
【IT小説】メタバースに閉じ込められた男 〜バグによりログアウト不可〜
登場人物
ソウタ・タカハシ
職歴:都内のシステム開発会社で働く若手SE。最近はクラウドソリューション(サーバやインフラをインターネット経由で提供するサービス)やアジャイル開発(短いスプリントで素早く開発を進める手法)など最先端技術に興味を持ち、積極的に勉強中。
性格:真面目で向上心が強く、しかし焦りやすい一面がある。自分が成功したときにはガッツポーズを取るほど素直に喜ぶ反面、プレッシャーや失敗に弱く、エラーが出ると胃痛を起こしがち。
ミユキ・アサクラ
職歴:同じ会社に所属する中堅SEで、テスト工程やデバッグ(プログラムの誤りを見つけ、修正する作業)を中心に担当している。UI/UXにも興味があり、デザイン部門とも連携することが多い。
性格:面倒見がよく、周囲をよく観察して適切にアドバイスをする。一方で、ハマると集中し過ぎて周りが見えなくなることも。ソウタの良き先輩として、彼の不安を和らげる存在。
トール・サイトウ
職歴:フリーランスのセキュリティエンジニア。クラッキング(システム侵入)対策やペネトレーションテスト(脆弱性を発見するために意図的にシステムへ攻撃を試みるテスト)に精通している。大手企業のネットワーク監査などを請け負うことも。
性格:クールでドライな印象を受けるが、実は誰よりも仲間思い。論理的思考が得意で、冷静に状況を分析する。たまにジョークを言うが、あまり受けないのが悩み。
リナ・カワムラ
職歴:ソウタのチームが携わるプロジェクトのクライアント側で働く女性。会社ではディレクターとして、新規事業やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進役を担う。メタバースの新規導入プロジェクトでも積極的に意見を出す。
性格:明るく社交的で、ポジティブ思考の塊。タスク管理が得意で、「このタスクはいつまでに」「リスクは何か」という確認を頻繁に行う。失敗を恐れずに一歩踏み込む挑戦的な姿勢が魅力。
第1章:バーチャルの扉が開く
突然のメタバーステスト
――ここは現実世界のオフィス。ソウタは自席で新プロジェクトに関するメールを見つめていた。
「メタバース新規プロジェクトに参加する方は、今日15時のミーティングルームへ。」
そう書かれた社内メールに、ソウタの心はふと高鳴る。単なる興味本位といえど、最先端の技術に触れられるのはエンジニアとして刺激的だ。特に、VRやAR、そしてメタバースが融合した世界には大きな可能性を感じていた。
ただ、ソウタは少し不安も覚えていた。最近、クライアントのリナが新規事業を強く推進しており、納期が厳しい中で進めることになるのは間違いない。負荷試験(システムに大きな負荷をかけて耐久度をテストすること)やセキュリティ対策など、やるべきことは山積みだ。しかも、ソウタ自身はこのところ残業が続いていて、疲れがたまっている。「これ以上のタスクを背負って、ちゃんとやれるだろうか……」。
しかし、同僚のミユキに声をかけられ、思い切って参加を表明することにした。若手のソウタにとっては大きな成長チャンスだし、何よりメタバースに興味があるならやってみよう――そんな後押しを受けたのだ。
メタバース体験へ
15時、ミーティングルーム。スーツ姿のリナがプロジェクターの前に立ち、プロジェクト概要を説明する。その中で、メタバース空間での初期テストについて、参加者が体験する時間を設けるという話があった。
リナは目を輝かせながら言う。
「みなさん、HMD(Head-Mounted Display:頭部に装着して映像を映し出す装置)と手袋型のデバイスを使って、メタバース空間にログインしてみましょう。実際の操作感やUIを確かめてほしいんです。」
ソウタは鼓動が速まるのを感じながら、機材をセットする。VRなら何度か体験したことはあるが、本格的な業務向けメタバースは初めてだ。背中に軽い緊張が走る中、視界を覆うデバイスを装着し、手袋から伝わる微妙な振動を感じる。
「じゃあ、いきます!」というリナの合図とともに、ソウタは視界が白っぽくなったのを見届け、次の瞬間にはまったく別の世界に立っていた。
仮想空間での第一歩
そこはまるで近未来的な都市のようだった。ホログラムの広告板が空間に浮かび、道行くアバターたちがカジュアルな格好で歩いている。頭上を見上げると、青空というよりはデジタル的なグリッドが広がっているのがわかる。
「す、すごい……」
ソウタは思わず声を上げる。その声はメタバース空間の中でも再現され、他の参加者にも伝わる仕組みになっているようだ。
耳元にはチームの音声チャットが届く。ミユキの声が少し弾んでいた。
「ソウタ、私もそっちにいるよ。すごいでしょ? このレイトレーシング(光の反射や屈折をリアルに表現する技術)効果! レンダリングがリアルタイムっていうのが信じられないくらい綺麗。」
確かに、高負荷の処理をこんなに滑らかに再現する技術は革新的だ。サーバサイドのGPU(Graphics Processing Unit)を使ったクラウドレンダリングかもしれない。ソウタは感嘆の息を漏らしながら、周囲をきょろきょろと見回す。
