
【IT小説】SOCの夜勤 〜エンジニアたちの見えない戦争〜
登場人物紹介
斉藤 駿(さいとう しゅん)
年齢: 25歳
職業: 大手企業のセキュリティオペレーションセンター(SOC)所属エンジニア
性格: 明るく好奇心旺盛だが、時々調子に乗る。新しい技術に対する興味は人一倍強い。
スキル: 基本的なネットワークセキュリティの知識はあるが、実践経験は乏しい。Pythonを少し書ける程度。
鬼塚 剛(おにづか ごう)
年齢: 35歳
職業: SOCのベテランエンジニア
性格: 冷静沈着で無口。実力主義で、新人には厳しいが、心の奥では後輩の成長を願っている。
スキル: フォレンジック調査(サイバー攻撃の痕跡を解析し、証拠を発見する技術)やログ解析の達人。
佐々木 悠(ささき はるか)
年齢: 30歳
職業: SOCの中堅エンジニア
性格: 明るくおちゃらけた性格。駿に対しては兄貴的存在。
スキル: インシデント対応能力が高く、特にマルウェア解析(悪意のあるプログラムの動作を分析し、影響を特定する技術)に長けている。
桐島 雅人(きりしま まさと)
年齢: 40歳
職業: SOCリーダー
性格: 温厚で頼れる存在。常に冷静で、チーム全体をまとめる。
スキル: セキュリティインシデント管理(企業が被害を最小限に抑えるための対応策を計画・実行する)や、ネットワーク設計に精通。
第1章:初めての夜勤と未知の戦場
SOCの扉を叩く
斉藤駿は、SOCの入り口に立っていた。
「よし…大丈夫。いける。」
彼は胸の前で拳を握り、深呼吸をする。
初めての夜勤。期待と不安が交錯する。これまで会社の研修でセキュリティの基礎は学んできた。しかし、それはあくまで座学だ。本物の戦場に立つのは、今日が初めてだった。
「おっ、新人くん、ついに来たね!」
勢いよく扉を開けると、最初に迎えたのは佐々木悠だった。彼は緩い笑顔を浮かべながら、駿の肩をポンと叩いた。
「まあまあ、そんな緊張すんなって。うちのSOCは…うん、地獄みたいなもんだけど、慣れると楽しいぞ?」
「楽しくなさそうな前振りですね…」
駿は思わず引きつった笑みを浮かべる。すると、奥から鬼塚が静かに近づいてきた。
「新人か?」
「はい! 斉藤駿です! 今日から夜勤に入りました!」
「ふん…やる気はあるか?」
「もちろんです!」
鬼塚は一瞬、駿を値踏みするように睨んだ。そして、短く「ならついてこい」とだけ言って、歩き出した。
駿は思わず背筋を正す。
SOCの現場
部屋に入ると、大型モニターがいくつも並び、そこには世界中のサイバー攻撃に関するアラートが流れていた。
「これは…」
「世界中の脅威がここに集まるんだよ」
佐々木がモニターを指差しながら言う。
「ほら、これ見てみろ。こいつはDDoS攻撃(分散型サービス拒否攻撃。大量のリクエストを送りつけてサーバーをダウンさせる)だな。最近多いんだよ」
駿は画面を凝視する。大量のアクセスが特定のIPアドレスに集中しているのがわかる。
「すごい…これ、俺たちが対処するんですね?」
「まあ、まずはログ解析からな」
鬼塚が席に座りながら言う。
「最初の仕事だ。お前に簡単なログ解析をやらせる」
「はい!」
駿は意気込んでモニターを覗き込んだ。しかし、そこに映るのは無数のIPアドレスと時刻の羅列。
「え…どこから手をつければ…」
「あー、それな。新人が最初にぶち当たる壁だ」
佐々木が苦笑しながら、モニターの端を指差す。
「まず、攻撃元のIPを特定するんだ。怪しいアクセスパターンを探せ」
駿は手を動かしながら、次第にログのパターンを掴み始める。
「このIP、頻繁にアクセスしてる…もしかしてこれが攻撃元?」
「お、勘がいいな!」
しかし、駿が特定したIPを調べると、それは単なるVPNサーバーのものだった。
「なっ…偽装されてる?」
「そういうこと。攻撃者は直で来ない。プロキシ(中継サーバー)を使って足跡を隠すのさ」
駿は一瞬、息を呑んだ。
「これが…本当の戦場か」
ここからが本番だった。彼の長い夜勤が始まる——。
第2章:SOCのリアル 〜ログ地獄とファイアウォールの悲鳴〜
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