通報ゲーム(仮)第二話
◆再考中につき途中までとなります。
※続きものになりますので、是非一話から読んでください。
2
都会の中としては緑の多いK市。その閑静な住宅街の中にすこしだけ目立つ朱色の屋根のアパートはあった。築10年ほどのアパートの壁には「メゾンK」とだけ書かれたプレートがついている。渉の部屋はその1階の奥の部屋にあった。
鍵を開け中に入る。よくあるワンルームの部屋。照明のスイッチをつけると、それだけで見慣れた部屋の全景が見える。玄関のすぐ左に、ドラム式の洗濯機。その隣にには、洗い場とコンロのひとつずつついた、シンプルなキッチンがある。コンロの壁にひっかけてあるフライパンは、ほぼ新品のまま光っている。
向かいにユニットバス。その間の短い廊下兼キッチンスペースを抜けると、向かって奥には大きな窓があり、カーテンがかかっている。部屋の右奥。窓に対して垂直に置かれた白を基調としたベットには、ぐしゃぐしゃの掛布団と、寝巻代わりのジャージが乱雑に置かれている。
ベットのすぐ反対側には、引き出し付きのシステムデスク。その上にはモニターとゲーム機。ゲーム用のノートPCも置いてある。デスクの前にはオフィスで見るような座席が上下する椅子がひとつだけあり、こちらの方を向いている。
渉は、ウィンドブレーカーを椅子に脱ぎ捨てると、ズボンのポケットからスマホを取り出し、そのままベットに倒れこんだ。乱雑に置いていた布団とジャージが渉に反撃する。なんとなく予想はできていたが、そうしたい気分だった。
突っ伏したまま、下敷きとなったジャージを放り出し布団を整える。スマホのホーム画面を押すと、映し出されるのは18時26分を知らせる時計と、何件かの通知。目についたのは好きなゲーム実況者の動画投稿通知くらいであった。どうせ残りの通知は公式ラインの通知くらいだろう。
通知をタップし、パターンロックを解除する。よく見るyoutubeのサイトがスマホの画面に広がる。動画の再生される黒い窓の中心でローディングの円が一回転半。広告が流れ始めた。
爽やかなBGMと共に、デンッという効果音。大きな文字で映し出される文字に、明るい女性の声のアナウンスが入る。
「今、お金にお困りのそこのあなた!」
渉は、思わず「ここです!私です!」そう答えてしまいそうだった。手を挙げてしまいそうにもなったが、広告の続きが思いとどまらせた。
「ゲームで単発高単価バイトしてみませんか!?」
単発高単価バイト。響きのいい言葉である。ゲームでというところも渉的にはおいしい話ではある。
とはいえ出所もわからぬ動画サイトの広告。普段であればスキップして、そんなおいしい話があるわけ・・・なんてなっているところだろう。しかしこの時の渉にそんな理性は残っていなかった。
渉はすぐさま動画窓の下部にあるリンクをタップした。すると、バイトの内容の書かれたページが映し出される。そこにはたった一言「都内にて1か月にわたって行うサンプリングを行っていただきます。」とだけ書かれており、そのすぐ下のカウンターの数字が残り人数13人と示している。渉は、なんとなくであるがどんな仕事かのイメージをしてみる。
一概にサンプリングと言っても様々なものがある。商品の試供品を試してもらうのもサンプリングであるが、統計学の方法のひとつにもサンプリングはある。ゲームでサンプリング。考えれば考えるほどにわからなかった。
渉の意識がサイトに戻ると、カウンターの下には条件が記載されていた。勤務場所は東京全域。職歴、学歴不問の上、必要資格・スキルもなし。何より自宅勤務も可能で、期間中の交通費から生活費まで全支給されるとのことだった。
そんな好条件逃すわけにいかない。カウンターの数字が4から3に変わる。のんびり迷っている時間はなさそうだった。
渉はページの一番下までスワイプすると、緑に白の字で「申し込みはこちらからラインのお友達追加をしてください。」と書かれているボタンを見つけた。もう勢いでしかなかった。一度タップするとラインが起動しグループの追加画面。現在15人のグループトーク。グループ名は「通報ゲーム(仮)」となっていたが、そんなもの渉には見えなかった。追加のボタンをえいやと押す。
「Wataruがグループに参加しました。」
ラインのトークに浮かぶ、おなじみのポップ。先に入っていた参加者達があいさつだとか、このバイトについて話をしている最中であった。おそらく知らない人達であるが、これから一緒に仕事をするかもしれない人達である。渉も皆に続き、「よろしくおねがいします。」とだけ送った。
それから数秒後、もう1人その人物はグループに参加してきた。
「せんせいがグループに参加しました。」
同じように表示されるポップ。ほかの参加者の名前が本名らしき名で漢字か英語である中、ひらがな4文字の「せんせい」は少し不気味に見えた。グループのトークでは変わらず会話が進んでいる。一通りの参加者がこの「せんせい」に向けたあいさつを終え、また会話が続いたころ、この不気味な「せんせい」は初めて言葉を発した。
一文字ずつ、参加者のトークに挟まれながらも、「せんせい」はひらがなを送っている。何かを伝えたいようだ。異様な「せんせい」の発言に、参加者がひとりまたひとりとトークをやめていく。縦書きで文字がつながる。ここでようやく意味が伝わる。
”し” ”ず” ”か” ”に” ”し” ”て” ”く” ”だ” ”さ” ”い”
「静かにしてください」それはまさに子供のころ学校でよく聞いたフレーズであった。なるほど、それで「せんせい」ということか。渉は「せんせい」の見事な設定に関心し、くすりと笑う。作り物の「せんせい」が今度はちゃんとした文章で話を続ける。
「ご入学おめでとうございます。あなた方はこの度、人間サンプリングの被験者に選ばれました。私はせんせいです。これから終了まで皆さんの管理をさせていただきます。よろしくお願いします。」
既読の数が16と表示されている。参加者全員がこのグループラインを見ているようだった。メッセージではあるが、口調は丁寧。しかし被験者という言葉、仮面をつけたスーツ姿の男のアイコンを見るに、「せんせい」が普通の人間で無いことを察するのに時間はかからなかった。「せんせい」がメッセージを続ける。
「なお途中での”自主退学”は認められません。もし”自主退学”をした場合はこうなります。」
続けて動画が送られてくる。1分ほどの短い動画だった。真ん中に片開きの扉がついた、真っ黒で中の見えない部屋の入口の壁を、斜め上から映した監視カメラのようなサムネイル。その真ん中にある再生ボタンを押すと、動画が流れ始めた。
画面手前から縦に並んで人が3人映りこむ。前後を歩く2人は警察官のような服装をしており、顔は黒いお面で隠されている。腰には中に拳銃が入っているであろう革製のホルスター。警棒らしきものも確認できる。
黒仮面ふたりに挟まれ、連れてこられた人は、体の後ろで手錠により拘束され、頭には麻袋をかぶされている。服装は黒いスーツに青いネクタイ。革靴を履いている。少なくとも男性であるということくらいは予想がついた。
◆再考中につきここまでとなります。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?