「わーっ、すごいなこれ。まるでゲームの世界だね……って、あれ?」
ソウタは自分の足元に違和感を覚えた。動くたびに、やたらと足音が大きく響くのだ。
「なんだ、バグか?」と思いながら、試しに歩き回ろうとすると、メタバースの床に軽く埋まっているような気がする。
「おいおい、初日から足がコンクリートにハマってるよ……!」と半分冗談めかして呟くが、本当に足が動かない。妙な焦りがこみ上げてきた。
足が抜けない
焦ったソウタは、思わずミユキやリナに呼びかける。
「ちょ、ちょっと助けて! 足が抜けないんだけど!」
「え、何それ?」
リナの声が驚きに満ちている。どうやら同じ空間にいるが、離れた場所にいるようだ。アバターの座標を確認してくるから待っていて、と返事があったが、ソウタからは動き回ることすらままならない。
(これはまずいな、ログアウトすれば解決するか?)と頭をよぎったが、試しにシステムメニューを開こうとしても何の反応もない。通常であれば、視界の端に浮かぶメニューからログアウトボタンを押せば戻れるはずだ。
「……あれ? おかしい。メニューが開かないぞ。」
汗がじわりと出てくる。足が床にめり込んだ状態のまま、ソウタはなんとかESCキー(Escapeキー:通常システムメニューを呼び出すキー)相当の操作を試すが、まったく反応がない。
「こういう時ってどうすればいいんだ?」
脳裏には、初めて触るトラブルの予感が広がる。まさか、バグによってログアウト不可状態になるなんて、想像すらしていなかった。
不穏なエラー表示
「システム管理者を呼んできます!」というリナの声が聞こえたが、どうやら社内の管理コンソールからもソウタのアバターを切断できないらしい。
「トールさんに連絡したら、何かわかるかも……」
そんな声も遠くで聞こえる。フリーランスのセキュリティエンジニアであるトールの名前が出てきたが、ソウタ自身はまだ面識がなかった。
そうこうしているうちに、ソウタの視界の端にエラーコードらしきものがちらつく。
「Error 0xA13: Connection Overflow」
その文字が一瞬表示されたかと思うと、画面がチラつくように乱れ、都市の景色が大きく歪んだ。頭がクラクラする。リアルタイムで身体に追従しているはずのモーションキャプチャ(人間の動きをデジタルデータに変換する技術)が乱れているのか、視覚的にも身体感覚的にも気持ちが悪い。
「ちょ、やめてくれよ……こんな形でメタバース酔いするのは勘弁だ……」
ソウタは思わず独り言をつぶやくが、助けを求めることすら難しい状況だ。次々にデータが乱れ、しまいにはアバターの腕が伸びたり縮んだりする謎の現象が起き始める。
予期せぬ再起動と孤独
「――ソウタ君! 聞こえる?!」
耳をつんざくようなノイズにまじって、ミユキの声がわずかに聞こえる。しかし、もう返事すらうまくできない。ソウタの意識は完全に混乱していた。
次の瞬間、ソウタの視界が一気にブラックアウトする。頭に装着したHMDが壊れたのか、それともシステムが強制終了したのか。とにかく周囲の喧騒や声もすべて途切れた。
長い沈黙のあと――。
視界がゆっくりと戻ると、ソウタは見慣れない路地裏のような場所に一人で立っていた。先ほどの未来都市の大通りとはまるで様相が違う。壁にはクラックの入ったホログラム広告がちらほらあり、人影はまったくない。
「……どういうことだ? ここはどこ?」
当然ながら誰も答えてくれない。
ソウタは静かに息を整え、まずは落ち着こうと自分に言い聞かせる。メニューを開こうと何度か試すが、相変わらず反応がない。どうやらログアウト不可の状態は続いているようだ。
希望の光を探して
不安が募るが、ソウタの中のエンジニア魂がこの状況を「トラブルシューティングの対象」と捉え始める。
「バグなら、エラーログ(システムの誤りを記録するデータ)を確認するか、システムのコンソールにアクセスできれば原因を探れるはずなんだけど……」
しかし、ここはメタバース内部。物理的にコンソールを操作できる環境がない。もしデバッグするなら、メタバース内にある管理端末や開発者向けの仮想ポータルを探すしかないだろう。
路地裏を見回すと、電子ロックがかかった扉が一つ見える。そこに近づくと、廃棄された端末のようなものがうずくまっているのがわかる。画面はひび割れているが、かろうじて電源が入っている。ソウタは祈るような気持ちで、そっとその端末の電源ボタンを押した。
ヴーン……と低い駆動音が響き、モニターに古いOSのようなロゴが表示された。
「こいつで何ができるんだ……?」
ソウタは興味半分、不安半分で画面を操作し始める。タッチパネルは反応が悪いが、どうやら文字を入力できそうだ。
「もしかして、ここで何かコマンドを打てば、システムログにアクセスできるかも……?」
そこで、ソウタは試しに「help」と入力してみる。すると、思った以上に詳しいコマンド一覧が表示された。どうやら、メタバースの開発者用コンソールが一部流用されている可能性がある。
「よし、これなら少しは原因を探れるかも。」
ソウタは少しだけ心が軽くなるのを感じた。
初めての「仲間」のメッセージ
