを見つける。ある時間帯のアクセスログに、明らかに意図的に組まれたパターンが見られた。これを基に健は、美咲と共にインシデント対応チームに提案を持ちかけた。

「このパターンを追跡することで、相手の目的が見えてくるかもしれません。」

提案が通り、健は初めて正式な対応プロジェクトに参加することになった。初めての大きな挑戦に、彼の心は期待と不安で揺れ動いていた。

深まる調査

健と美咲は、時間をかけてアクセスログの詳細を分析し、攻撃の痕跡を追跡していった。その過程で、攻撃者が複数のプロキシを使い分けていることや、特定のターゲットシステムに執拗にアクセスを試みていることが分かってきた。

「この手口、まるで事前にシステムの構成を知ってるかのようね。」

美咲の一言に健も同意する。このような動きは、内部の情報が漏洩している可能性を示唆していた。

「もしかしたら、社内にも協力者がいるかもしれません。」

その言葉に、健の心に新たな不安が広がった。内部犯行を疑うことはチーム全体の士気に影響を与える。それでも、冷静に状況を見極める必要があった。

予期せぬ発見

調査が進む中、健は攻撃の一部がテスト環境をターゲットにしていることを突き止めた。通常、テスト環境は外部からのアクセスを遮断する設定になっているが、何らかの理由でこの制御が無効化されていた。

「誰かが意図的に設定を変更した可能性があります。」

この事実により、内部調査の必要性が高まった。健と美咲は、攻撃者の行動を予測しながら、ログデータを元に攻撃元の正体に迫る。

初めての対峙

最終的に、健たちは攻撃者が利用している一部のサーバーを突き止めた。それは一般的な商用サービスの一部で、悪意のある利用者が隠れ蓑にしていたものだった。攻撃者を追い詰めるためには、さらなる技術的な工夫が必要だった。

「ここで止めたら意味がない。最後までやり切りましょう。」

健の言葉に美咲も力強く頷いた。彼らの新たな挑戦が始まる瞬間だった。


第2章: ネットの影の世界

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