見出し画像

【IT小説】人間とAI、どちらが正義か?〜機械判事が下す判決〜

登場人物

天城 湊(あまぎ みなと)

  • 職歴: 大手SIer勤務のセキュリティエンジニア。プロジェクトリーダー(PL)経験あり。

  • 性格: 理論派で冷静だが、情に厚い一面もある。ユーモアが好きで、時折ジョークを交える。

  • 特徴: 問題解決のためにとことん調査するタイプ。上層部の理不尽な要求に悩むことが多い。

五十嵐 誠(いがらし まこと)

  • 職歴: 法務省のAI開発プロジェクト責任者。過去に弁護士経験あり。

  • 性格: 完全合理主義者。人間の曖昧さを嫌うが、自分の正しさに絶対的な自信を持っている。

  • 特徴: 「法律は感情ではなく、事実で決まるべき」が信条。

ジャッジ・ゼロ

  • 職歴: AI裁判官。機械学習とディープラーニングを駆使し、過去の判例データから最適な判決を導き出す。

  • 性格: 感情なし。純粋なロジックと法律に基づいて判断を下す。

  • 特徴: 常に完璧な判決を下すことを目的とし、人間の裁判官との違いを明確にする。


第1章:AI裁判官、爆誕!

プロジェクトへの招集

天城湊は、オフィスの片隅でコーヒーをすすりながら、AWSのセキュリティ設計書を眺めていた。彼は**「ゼロトラスト・アーキテクチャ」**(※信頼を前提としないセキュリティモデル)について考えを巡らせていた。社内のネットワークを完全に信頼しないこのモデルは、従来のセキュリティ対策とは一線を画すものであり、湊にとっても大きな関心事だった。

彼がコーヒーを飲み干そうとしたその時、突然、上司の中村に呼び出される。

「天城、今すぐ会議室5に来てくれ」

「また面倒な案件ですか?」

「言ってる暇があったら来い!」

返事をする間もなく通話が切れた。

湊は眉をひそめながらラップトップを閉じ、立ち上がる。こういう急な呼び出しには慣れていたが、それが良い知らせだった試しはない。デスクに残された書類を片付けながら、彼は溜め息をついた。

「なんで俺ばっかりなんだよ…」

湊はバッグを肩にかけ、オフィスの廊下を進む。途中、同僚の佐藤とすれ違い、軽く会釈を交わす。

「また何か押し付けられたのか?」

「まあな。たぶんロクな話じゃない。」

佐藤は同情するように肩をすくめた。「健闘を祈るよ。」

会議室5のドアを開けると、既に数人のメンバーが集まっていた。湊は席に着くと同時に、会議が始まった。

AI裁判官「ジャッジ・ゼロ」

「さて、君には新しいミッションを与える」

会議室に入ると、ホワイトボードに「法務省 AI裁判官プロジェクト」と書かれていた。

「え? 法務省? なんで俺が?」

「政府主導のこのプロジェクトでは、AIを使って裁判官の業務を自動化するんだ。名付けてジャッジ・ゼロ。」

湊は思わず噴き出しそうになった。

「いやいや、冗談ですよね? AIに裁判やらせるって…法務省、大丈夫ですか?」

五十嵐が静かに口を開いた。

「人間の裁判官は感情に左右されすぎる。同じ犯罪でも、裁判官によって判決が異なることは大きな問題だ。AIなら、法律に基づいた完全公正な判決が下せる。」

「いや、それはそうですけど…」

「天城くん、これは単なるシステム開発ではない。日本の司法制度を根底から変える歴史的なプロジェクトなんだよ。」

湊は呆れながらも、興味を引かれた。

「つまり、俺がAI裁判官のシステム設計をするってことですね?」

「そういうことだ。」

「…やるしかないか。」

こうして、湊はAI裁判官開発プロジェクトに巻き込まれることになった。


第2章:正義とは何か? AI vs 人間の判断

初めてのAI判決

ジャッジ・ゼロが導入されて初めての裁判が始まった。

「被告人は万引きをしたとされている。しかし、彼は病気の母親のために薬を盗んだのだ。」

五十嵐は厳格な表情で湊に言った。「AIにとって情状酌量は不要だ。法律に従い、事実を基に判決を下すべきだ。」

湊はふと、被告人の表情を見た。彼は肩を落とし、絞り出すように語った。「母が薬を飲まないと命が危なかった。どうしても手に入れられなくて…」

ジャッジ・ゼロの判決が画面に表示される。

「被告人、有罪。罰金50万円。」

裁判官席に座る人間たちは、AIの判決に頷いた。しかし、傍聴席からはどよめきが起こる。「これが公正な裁判なのか?」「事情をまったく考慮していないじゃないか!」

湊は内心、違和感を覚えた。「果たして、これが本当に正しいのか…?」

彼は思わず五十嵐に問いかける。「人間の判断なら、このケースは減刑される可能性がありますよね?」

五十嵐は眉をひそめる。「確かに裁判官によっては、執行猶予を付けることもあるだろう。しかし、それが本当に正義なのか? 人間の感情によって判決が揺らぐこと自体、問題だと思わないか?」

「でも、法律というのは社会のためにあるものですよね? 社会が求める公平性とは、必ずしも冷徹なロジックだけじゃないと思うんですが。」

湊の疑問は深まるばかりだった。「AIが下す判決は本当に公平なのか?」

五十嵐は満足そうにうなずいたが、湊の心には疑問が残った。「このままでは、AIは完全なる裁判官ではなく、ただのデータ処理機に過ぎないのではないか?」


第3章:AIの暴走、そして裁かれる人間

ここから先は

3,710字
この記事のみ ¥ 490
PayPay
PayPayで支払うと抽選でお得

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?