すると、不意に端末画面の端にポップアップが出現した。まるでチャットメッセージのようだが、送り主の名前は「???」と表示されている。
「な、なんだこれ?」
ソウタが警戒しつつもメッセージを開くと、短い文章が表示される。
「もしや閉じ込められたのか? 同じくログアウトできない者より。」
一瞬、ゾッとする。自分と同じようにログアウト不可の状態になっている誰かが、この仮想世界にいるらしい。ソウタは急いで返事を書き込む。
「そうなんです。足が床にハマって、再起動してこんな場所に来てしまい、メニューも開けず困っています。そちらはどんな状況ですか?」
すると数秒後、メッセージが返ってきた。
「詳しく話したいが、ここは危険だ。セキュリティホールを狙うプログラムがうろついているらしい。安全な場所で会えないか?」
セキュリティホールを狙うプログラム――それは、いわばウイルスや不正アクセスを狙うエンティティのようなものか。仮想空間を荒らすクラッキングツール(不正侵入や改ざんを行うソフトウェア)が実行されている可能性がある。
(やっぱりメタバースって、便利な反面、こういうリスクもあるんだな……)と改めて恐怖と興奮が交錯する。
「安全な場所……といっても、僕はここから動けません。どこが安全なのかもわからないし……」
そう打ちかけたところで、ふと手が止まる。ここは開発者コンソールのようだから、何かしら移動コマンドがあるかもしれない。ソウタはすぐにhelpコマンドの一覧をスクロールし、「Teleport」と記された項目を見つけた。
「ワープできるのか……いや、管理権限がないと難しいかもな。」
ソウタは期待半分、不安半分で、試しにteleport x=100 y=200 z=50のようなコマンドを入力してみるが、エラーが返るばかり。やはり権限が足りないらしい。
それでも試行錯誤を繰り返すうちに、部分的に権限を奪うような裏技的なスクリプトを発見する。どうやらこの端末自体が非公式のテスト端末らしく、開発途中の機能がゴチャゴチャと入り乱れているようなのだ。
感情の渦
ソウタは心の中で葛藤する。
「ここから逃げたい。でも仮に逃げても、また何かのバグで飛ばされるだけかもしれない。そもそも、こんな裏口みたいな方法でメタバースをいじって、さらにシステムを壊してしまわないだろうか……?」
少し手が震える。自分がやろうとしているのは、下手をすればクラッキング行為と紙一重だ。フリーランスのセキュリティエンジニアのトールなら、こういうときは冷静に判断するのだろうが、ソウタには自信がない。
「大丈夫、やるしかない。誰かと合流して、この状況をなんとかしないと……」
緊張の糸とともに、ソウタは意を決した。こんな薄暗い路地裏に一人でいるより、多少リスクをとってでも安全な場所を探したい。そう思うと、手の震えは少しだけ収まった。
第一歩のコマンド入力
ソウタは端末に再び向き合い、見つけたスクリプトを編集し始める。
「ソースコードが読める……。割とC系の言語っぽいな。細かい構文は違うけど、変数の書き方や関数の呼び出し方は似ている。」
こんな状況でもエンジニアとしての血が騒ぎ、思わずプログラムを触る手に気合が入る。
「よし、転送先を安全そうなロビーかどこかに設定してみよう。あ、でもロビーの座標がわからない……」
そうつぶやきながら、システムのクエリ(情報を検索・抽出する操作)を走らせる。幾つかのロビーエリアのデータを拾い出し、座標らしき数値を確認する。
「ここだ! 'MainLobby01' ってのがある。そこに飛べないかな?」
ソウタはテレポートコマンドの行に座標パラメータを上書きし、管理権限を偽装するスクリプトを前につけてみる。
「多分、これで動作する……はず。えいっ!」
最後はほとんど勢い任せでエンターキーを押す。端末の画面が一瞬チカチカと光り、ソウタの身体がふわっと宙に浮いたような感覚を覚える。そして、ほんの一瞬の暗転を経て――視界が再び開けた。
新たな場所と疑念
ソウタが到着した場所は、一見するとホテルのロビーのような広い空間だった。大理石調の床に高い天井、受付デスクのようなカウンターも見える。壁には近未来的なオブジェが飾られ、淡い照明がほのかに空間を彩っている。
「おお……ちゃんとテレポートできたのか?」
ソウタは安堵の笑みを浮かべながら、まずは周囲を警戒する。人影は見当たらないが、さっきの路地裏よりは明るく、施設的にも管理されていそうな雰囲気だ。
「ここで少し休めるかも……」
そう思った矢先、耳元でノイズ混じりの声が聞こえた。ミユキだ。
「――ソウタ……? ……聞こえる……?」
断続的に音が途切れるが、どうやらメタバース内での音声チャットが部分的に復旧しているらしい。
「ミユキ先輩! 聞こえます! 僕、今ロビーみたいなところに来てます!」
思わず大声で答えるソウタ。しばらくするとノイズの合間に、ホッとしたようなミユキの声が返ってきた。
「よかった……そっちは大丈夫? 会社側で強制ログアウトを試してるんだけど、どうしても切れなくて……」
その言葉に、ソウタは少し胸が締め付けられる。どうやら現実側でもすぐには助けられないらしい。
(やっぱり、メタバース内で何とかしないとダメなんだな……)
