
【IT小説】スマートシティの死角 〜監視社会の裏側〜
登場人物紹介
風間 陽介(かざま ようすけ)
職業: スマートシティ開発プロジェクトのエンジニア
職歴: 新卒で大手IT企業「ネオシティ・テクノロジーズ」に入社。スマートシティの基幹システム開発を担当。
性格: 正義感が強く、技術に対するこだわりが人一倍強い。だが、少しおっちょこちょいで、たまに空回りする。
立花 優斗(たちばな ゆうと)
職業: 陽介の先輩エンジニア
職歴: 5年間ネオシティ・テクノロジーズに勤め、主にシステムアーキテクチャ設計を担当。
性格: 冷静沈着で、リスクを常に考慮した行動をとるタイプ。だが、内心では新技術に対する興味も持ち、陽介の情熱に感化されることも。
レッドフォックス(本名不明)
職業: ハッカー
職歴: 不明。ネット上で暗躍する匿名の存在。
性格: 皮肉屋で飄々とした態度だが、倫理観を持っている。技術的な知識が豊富で、スマートシティの"裏側"を知っている。
第1章:未来都市の落とし穴
新人エンジニアの夢
風間陽介は、スマートシティ開発 という近未来的なプロジェクトに携われることに胸を躍らせていた。ネオシティ・テクノロジーズは、国が進める大規模都市開発計画の中核を担う企業であり、その最先端プロジェクトに参加できることは、エンジニアとして願ってもない機会だった。
「陽介くん、初日からワクワクしてるな」
後ろから声をかけてきたのは先輩エンジニアの立花優斗だった。彼は社内でも有名な実力者でありながら、気さくな性格で後輩の面倒見が良い。陽介は彼に導かれるように、システム開発部のフロアへと向かった。
彼の目の前に広がるのは、大量のディスプレイとエンジニアたちが忙しく作業する光景だった。まるで近未来映画のワンシーンのようだ。
「すげぇ……」
陽介は思わず呟いた。
「はは、まだ驚くのは早いぞ」
優斗は笑いながら、彼の肩を軽く叩いた。
未来都市の中枢システム
スマートシティは、IoT(Internet of Things:モノのインターネット) と AI(人工知能) を駆使して都市全体をデジタル管理する未来都市だ。交通制御、電力管理、防犯システム、医療データの最適化 など、すべてのデータが統合され、人々の暮らしを快適にする仕組みとなっている。
陽介が配属されたのは、その中でも都市全体のデータを管理する基幹システム「Nexus Core」 の開発チームだった。
「このNexus Coreは、すべての都市データを処理する中枢システムだ。これが正常に動かないと、スマートシティの機能が崩壊する」
優斗が説明する。陽介は思わず息をのんだ。
「…まるで都市の心臓部ですね」
「その通りだ。だからこそ、こいつのセキュリティは鉄壁でなくちゃならない」
陽介は大きく頷きつつ、モニターに表示されるコードの海を眺めた。しかし、その中に 奇妙なログ を見つけることになるのは、まだ少し先のことだった。
彼は気になって、そのログを調査することにした。しかし、その先には予想を超えた事態が待ち受けていた。
第2章:消えたデータの謎
異常なログの発見
ある日の深夜、陽介はいつものようにNexus Coreのログを確認していた。通常であれば、すべてのアクセス履歴やシステムの挙動は記録されているはずだ。しかし、ある特定の時間帯だけ、ログがごっそりと消えている ことに気づいた。
「何だこれは…?」
彼は目を凝らし、データベースのバックアップを確認する。しかし、そこにも不自然な欠損があった。まるで誰かが意図的に証拠を隠しているかのようだった。
気になった陽介は、他のログファイルも調査することにした。アクセス履歴を精査すると、奇妙な点に気が付く。消えているログの前後に、通常あり得ないような不審なアクセスパターン が残されていた。
「これは……誰かがシステムに不正侵入している?」
陽介は急いで通信履歴を洗い出した。Nexus Coreは都市全体のデータを統合するシステムであり、万が一ハッキングされれば、都市全体が大混乱に陥る可能性がある。
しかし、調べれば調べるほど、違和感が募った。ログの消失はランダムではなく、特定の深夜2時から3時の間に集中している。そして、それが毎週決まった曜日に発生していることに気がついた。
「規則的に発生している……これは偶然とは思えない」
さらに解析を進めると、その時間帯には異常に高いネットワーク負荷が発生していることも分かった。まるで、大量のデータが一気にどこかへ送られているかのようだった。
「誰かがNexus Coreのデータを外部に送信している…?」
彼の心臓が高鳴る。これは単なるバグではなく、確実に誰かの意図によるものだ。
「このまま放置するわけにはいかない……」
陽介は、詳細なログ解析を行うために専用のスクリプトを用意し、監視を強化することを決意した。
優斗の警告
翌朝、陽介はこの件について立花優斗に報告した。
「先輩、これを見てください。特定の時間帯だけログが消えているんです。バグにしては不可解すぎます」
優斗は眉をひそめ、画面を覗き込む。
「……確かに、これはおかしいな。普通、システムのログがここまで完全に消えることはない」
「何者かが意図的に削除しているんでしょうか?」
優斗は深く息を吐いた。
「もしかすると、何かしらの内部犯行の可能性もあるな」
陽介は思わず背筋が凍るような感覚を覚えた。
「ですが、こんな大規模なシステムでログが完全に消えるなんて、ただの犯行じゃ済まされませんよね?」
優斗は顎に手を当て、しばらく沈黙した後、静かに言った。
「……これは、社内の誰かだけの問題じゃないかもしれない」
「え?」
「このシステムには政府の監視も入っている。つまり、ログの消失が意図的なものなら、それを隠蔽する何者かがいるということだ」
「でも、ログの削除なんて一部の管理者しかできませんよね?」
「それが問題なんだ。単なるミスならいいが、もし組織ぐるみでやっているとしたら、これは相当根深い問題だぞ」
陽介は思わずごくりと唾を飲み込んだ。
「……どうします?」
優斗は短く息を吐き出しながら、ディスプレイに映るログデータを指差した。
「もう少し掘り下げてみよう。ログだけじゃなく、ネットワークの挙動やアクセスの流れも分析する。これがどこに繋がっているのかを探るんだ」
「了解です!」
陽介は急いでPCに向かい、より詳細な解析に取り掛かった。
その日の夜、陽介のパソコンに突如として不審なメッセージが表示された。
『この件に深入りすると、後戻りできなくなるぞ』
「……レッドフォックス?」
メッセージの送信元は匿名化されており、追跡は難しそうだった。しかし、これは明らかに誰かが陽介に対して警告を発しているのだ。
「一体、何が隠されているんだ…?」
陽介はさらに調査を進めることを決意する。
第3章:ハッカーからの挑戦状
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