【IT小説】ネットワークの境界線~脆弱性を狙う者たち~
登場人物
主人公
名前: 鈴木 翔太
年齢: 25歳
職歴: システムエンジニア歴3年。現在は中堅SIerで主にネットワークインフラの設計と構築を担当。最近はセキュリティ案件にも興味を持ち始めている。
性格: 責任感が強いが、自己評価が低い一面もある。トラブルが発生すると焦りがちだが、同時に学習意欲は非常に高い。
上司
名前: 佐藤 健一
年齢: 40歳
職歴: IT業界歴15年。ネットワークアーキテクトとして高い評価を受けている。翔太の直属の上司で、理論的かつ冷静な性格。若手の育成に熱心。
性格: 厳しいが公平で、失敗を恐れず挑戦することを重視している。翔太をよく観察しており、彼の潜在能力を信じている。
先輩
名前: 山田 美咲
年齢: 28歳
職歴: セキュリティエンジニア歴5年。ペネトレーションテストや脆弱性診断のエキスパート。翔太の相談相手で、彼にとって頼れる存在。
性格: 明るく社交的だが、時折辛辣な意見を述べることもある。問題解決においては冷静で理論的。
第1章: 初めてのセキュリティ事故
トラブルの始まり
それは、梅雨の湿った空気が漂うある日のことだった。翔太は、社内の主要サービスであるECサイトの運用保守を担当していた。平凡な一日になるはずだったが、昼過ぎに突然、チームのチャットが慌ただしくなった。
画面の向こうで佐藤の冷静な声が聞こえる気がした。翔太は背筋が冷たくなるのを感じながら、すぐにログを確認した。サーバのCPU使用率が100%に張り付いている。さらに調査を進めると、外部からの大量のリクエストが確認された。
「これは…DDoS攻撃(分散型サービス拒否攻撃)か?」
DDoS攻撃とは、多数のデバイスから一斉に大量のリクエストを送りつけ、サーバを過負荷状態にして機能を停止させる攻撃手法だ。翔太はかつて書籍で読んだ知識を思い出しつつも、実際に目の前で起きている事態に戸惑いを隠せなかった。
翔太の頭の中は、次第に過去の失敗やプレッシャーが蘇り、重くのしかかっていた。「自分がここで何とかしなければならない」という思いが、緊張と共に心を締め付けた。周囲の同僚たちがテキパキと動く中、自分の未熟さが浮き彫りになるような気がした。
焦りと失敗
「まずい、対策を急がないと…」
翔太は慌ててファイアウォールの設定を確認し、攻撃元と見られるIPアドレスを遮断リストに追加した。しかし、数分後、再び同じ現象が発生した。攻撃元が次々と変わる。これは、一般的なIPフィルタリングでは対応できない規模の攻撃だったのだ。
翔太は無力感に苛まれた。
「自分のせいでサービスが止まってしまうかもしれない…」
焦りの中でミスが重なり、彼は一時的にサービスの稼働をさらに不安定にしてしまう結果に陥った。「なぜこんなことに」と胸を押さえ、翔太は深く息を吐いた。ミスをしたことへの後悔と、解決方法が見つからない焦燥感が心を蝕んでいた。
その時、美咲がやってきた。彼女は翔太の顔を見て言った。
「大丈夫、パニックにならないで。まずは攻撃の詳細を把握しよう。」
美咲の冷静な態度に、翔太の心は少し落ち着きを取り戻した。その穏やかな口調には、問題解決への自信が溢れていた。
協力と知識
美咲は**WAF(Web Application Firewall)**のログを確認し始めた。WAFは、ウェブアプリケーションに特化したファイアウォールで、攻撃パターンを検知して遮断する機能を持つ。
「翔太、見て。これはHTTP Floodだね。」
HTTP Floodは、大量のHTTPリクエストを送りつけることでサーバに負荷をかける攻撃手法だ。
「どうして今まで気づけなかったんだろう…」
翔太は自分を責めた。だが、美咲は軽く笑って言った。
「初めてのことなんだから仕方ないよ。それより、どうやって防ぐか一緒に考えよう。」
美咲はすぐにホワイトボードに攻撃の概要を図解し、次に試すべき手順を整理した。その明確な説明と理論的なアプローチに、翔太は次第に気持ちを切り替え始めた。
「今の状況では、まず一部のリクエストを切り離す仕組みを考える必要があるね。」
翔太は美咲の助けを借りて、WAFのルールを調整し、特定のパターンのリクエストを遮断するよう設定を行った。さらに、CDN(コンテンツ配信ネットワーク)を活用して攻撃トラフィックを分散させる案も検討した。
調整作業の合間に、翔太は美咲に質問を重ねた。美咲はその都度、丁寧に答え、時には自身の過去の失敗談も交えてアドバイスを送った。
「翔太、失敗は学ぶためにあるんだよ。私だって最初はミスばかりだった。」
その言葉に、翔太の肩の力が少し抜けた。
初めての達成感
数時間の奮闘の末、サービスは安定を取り戻した。翔太は安堵しながらも、自分がまだまだ未熟であることを痛感した。だが、それと同時に、解決への手順を積み上げた経験が自信にもつながっていた。
佐藤が彼に声をかけた。
「よくやった。美咲の力も借りたが、最後まで諦めなかったのは君の成長だ。」
その言葉に、翔太の胸は熱くなった。
「これがセキュリティの仕事か…。面白いけど、もっと学ばないと。」
解決の過程で知識を深めた翔太は、早速セキュリティ関連の書籍を注文し、新しいスキルを身につける意欲を燃やした。この日が、彼のセキュリティエンジニアとしての第一歩となる。
第2章: ハッカーとの攻防
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