初の出会い
すると、ロビーの奥から足音が聞こえてきた。ソウタは思わず身構える。
やがて現れたのは、黒いジャケットを纏った男性アバター。顔立ちは無骨で、シンプルな髪型をしており、見るからにセキュリティエンジニアっぽい雰囲気が漂っている。
「もしかして……トール・サイトウさん……?」
ソウタが恐る恐る声をかけると、男は無言で近づき、ちらりとソウタを見やる。ややあって、低い声が返ってきた。
「そうだ。お前が噂の“ログアウト不可になった若手SE”か?」
ソウタは小さく肯く。まだ会って数秒だが、トールは余計な感情を交えないクールな人物だとわかる。ある種の安心感もあるが、威圧感も少しある。
「これ、どういう状況か教えてもらえますか?」
ソウタは簡単に経緯を説明する。足が床にハマってメニューが開けなくなり、その後強制再起動のようなことが起こり……。トールは黙って聞いていたが、途中でふっと笑みを漏らした。
「興味深いな。こんな不具合は初めて見る。APIゲートウェイ(各種サービスを統合し、外部とやりとりする仕組み)が狂ってるんじゃないかって推測してるんだが、確証はまだない。こっちもログアウトできなくてな。」
そう言うと、トールはロビーの壁に貼られた端末を操作し始めた。どうやら彼も既にメタバースの内部システムにアクセスする術を見つけており、あれこれ調査しているらしい。
重なる不安と一筋の希望
「そっちもログアウトできないなら、一緒にこの問題を解決しないといけませんね……」
ソウタはそう呟きながら、トールの背中を見つめる。実際、心強い味方だ。セキュリティ分野に強いトールの力があれば、今の状況を打破する糸口が見つかるかもしれない。
しかし、同時に不安もこみ上げる。もしシステム障害の規模が大きいのなら、会社やクライアントに大損害を与える可能性がある。最悪の場合、プロジェクト自体が頓挫するかもしれない。それがソウタにとっては何よりも怖かった。せっかくチャンスと思って飛び込んだメタバースプロジェクトが、最悪の形で終わってしまうかもしれないのだ。
「ま、それでもここでじっとしてても仕方ないか……」
ソウタは拳をぎゅっと握り、少しだけ笑みを作ってみる。自分で自分を鼓舞しないと、心が折れてしまいそうだった。
すると、トールが振り返り、低い声で言う。
「ちょうどいい、協力してほしい。お前、プログラム解析は得意か?」
「得意……かどうかわかりませんが、普段からコードを読むのは嫌いじゃないです。」
ソウタが正直に答えると、トールは小さくうなずいた。
「なら、このメタバースのログを一緒に読み解いてみよう。何らかの不正アクセス痕跡や、障害の原因があるかもしれない。」
「チーム」の意味
それから二人は、ロビーの一角にある仮想モニターを広げ、システムログをしらみつぶしに調べ始める。
ログファイル(システムが動作した履歴を記録するファイル)は膨大な量で、何万行にも及ぶテキストの山だ。しかし、仮想空間ならではの可視化ツールがあり、視覚的にエラーや警告メッセージをハイライトして追跡できる。ソウタはそのツールを使いながら、次々にキーワードを検索する。
トールは時折、専門的なセキュリティ用語を口にする。ソウタには少し難しいが、「ここはSQLインジェクション(データベースへの不正な命令を送り込む攻撃)っぽいログが残ってるな」「いや、これは普通のレコード更新かもしれない」などと言いながら淡々と分析を進めていく。二人のやり取りは、まるで対処すべきトラブルを次々と洗い出していくエンジニアリングの現場そのものだ。
正直、ソウタは不安でいっぱいだが、こうして目的に向かって行動している間は、ほんの少しだけだが安心感を得られる。そして心のどこかで、ミユキやリナ、そして会社のみんなに「自分は頑張っているよ」と言いたい気持ちが湧いてくる。
終わらない探索
数時間にも及ぶログ解析。メタバース内の時間感覚は現実とはズレがあるのか、体感的にはやたらと長い。集中力も限界に近づいてきた頃、トールが急に声を上げた。
「……あった。これだ。」
画面には、何やら怪しいコード断片が表示されている。内容をざっと見るに、外部からこのメタバースのAPIを強制的に書き換えようとしている痕跡があるようだ。まるでバックドア(不正な侵入を可能にする仕組み)を仕込んで、全参加者のアカウント権限を奪う意図があったかのように見える。
ソウタは衝撃を受ける。
「これって、誰かが意図的にやったんですか? バグじゃなくて、クラッキング的な……?」
トールは眉間にシワを寄せる。
「そうかもしれないな。少なくとも、ただのバグではない。もしこれが完成していたら、ログアウト不可状態に留まらず、アバター情報そのものが乗っ取られる可能性がある。」
「そんな……!」
ソウタは背筋が寒くなる。もしログアウト不可どころか、アバターまで乗っ取られたら……現実と仮想の境目が曖昧な今の時代、取り返しのつかないことになるかもしれない。
第一章の終わりに
深いため息がロビーにこだまする。ソウタの頭の中は、恐怖と疑問、そしてわずかながらの闘志が入り混じっていた。
(誰がこんなことを企んでるんだ? そして、僕はどうやってこの状況を終わらせられる?)
