
【IT小説】PM(プロジェクトマネージャー)はつらいよ 〜仕様変更地獄〜
登場人物紹介
主人公:田中タケル(27)
職歴:新卒で大手SIerに入社し、5年間システムエンジニア(SE)として開発に従事。
性格:熱血漢で正義感が強いが、少し抜けているところがある。
得意分野:クラウドインフラ(AWS)、バックエンド開発(Python, Java)。
苦手分野:顧客折衝、曖昧な要件整理。
口癖:「そんなの聞いてないっす!」
チームメンバー
佐藤ユウキ(29)
職歴:5年間、バックエンド開発を担当。開発力はピカイチ。
性格:冷静沈着。無駄なことを嫌う効率主義者。
得意分野:アーキテクチャ設計、データベース最適化。
苦手分野:クライアントとの雑談。
口癖:「それ、本当に必要ですか?」
高橋ミナ(26)
職歴:フロントエンドエンジニアとして4年の経験。
性格:明るくチームのムードメーカー。
得意分野:UI/UXデザイン、JavaScript(React)。
苦手分野:地道なバグ修正。
口癖:「なんか、見た目ダサくない?」
山本ケンジ(35)
職歴:テックリード。10年以上の経験を持つベテラン。
性格:豪快で大雑把だが、実力は確か。
得意分野:プロジェクト全体の技術選定、リファクタリング。
苦手分野:細かい仕様調整。
口癖:「まあ、なんとかなるっしょ。」
クライアント:大手企業の行政システム担当者(木村部長)
職歴:官公庁システムの管理経験20年。
性格:柔和な表情とは裏腹に、無茶振りが得意。
得意分野:要件の後出し。
苦手分野:スケジュール管理。
口癖:「ちょっとだけ仕様変えていいですか?」
第1章:PM、爆誕!
PMへの昇格(という名の無茶振り)
田中タケル(27)は、SEとして5年間、ひたすらコードを書き続けてきた。
その日も、AWS Lambda の デプロイパイプライン(自動でコードを本番環境に反映する仕組み)を構築していた彼は、突然上司の杉本課長に呼び出された。
「タケル、ちょっといいか?」
彼の頭の中に、嫌な予感が駆け巡る。課長に呼び出される時、それは大抵 仕様変更 か プロジェクトの火消し のどちらかだ。
「お前、次の案件でPMやってみないか?」
「え?」
あまりに唐突すぎる。PM(プロジェクトマネージャー)といえば、スケジュール管理やクライアントとの折衝を行う役職だ。コードを書くのが仕事のタケルには、まったくの未知の領域だった。
「いやいやいや! 僕、PMの経験ゼロですよ! というか、コード書いてる方が向いてるって!」
「まあ、そう言うな。タケルもそろそろ上流工程を学ぶ時期だろ?」
まるで親が子どもに「そろそろお小遣いの管理くらいしなさい」と言うような軽い口調だ。
「それに、この案件は大手企業の行政システム開発だぞ。成功すればキャリアアップ間違いなし!」
キャリアアップという言葉に、一瞬心が揺れる。
「それに、メンバーは佐藤、高橋、山本だ。頼れるやつらばかりだぞ」
「(いや、クセが強すぎるだろ…)」
タケルの心の声は叫んでいたが、上司の圧に押されてしまう。
「…やります。」
こうして、タケルの PM地獄 の扉が開かれた。
初めてのクライアントミーティング
プロジェクトのキックオフミーティング。
クライアントは 大手企業の行政システム担当者、木村部長 だ。
「皆さん、今日はお集まりいただきありがとうございます。我々の要件はシンプルです。」
その瞬間、佐藤と高橋が目を見合わせた。
「(シンプル? 絶対ウソだろ)」
「我々が求めるのは、既存システムをクラウドネイティブ化(従来のシステムをクラウド環境に最適化すること)すること。そして、ユーザーの利便性を向上させることです。」
「具体的にはどんな機能が必要ですか?」
「大きく分けて、以下の3つです。
オンプレミス環境のクラウド移行(AWS)
新規データ連携基盤の構築(API開発)
マイグレーション中もシステムを停止しないこと(ゼロダウンタイム移行)
タケルは心の中で叫んだ。
「(シンプルって言ったよな!?)」
しかも最後の「ゼロダウンタイム移行」とは、システムを止めずに新しい環境へ移行すること。高度な技術と綿密な計画が必要な鬼仕様だ。
「なお、納期は3ヶ月後でお願いします。」
「3ヶ月!?(常識的に無理だろ!)」
PM初心者のタケルは、早くも 仕様変更地獄 の気配を感じ始めていた。
第2章:仕様、増殖する
仕様変更の嵐、吹き荒れる
タケルがPMになって一週間。最初は穏やかに見えたプロジェクトも、クライアントからの「ちょっとだけ仕様変えていいですか?」が連発し、次第に混沌と化していく。
「ちょっとだけ」と言いながら、それはまるで終わりなき迷宮の入り口だった。
佐藤が冷静に仕様変更リストを眺める。
「タケル、これ、元の仕様と比較すると3倍のボリュームになってるんだけど。」
「(えっ!?)」
タケルは絶望的な気持ちで、プロジェクト管理ツールのチケットを確認する。仕様変更 のタグがついたタスクが、果てしなく増殖していた…。
変更リストには「ログイン認証の二要素化」「リアルタイム監視機能の追加」「CSV出力機能の強化」などが追加されており、どれも簡単に済むものではなかった。
「タケル、これ、本当にこの期間で対応可能なのか?」
高橋が困惑しながら尋ねる。彼女の言葉を聞くまでもなく、タケルの脳裏にはスケジュール崩壊の危機が浮かんでいた。
「ちょっとだけ…ちょっとだけ…って、どこがちょっとなんだよ!」
心の中で叫びながら、タケルは頭を抱える。だが、ここで諦めるわけにはいかない。
「とりあえず、変更リストを整理して、どれが本当に必要なのかクライアントに確認しよう!」
そう言いながらも、彼の直感は告げていた。
「(きっと、全部“必要”って言われるんだろうな…)」
第3章:炎上の序曲
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?