
【IT小説】SIerを辞めた日 〜フリーランスという名の茨の道〜
登場人物
高橋 健太(たかはし けんた)
職歴: 大手SIerで5年間勤務。客先常駐を中心にシステム開発・保守運用に従事。
性格: 熱血でポジティブだが、やや楽観的すぎるところがある。
特徴: 「まあ何とかなるっしょ」が口癖。技術力はあるが、交渉や営業が苦手。
佐々木 亮介(ささき りょうすけ)
職歴: フリーランス歴3年の先輩エンジニア。
性格: クールで現実主義。慎重に物事を進めるタイプ。
特徴: 「契約書をちゃんと確認しろ」が口癖。健太を何かと気にかけている。
田中 未来(たなか みく)
職歴: フリーランスエージェントのコンサルタント。
性格: 明るく社交的だが、営業力が強くしたたか。
特徴: 「高単価案件、興味ありません?」が決まり文句。
山本 直樹(やまもと なおき)
職歴: 健太の元上司。現在もSIerに勤務。
性格: 古い価値観を持っているが、部下の面倒見はよい。
特徴: 「フリーランスなんて不安定だぞ」が口癖。
第1章:SIerを辞めた日
会社を辞める決意
高橋健太は、またしても深夜のオフィスでエラーにまみれていた。目の前の画面には**「500 Internal Server Error」**の文字。手元のRed Bullはすでにぬるくなり、集中力の限界が近づいている。
「健太、まだ終わらんのか?」
背後から声をかけてきたのは山本直樹、彼の上司だ。彼は長年この業界に身を置き、今や課長職についているが、未だにコードも書くし、インフラの構築も自ら手掛ける職人肌のエンジニアだった。
「すみません、APIゲートウェイの設定ミスで、リクエストが適切に処理されてないみたいで……」
健太は額に手を当てながら答える。
「とにかく急げ。クライアントが明日までにデモを見せろって騒いでる」
そんなの、俺の知ったこっちゃない。心の中でそう叫びつつも、健太は手を動かし続けた。
転職か、フリーランスか
翌朝、オフィスの窓から朝日が差し込む中、健太はぐったりと椅子に寄りかかった。
「こんな生活、いつまで続けるんだ……」
友人の佐々木亮介が数年前にフリーランスとして独立し、自由な生活を送っているのを思い出す。フリーランスなら、好きな案件を選び、高単価な仕事を受けられる。そう思うと、今の環境がひどく不自由に感じた。
しかし、頭のどこかで**「本当にフリーランスになれるのか?」**という不安もあった。
その日の夜、佐々木にLINEを送った。
健太: 「お疲れ。ちょっと話聞いてほしい」
佐々木: 「お前、また徹夜? よくやるな」
健太: 「もう限界かもしれん。フリーランスって実際どう?」
佐々木: 「楽じゃないぞ。仕事取るのも、自分で営業するのも大変だ」
健太: 「でも、お前楽しそうじゃん」
佐々木: 「まあな。でも、俺がうまくやれてるのは、最初の1年でめちゃくちゃ苦労したからだぞ」
健太の心に迷いが生じる。
退職届を出す日
翌週、健太は意を決して退職届を持って山本課長の前に立った。
「課長、ちょっとお時間よろしいですか?」
「なんだ?」
「僕、退職します」
山本の顔が一瞬硬直した。
「……お前、次決まってるのか?」
「いえ、フリーランスになろうと思ってます」
数秒の沈黙の後、山本は大きくため息をついた。
「フリーランスなんて不安定だぞ」
「それでも、自分の力でやってみたいんです」
山本は何か言いたげだったが、最終的には「まあ、好きにしろ。ただし、最後の引き継ぎはちゃんとやれよ」とだけ言った。
その瞬間、健太の心は晴れやかだった。長年の呪縛から解き放たれる感覚。だが、これが茨の道の始まりだとは、この時点ではまだ気づいていなかった……。
第2章:フリーランスの洗礼
初めての案件探し
フリーランスになったはいいものの、健太はすぐに現実の厳しさを知ることになる。クラウドソーシングサイトに登録してみたものの、**単価の低い案件**ばかりが並んでいた。
「え、フルスタックエンジニア募集で時給1500円!? これってバイトより安くない?」
しかも、案件内容も怪しいものばかり。開発経験を問わずに「簡単な作業」などと書かれた案件に応募すると、結局フルタイム稼働を求められるケースも多かった。契約条件をしっかり確認しないと、ブラックな案件に巻き込まれることがわかってきた。
「こんなの、全然自由じゃないじゃん……」
SNSで仕事を探してみても、詐欺まがいの案件が多く、なかなか信用できる仕事に巡り合えない。報酬が発生しないまま仕事だけ進めさせるクライアントも存在し、健太は焦り始める。
「このままだと生活できない……。貯金もあと数ヶ月分しかないのに」
そんな状況の中、ふと佐々木のことを思い出し、彼に相談することにした。
「佐々木、どうやって仕事取ってるの?」
「基本はエージェント経由だな。あと、過去のつながりを活かすのも大事だぞ」
「エージェントってどうなの? 自分でやるよりも安くなりそうなイメージがあるんだけど」
「確かにエージェント経由だと手数料は取られる。でも、安定して案件を受けられるし、変なクライアントを避けられるメリットもある。信用がないうちは、エージェントを使うのもありだぞ」
健太はエージェントの存在を知り、さっそく調査を開始。いくつかのエージェントを比較しながら登録を進めることにした。
「でも、エージェントを使ったら、自分の好きな案件って取れないんじゃないか?」
「最初はそう思うかもしれないけど、エージェント経由で実績を積めば、次第にいい案件も回ってくるし、自分の希望条件を通しやすくなるんだよ」
健太は徐々にエージェントの仕組みを理解し始め、信用できる案件を探すために行動を始める。そして、彼は田中未来という営業コンサルタントと会うことになる……。
第3章:詐欺案件と信用の重要性
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