トールはロビーの窓越しに、仮想都市の夜景を見つめる。彼の横顔は、何かを決意したように固い意志を感じさせた。
「お前一人じゃ無理だろう。俺も手伝う。あと、会社側にも協力者がいるはずだ。そいつらをうまく巻き込めば、ここから脱出できる可能性はある。」
ソウタは小さくうなずく。
「もちろんです。僕だって、こんなところにずっと居たくない……みんなの元へ戻りたいですよ。」
そう呟くと、胸の奥が少しだけ熱くなる。最先端のメタバースで誰もが自由に行き来できるはずの空間が、今は閉ざされた監獄のようにも感じる。
だが、同時にこの世界には限りない可能性も感じる。ビジネスやエンターテインメント、コミュニケーションが融合した巨大なプラットフォーム――それが間違いなく未来を変えていく技術だ。
だからこそ、ソウタは諦めたくない。エンジニアとして、この新しい技術の闇と光をしっかり見極めたいという思いが生まれ始めていた。
「よし……まずはこの怪しいコードを解析して、対処法を探しましょう。ログアウトできないのを解決するには、仕組みそのものを修正するしかありませんから。」
ソウタの中に、いわば開発者魂が燃え始める。歯を食いしばりながらも、必ずやり遂げるという意志がわずかに目を覚ましたのだ。現実のオフィスに戻るために。ミユキやリナと笑い合うために――。
一方、トールは静かに微笑む。ほんの少しだけ、口元がゆるんだようにも見える。
「お前のその前向きなところ、嫌いじゃないぜ。さあ、まずは手がかりを集めに行くとするか。」
ロビーの自動ドアが開き、暗闇に包まれた仮想都市へと繋がる道が見える。
こうして、二人はわずかな手がかりを頼りに、メタバースに閉じ込められた男――ソウタの壮大な冒険の第一歩を踏み出すのだった。
第2章:初めての仲間たち
不可解なロビーにて
メタバースのロビーに到着し、トール・サイトウという頼もしそうなセキュリティエンジニアと合流したソウタ・タカハシ。しかしログアウト不可という深刻な状況は変わらないままである。
ロビーは一見するとホテルのような静謐(せいひつ)な空間だが、深夜のように薄暗く、人影はほとんど見当たらない。外には広大な仮想都市が広がっているが、今のところ行く当てもわからない。
ソウタの耳には時折、“通信エラー”のアラート音が混ざったノイズが聞こえている。どうやらこのロビーも完璧に安定しているわけではなく、何らかの通信障害を抱えているらしい。
トールはロビーの壁面にある端末を再度操作していた。
「ここにログが集約されているわけじゃない。多分、運営側が用意したサテライトサーバ(メインサーバの補助的に置かれる小規模なサーバ)みたいなものだな。大して情報も落ちてない。」
落胆気味に言葉をこぼすトール。一方、ソウタは思考を巡らせる。
(ここに他の参加者は来ないのだろうか……。それとも、既にログアウトできず、どこか別の場所にいる?)
