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【IT小説】AI裁判所~正義を決めるのは誰か~

登場人物

佐藤 翔太(さとう しょうた)

  • 職歴: 大学卒業後、地方のシステム開発会社でプログラマーとして3年間勤務。その後、AI研究に興味を持ち、首都圏の大手IT企業「ネオロジック」に転職。現在、AIソリューション開発部の若手リーダー。

  • 性格: 好奇心旺盛で、問題解決への執着心が強い。時に感情的になりがちだが、根は真面目で正義感が強い。周囲の意見を聞く姿勢を持つが、自分の信念を曲げない一面もある。

  • 特徴: プログラミングスキルと論理的思考に優れるが、コミュニケーション力には課題を感じている。趣味はボードゲーム。

山口 陽子(やまぐち ようこ)

  • 職歴: 国際的なAI研究機関でデータ倫理学を専攻し、博士号を取得。その後、「ネオロジック」のAIソリューション開発部にスカウトされる。

  • 性格: 冷静沈着で理論的。感情を表に出すことは少ないが、内には強い情熱を秘めている。道徳や倫理について深い考察を持ち、人間とAIの共存を真剣に考える。

  • 特徴: 人間関係を築くのが苦手だが、議論の場では強い存在感を発揮する。趣味は美術鑑賞。

高橋 一馬(たかはし かずま)

  • 職歴: 「ネオロジック」のAIソリューション開発部長。IT業界歴15年。多くの革新的なプロジェクトを成功させた実績を持つ。

  • 性格: リーダーシップがあり、決断が速い。部下思いだが、結果主義的な一面もある。プライベートでは家族思いの父親。

  • 特徴: 社内外で信頼されるカリスマ性を持つが、時に強引な手法をとる。趣味はゴルフ。


1章:運命の開廷

翔太が転職してから2年目の春、プロジェクトルームはいつにも増して緊張感に包まれていた。「AI裁判所」――人間の裁判官をAIが補佐、場合によっては完全に代替するという革新的なプロジェクトが、いよいよ実証実験段階に突入したからだ。

翔太はその一員として、システムの設計から実装まで深く関わってきた。法的文書を自然言語処理(NLP)で解析し、量子アルゴリズムを用いて膨大な判例データを瞬時に処理するその仕組みは、まさに未来を象徴するものだった。しかし同時に、このプロジェクトは倫理的な議論を巻き起こしていた。


開発の舞台裏

開発部では、最新のAIモデル「Justice-X」が採用されていた。このモデルは、ディープラーニング(深層学習)と強化学習を組み合わせたもので、特に判例のパターン認識に優れていた。しかし、翔太が感じていたのは単なる技術的な誇りだけではなかった。

「翔太くん、これを見てくれる?」

隣のデスクで陽子が彼を呼び止めた。彼女のモニターには、あるシミュレーション結果が表示されていた。そこにはAIが下した判決と、その根拠となるデータが詳細に記録されている。

「この判決、データの上では正しいけど、なんだか納得いかないのよね。」

陽子の声は冷静だったが、その奥にわずかな苛立ちを含んでいるのを翔太は感じた。

「例えば、このケース。被告が生まれ育った環境や背景は一切考慮されていない。AIはそこまで考えなくてもいいって意見もあるけど、人間の感情や過去が完全に無視されるのって、本当に正しいのかな。」

翔太は一瞬、言葉に詰まった。彼自身、AIがどこまで「人間らしく」あるべきかについて明確な答えを持っていなかったからだ。

「陽子さん、それを反映させるには、アルゴリズムにもっと人間的な価値観を組み込む必要がある。でも、そんなの可能なのかな。」

「それを考えるのが私たちの仕事でしょう?」

陽子の言葉は鋭く、しかし翔太の胸には不思議と温かく響いた。彼女がこのプロジェクトにかける想いを強く感じたからだ。


試練の訪れ

ある日、翔太たちのチームは「Justice-X」の初めての実案件でのテストを行うことになった。裁判は贈収賄事件。被告は中小企業の経営者で、証拠の量も多く、AIにとっては「理想的な」ケースとされていた。

だが、AIが下した判決は「無罪」。その理由は、証拠が合法的に収集されたものではない可能性があるという判断だった。

結果が公表されると、メディアは大騒ぎとなった。「AIは本当に公正なのか?」「人間の判断は必要ないのか?」という疑問が次々と投げかけられた。

翔太は会議室に呼び出され、上司である高橋から厳しい視線を向けられた。

「翔太、この判決の妥当性を説明してくれ。」

「判例データに基づけば、AIの判断は理論的に正しいと思います。ただ…感情的な側面や社会的影響までは考慮していません。」

高橋は深いため息をつき、続けた。

「感情を無視することが公正とは限らない。だが、それをどう実装するかが問題だ。君たちがこの課題を乗り越えない限り、このプロジェクトは失敗だ。」

その夜、翔太は自宅のデスクで一人考え込んだ。AIが「完璧な正義」を実現するために必要なものは何なのか。そして、自分はこのプロジェクトにどこまで向き合うべきなのか。

彼の胸には不安と希望が入り混じり、眠れない夜が続いた。


2章:最初の試練

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