カ→ラ の勘違い名探偵カブルーのギャグ(ラシュ)【化けの皮を剥がしてやる!】

カブルーは悩んでいた。
自力で迷宮を攻略することを諦め、少しでも深層に近づく可能性のある人物をファイリングしていたところ、やはり最終的に1人の人物に辿り着く。

ライオス・トーデン。

北方大陸出身のトールマンで歳の頃は俺より3つか4つ上。
聞き込みによると、金剥ぎの一団を抜けた後、仲間を募りもうすぐ深層5階に到達するほどの実力派パーティということだ。
さぞ屈強で仲間からの信頼も厚いリーダーかと思いきや、どうやら違うらしい。情報を集めれば集めるほど、イメージと遠ざかっていく。
人を疑わずいい金づるだとか、可哀想なやつだとか、得体の知れないやつだとか。
まだまだ調べがいがありそうだ。
なんの目的で迷宮に挑むのか、絶対に化けの皮を剥がしてやる。

この1ヶ月、ライオスパーティを調べて仲間の素性がおおかた判明した。
ライオスの妹で魔術師のファリン、鍵師のチルチャック、ドワーフのナマリ、エルフの魔術師のマルシル、東方人の侍のシュロー。
町の食堂で探索の打ち上げをしている彼等を遠目で眺めながら、カブルーは外套を目深に被り直した。
あの魔物は強かった、とか今度の探索には解毒剤を多めに持っていこう、などといった会話が聞こえてくる。
結局何度もライオスに接触を試みたが無視され続け、こうしてひっそりと観察することになったのだが、迷宮へ潜る理由はわからずじまいで次の策を考えていた。
あの中でライオスと別の意味で謎の人物、シュローに目を付ける。
東方群島の出身者は自分のパーティにもいるので何かの事情で島に留まっているのだろうと推測するが、人との接触を避けるタイプなのか、驚くほど情報が出てこないのだ。
きっと誰かと違って自分のことをべらべら喋らないのだろう。
やりにくいタイプだ。
人づてに聞いたが、ライオスパーティはシュローが加入してから戦力が大幅に上がったことで、より深層に挑むようになったという。
腕が立つなら尚更、いやむしろライオスより戦力的に上ならどうして彼がリーダーじゃないんだろうか。
おかみさーん、ごちそうさまー!
ライオスたちが店を出て行こうとしている。
カブルーはいそいそとポケットから数枚の硬貨を取り出し、テーブルに置いて足早に店を出た。


「ライオス、お前、何か恨みでも買ってるのか?」
シュローが宿への分かれ道で訊いた。
「えっ。なんのこと?」
「いや、心当たりがないならいい・・。」
ライオスの頭に一瞬、金を工面していた元同僚のことがよぎったが、今はそんなことはしていない。連中とは縁を切ったのだ。むしろ恨むのはこっちの方だ。
脳内で話が脱線しているライオスをよそに、シュローはじゃあな、とだけ述べて夜の闇に溶けていった。
シュローはいつもこうだ。
俺が話しかけたら聞いてくれるけど、君の気持ちは言ってくれなくて、最後には行ってしまうんだ。
たくさん話をしてしまうのは、彼を引き留めていたいからだ。
ライオスは手を振ろうとした腕をだらりと下げて、自分の宿に踵を返した。

シュローはいつもより早足で歩いていた。
店から尾けられている。
気付かれないようにしているようだが、奥に座っていたフードの若者だろう。
数日前からこちらの様子を伺っているのは分かっていたが、危害を加える様子はなかったので傍観していた。目的は知らないが、場合によっては対処するか・・・?
宿と逆方向へ向かう何度目かの曲がり角を曲がったところで、足音を消すと屋根の上に駆け上がった。
数分後に袋小路で舌打ちを打つフードの若者を確認したあと、ふぅ、とため息をついて宿に戻った。


数日後、カブルーは後悔していた。
完全にやらかした。
撒かれたということは、認識されたということで、今までのようにひっそりと観察・・が不可能になって・・・なって・・・いなかった。
何故か今まで通り、町ですれ違っても、ギルドに顔を出しても、特に何かを言われることもなく、かといってコミュニケーションが取れるという訳でもなく、事態は振り出しに戻った。
おい!なんかあるだろ!!
頼むからもう少し意識してくれ・・・
と自分が情けなくもなりながら、まぁ警戒されていないのならいいか、とポジティブにとらえることにした。
もう少し観察してみると、ライオスパーティの中でもやはり相性があるようでチルチャックはナマリに、マルシルはファリンに、ライオスはシュローかファリンと話していることが多いことがわかった。
ファリンとライオスは兄妹なのでフラットな会話だと思うが、ライオスがシュローに話しかけているときはなんというかこう・・・一方的だ。
シュローが完全に引いているにもかかわらず、話を続けている。そして他のメンバーはいつもの光景だ、というように見事に放置している。
いつもこうなのだろうか・・・。
あんなに手練れっぽいのに・・・。
カブルーはシュローに少し同情した。
その後もグイグイ押すライオスと常に引き気味のシュローを目の当たりにし、カブルーはひとつの推測に行き着いた。

もしかして・・・このふたり、できてるんじゃないか・・・・?

いや待てカブルー、その結論にはちょっと早すぎる。
女性との経験は自慢じゃないが結構豊富な身としては、一瞬でもそういう画が浮かんでしまった自分に動悸、息切れ、眩暈を覚えたが落ち着いて考えても、その可能性がないとは言い切れないことがさらに追い討ちをかけてくる。
だがここは迷宮に狂わされたはぐれもの達の集う島である。
でないとシュローがあんなに嫌そうなのにライオスパーティに留まっている理由が・・・
いやでも女性関係の揉め事でパーティ解散の危機があったとも聞くし、これは気のせいだ。きっと。そうであれ。

カブルーは完全に本来の観察の目的を見失いそうになっているのに気づいていなかった。
リンシャが何やってるの?と話しかけてくれなければそのまま不埒な想像から戻れなくなるところだった。ありがとうリン。

カブルーは気を取り直して、観察を続けるのだった。




なーんてこともありましたね。
ここは数年後のメリニ城内の執務室である。
羊皮紙にインクを滲ませて、ライオスが呆然とした顔でカブルーの顔を覗いた。
「えっと・・・じゃあ君は、俺とシュローの仲を疑ってた、と」
「えぇまぁ、あの殴り合いのおかげと言っちゃなんですが、絶対にそれは無かったとわかったので良かったですけどね。ちょっとどうかしてました」
ニコニコした顔でカブルーは机に書類を追加する。
なにか言いたげな顔の悪食王ことライオスは、今や当のシュローと自分が積年の想いが実り、好き合っている仲だとは、どう説明したものだろう、と思いあぐねているのであった。

おわり


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