そんな不安がちらつく中、扉の方からかすかな足音が聞こえた。
「……あれ?」
ソウタとトールは互いに目を見合わせ、身構える。するとロビーの自動ドアが開き、そこから4人ほどのアバターがぞろぞろと入ってきた。
「はぁ……ここなら少し安全かと思って来たけど……」
先頭に立っていたのは、長髪の男性アバター。顔にはどこか疲労の色が見え、肩をがっくり落としている。
「なんか、みんなログアウトできないって騒いでるんだけど、ほんとなのか……?」
その後ろには、明るい髪色の女性アバターがいて、キョロキョロと落ち着かない様子だ。
ロビーに入り込んだ4人は、ソウタとトールの姿を見るとほっとした表情を見せた。どうやら自分たちだけが取り残されているわけではないのだと安心したのだ。
ソウタは、彼らも自分たちと同じくバグの被害にあったのではないかと直感的に感じ、すぐに声をかける。
「もしかして、みなさんもログアウトできない状態ですか?」
すると、長髪の男性が「ああ、まさに……」と肩をすくめた。
出会いと自己紹介
新たに現れた4人のアバターは、それぞれが異なる個性や職業バックグラウンドを持っているようだった。ソウタとトールは、まずは簡単な自己紹介をしようと促す。
ユウキ・フジシロ
職歴:都内の別会社で働くアプリ開発エンジニア。主にモバイルアプリ(スマートフォン向けのアプリケーション)の設計や実装を担当。
性格:やや神経質で、細かなデザイン仕様にもこだわるタイプ。今回のメタバースプロジェクトには、ビジネスパートナーとして外部参加していた。
「いやあ、まさかこんな不具合に巻き込まれるとは……」と嘆きつつも、興味がある分野だけにいろいろ分析したい気持ちもあるようだ。
レイナ・ミズノ
職歴:外資系IT企業のマーケティング部門所属。メタバース関連の新規事業をリサーチするために、このテストに参加。
性格:社交的でフットワークが軽い。海外のクライアントとのやり取りが多く、英語混じりの言葉がときどき飛び出す。
「こんなトラブルでパニックになる人が多いけど、逆に言えば“リアルタイムレポート”のいいネタになるわ!」と妙にポジティブ。
ゴウタ・アリサワ
職歴:システムインテグレーターに勤めるインフラエンジニア。クラウドアーキテクチャやネットワーク構築が専門。
性格:無口だが仕事になると饒舌(じょうぜつ)になるタイプ。今回のメタバース構築プロジェクトでは、通信インフラ部分を検証していた。
「この事象はサーバ負荷じゃなく、どっちかというとセキュリティ要因かな……」と冷静に分析を始めている。
マイ・コンドウ
職歴:ゲーム開発会社で3Dモデリングやキャラクターデザインを担当しているクリエイター。
性格:明るく元気で感情が表に出やすい。プログラム面の知識は深くないが、ビジュアルのバグやシェーダ異常を素早く見つけられるのが強み。
「キャラが勝手に変形したりするの、ホラー映画みたいで気持ち悪いですよね……」と苦笑いしている。
ソウタは彼らの話を聞きながら、このメタバースがいろいろな企業の試験運用に使われていることを改めて知る。みんな仕事の一環として、このテスト版メタバースにアクセスしていたわけだが、まさかこんな形で集合するとは思わなかっただろう。
同じ悩みを抱える仲間
「ログアウトできないとなると、仕事どころじゃないよ……」と肩を落とすユウキ。
「私も本来なら、明日の午前中に海外クライアントとのオンラインミーティングがあるのに……こんなところで足止め食らっちゃって困るわー!」とレイナは頭を抱える。
ゴウタは黙々と端末をいじりながら、「社内のネットワークにはアクセスできないのか……VPNトンネルも張れないからどうしようもない……」とため息交じりに呟いている。
マイはそんなみんなを見ながら、「なんか、みんな半泣きかも。でも大丈夫です、こういうトラブル、意外とアイデア次第でなんとかなるんじゃないかな!」と明るく励ましていた。その姿を見て、ソウタは少しだけ救われる思いがした。
(僕が感じている不安は、ここにいる全員が感じているんだ。自分だけじゃない……そう思うと、心細さが少し和らぐかもな。)
トールは4人をひととおり観察してから、控えめに言葉を発する。
「みんな、ここに集まったのは何かの縁だ。お互い、今は独りで動き回るのは危険だと思う。合流できてよかった。」
実際、先ほどソウタが遭遇したように、ログアウトどころかアバターごと消失してしまうリスクもあるかもしれない。人が集まっていれば、それだけ情報共有や助け合いがしやすいだろう。
チームの結成
ソウタは意を決して、このロビーを拠点にした“調査チーム”を作ることを提案する。
「僕とトールさんは、ログ解析やセキュリティの視点で何が起こっているのか調べています。でも人数が増えれば、もっといろいろな視点でアプローチできると思うんです。例えばUIの動作確認とか、サーバインフラの負荷状況とか……。」
するとユウキが目を輝かせる。
「アプリ開発者としては、メタバースのフロントエンドがどう実装されているのか興味があるんですよね……。こんな形で見ることになるとは思わなかったけど、やるだけやってみたい。」
レイナも、「マーケティング観点で、この異常事態がどんな影響を及ぼすかをリポートにまとめたいわ。ビジネスチャンスがあるかもしれないし」と前向きだ。
ゴウタとマイも、それぞれの専門性を活かしたいと同意する。ゴウタはネットワークとサーバ負荷、マイはグラフィックスと世界観デザインの知見から、このメタバースの不具合がどの領域に起因しているのかを探りたいという。
(なるほど、こういう人たちが集まれば、お互いに協力し合って解決の糸口を見つけられるかも……!)とソウタは胸を高鳴らせる。
まずは現状把握
ロビーの中心にあるスペースを簡易的な“会議室”と見立て、全員で輪になって座れるようにアバターを配置する。あえて同じ場所に集まるのは、心を落ち着けるためでもある。
「じゃあ、まずは自分たちが現在把握している状況を共有しましょう」とソウタが切り出す。
ログアウト不可
全員が同じ症状を抱えている。メニューを開いても反応がなく、会社側や運営側からの強制ログアウトも機能していない。
先ほどのエラーコード(0xA13など)も出ているが、原因は特定できていない。
通信障害&サーバの不安定さ
メタバースの音声チャットやロビーへのアクセスに遅延やノイズが出ている。不安定なサーバによる部分的な通信エラーが発生中。
ゴウタいわく、「サーバサイドのAPIゲートウェイが頻繁に落ちているんじゃないか」とのこと。
未知のクラッキング疑惑
トールとソウタの調査では、外部からの不正アクセス(クラッキング)が行われている形跡がある。ログイン情報やアカウント権限を奪うためのバックドアコードが仕込まれかけていた可能性。
意図的な攻撃なのか、自動ツールの暴走なのかは不明。
空間のバグ
グラフィック乱れ、座標ズレ、UI消失など、多岐にわたる不具合が報告されている。マイによれば「シェーダのコンパイルエラーが断続的に起きているかも」とのこと。
メインプログラムが破損しているか、攻撃の影響でファイルが壊れている可能性も。
問題は多岐にわたり、時間が経つほど障害が拡大するリスクがある。
「こりゃあ、急いだ方がいいね……」とマイは明るい口調で言うが、その顔には微妙な緊張感が漂っていた。
連絡手段の確保
チームとして活動するにあたり、まず必要なのは連絡手段の安定化だ。メタバース内の音声チャットは不安定だし、テキストメッセージも届くときと届かないときがある。
「プライベートチャンネルを作れないだろうか?」とユウキが提案する。
「ゲームとかではよくあるチームボイスチャット機能が使えれば、ここにいる全員で連絡を取り合いやすくなるんじゃない?」
トールは腕を組みながら端末を見て、「このロビーの端末は権限が低いから直接機能追加はできないが、さっきの路地裏端末のような“抜け道”があるかもしれない」とつぶやく。
ゴウタも興味を示し、「サーバへ直接リクエストを投げて、P2P(Peer to Peer)みたいな仕組みを作る方法を探せばワンチャンあるかも……」と目を輝かせる。
当然ながらグレーゾーンな手段だが、この状況では仕方がない。
レイナは「もしそれができれば、みんなで素早く情報共有ができるわね!」と嬉しそうに手を打つ。ソウタも「じゃあ、通信まわりをチューニングしてみましょうか」と前向きに段取りを考え始める。
思わぬ人物との再会
そんな会話が行われている最中、ロビーの入り口にもう一人、人影が現れた。淡い紫色の服をまとった女性アバター――。
「もしかして……ミユキ先輩?」
ソウタが驚いて声を上げると、彼女は大きく頷いた。
「やっと見つけた……ソウタ君!」
ミユキ・アサクラは、ソウタの先輩SEでテスト工程やデバッグの担当。どうにかこのロビーまでたどり着いたらしい。
「会社のほうでも何とか強制ログアウトを試してみたり、緊急システム停止を検討したりしたんだけど、うまくいかないの。私も同じようにここに閉じ込められて、アバターを動かして探索していたらやっとあなたたちを見つけたのよ。」
ミユキの話によれば、リナ・カワムラも会社側で対応を試みているが、運営サイドの認証システムが乱れておりアクセス権限が剥奪される状況とのこと。
こうして合流したミユキは、テストやデバッグの専門知識を活かしてチームをさらに力強くサポートしてくれるはずだ。
不安と励まし
ミユキの合流により、ソウタ、トール、ユウキ、レイナ、ゴウタ、マイ、ミユキ――合計7人(実質的にはリナも含め8人)が協力できる体制になった。
「人数が増えたのはいいけど、ここから先がどうなるのか不安だ……」とユウキ。マイも「現実世界で倒れてたりしないかな……」と怖がる。
そんな二人にミユキは微笑みかけ、「大丈夫。まだ身体はオフィスにあるから、周りがきっと何とかしてくれるわ。私たちはメタバース内でできる限りの情報を集めて、出口を探しましょう」と励ます。
ソウタも「僕たちはエンジニアだから、こういうトラブル対応は慣れてる……はずですよね!」と自分に言い聞かせるように声を上げ、少しだけ笑顔を見せた。
ささやかな初仕事
チームが最初に取りかかる作業は、ロビー周辺の安全確認だった。
「ここがどれだけ安定してるか分からないから、危険エリアがないか調べないと」とミユキ。
トールも「今後、ここを拠点にするならセキュリティホールやクラッキングの入り口があるかチェックしないと」と賛同する。
ゴウタとマイが先行してロビーの周囲を探索。誰もいないカフェやビルの玄関を覗くが、スタッフはおらず、NPCの姿さえ見当たらない。
「誰か説明してくれるキャラがいればいいのに……」とゴウタはため息をつくが、マイは「3Dモデルのクオリティはすごいんですけどね……」と苦笑いを浮かべている。
突如現れるモンスター?!
探索中、ユウキとレイナがロビーから少し離れた広場を発見する。そこには噴水やベンチがあり、イベント会場のような雰囲気だ。
「ここ、普通に動いてるっぽい……」とレイナがベンチに腰かけかけた瞬間、隅の方に“黒い塊”のようなものが蠢(うごめ)いているのを見つける。
「な、何あれ……?」
ユウキが指さすと、その塊からノイズのような触手が噴水を侵食し始めた。バチバチと火花のようなエフェクトが散り、まるで攻撃しているかのように見える。
「こっちに来る……?!」とレイナが後ずさりし、ユウキも慌てて端末を取り出す。
「これ、攻撃用に改変されたオブジェクトなのか? それともただのバグ?」
直感的に危険を感じ、二人はすぐソウタやトールに連絡を取った。
危険なバグ・オブジェクト
広場へ急行したソウタやトール、ミユキ、ゴウタ、マイたちは、黒い塊が明らかに異常な挙動を示しているのを確認する。
「これ、データが破損したオブジェクトか、それともクラッキングツールが暴走してるのか……」とソウタが混乱気味に声を上げると、トールは端末で分析しながら答える。
「おそらく外部から侵入して、オブジェクトを強制的に書き換えたんだろう。下手に近づくとアバターのデータまで壊れるかもしれない。」
マイは怖がりながらも、「テクスチャとアルファチャンネルがぐちゃぐちゃに混ざってる……こんなの初めて見た」と興味半分・恐怖半分の様子。
「とにかく、ここで消されちゃ困るし、一旦抑えこまないと……!」とゴウタが言い放つ。
初めての連携プレー
黒い塊はじわじわと噴水を侵食し、近づいたアバターを巻き込む危険がある。そこでチームは急いで“バリア”を作る作戦を立てた。
ゴウタが運営サイドに頼んで仕込んでいた裏口的なACL(アクセス制御リスト)を利用し、ロビー周辺の地面データを書き換えて“壁”オブジェクトを生成する方法だ。
ゴウタがアクセス権限のルートを確保。
ソウタが座標情報を指定して壁となるオブジェクトを生成。
ミユキとマイが物理衝突判定(コリジョン)やグラフィックス乱れを最小化するためのシェーダ設定をサポート。
ユウキとレイナはログを監視し、周囲に他の脅威がいないかチェック。
トールは全体の進行を監視し、エラーが出た際のリカバリ計画を立てる。
こうして、現場の即席チームは一斉に端末へコマンドを入力し、バグ・オブジェクトとの“バーチャルバトル”に臨む。
壁の完成と一時的な安息
コマンドが適用されると、噴水を囲むように透明な壁がせり上がり、黒い塊を閉じ込める形になる。外側への侵食は止まり、これ以上近寄ってくる気配はない。
「よっしゃ……!」とマイが小さくガッツポーズ。ユウキは椅子にへたり込み、「すごい、間に合った……」と安堵の表情を浮かべる。
トールは短く「ナイスだ」と言い、ソウタも「これで一安心ですね。ありがとうございます、ゴウタさん!」と声をかける。
ゴウタは「いや、みんなが同時入力を協力してくれなきゃ無理だったよ」と照れくさそうに笑う。
仲間との絆が芽生える瞬間
初めての緊急対応を通じて、チームはぐっと結束を高めた。
ミユキは「こんな危機的状況だけど、誰かと一緒だと心強いね」と微笑み、レイナやマイも「怖かったけど、みんなで助け合えば大丈夫かも」と語り合う。
ユウキはトールに「さっきのオブジェクトのログ、後で見せてもらえますか?」と声をかけ、さらに深い解析に興味を示している。
ソウタはそんな光景を眺めながら、チームワークの大切さを実感する。ログアウト不可という深刻な問題があるものの、もう独りではないのだ――。
「仲間がいるなら、きっとこのバグだらけの世界でも打開策を見つけられるはず……!」と、わずかながら希望が湧いてきた。
新たなる一歩
ロビーへ戻り、しばしの休憩を取る一同。ソウタはトールに話しかける。
「次はどうしますか? リナさんを探して合流するのが先決ですよね。」
トールは少し考え、「そうだ。彼女ならクライアントとして、このメタバースの裏仕様を知っているかもしれない。管理者コンソールがどこにあるのかとか、運営側へのアクセスルートとか……」と頷く。
ゴウタは地図データを確認しながら、「ビジネスビル区画にリナさんがいるという話だったな。そこに行くには広場を通る必要があるけど、他にもバグ・オブジェクトがあったらまた時間がかかりそうだ」と苦い顔。
それでも、ミユキは「このロビーにいても事態は変わらないから、動くしかないわ」と意志を固めている。
レイナもユウキも、そしてマイも、「怖いけどやるしかない」とそれぞれの役割を胸に抱いている。ソウタは心の中で強く決意を固める。
「よし、行きましょう。僕たちが諦めない限り、必ず道は開けるはず……!」
こうして仲間たちとの絆を深めながら、次なる目的地――ビジネスビル区画へと向かう準備を整えるのであった。
第3章:浮かび上がるシステムの闇
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?