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戦闘妖精・雪風第5部の感想17話(最終回)
このテキストは、2022年からSFマガジン(早川書房)で連載中の、神林長平「戦闘妖精・雪風」シリーズ第5部を読んだその日の感想メモです。感動や思いつきをそのまま書いているので、内容はまとまっていません。自分のための忘備でもあり、書くことで作品を理解しようとしています。
おばかな個人の感想なので、おちゃらけていたり、ご不快な表現もあったりするかと思いますが、ホントに戦闘妖精・雪風が大好きなんです。あしからずご容赦ください。
第5部のタイトルが決定しましたね!
「戦闘妖精・雪風 インサイト」2月19日発売おめでとうございます!
戦闘妖精・雪風 第5部17回 洞察と共感 SFマガジン2025年2月号 2024.12.25
編集の塩澤さんのポストの「〇〇は〇〇の〇〇に〇〇った」にいろいろ当てはめて遊んでいたけどどれも違った。まさかそうなるとは。 あとは春燕の登場が嬉しかったな~。戦闘機同士の給油も。 2025.12.29
洞察と共感
インサイトとエンパシー
第5部のタイトルが「インサイト」だと知った時、わたしは洞察という意味を思い出す前にin sight(目に見える) の方を思い出したのだけれど、田村伊歩大尉の〈目〉のことがあったからかなあと。
今回の出撃の流れをおさらい。
田村伊歩大尉と深井零大尉が乗った雪風と司令部の間には時間のズレが発生していた。深井大尉らは、雪風と自分たちは〈違う現実〉を生きているのかもしれないという結論に至る。その雪風の飛行を検証に出ようとした9番機フラカンに問題が発生し、代わりに11番機インバットが飛ぶ。しかし、インバットにも異常が発生し、特殊戦のコンピュータ群の主導によるイレギュラーな作戦で、深井大尉と桂城少尉の乗る雪風(アグレッサー1)とレイフが出撃することに。護衛&給油機は10番機リヤーンと12番機エンリル(初出の14回ではエンリルは11番機だったが17回で修正された)。目的地はDゾーン。シュガーロック。
そこへ、廃墟になったTAB-14に近い、TAISポッドからジャム発見情報警告が届いた。それはスーパーシルフ時代の旧雪風が、深井中尉とバーガディシュ少尉とともに、ラストミッションで投下したものだった。
雪風は未確認のジャムを発見したと伝えてきたTAISポッドの進路上にあるTAB-14方面へ。そこへフローズンアイが前方に大きな壁のようなオーロラのようなものを捉えた。こちらに近づくそれは3D画像では大きなクラゲの傘のように見えた。零はそれをジャムの実体ではないかと予想する。雪風はレイフを使ってそれにLRHM1を打ち込むがクラゲはそれが到達する前に消え、ミサイルは貫通してTAB-14の地表近くで爆発。消えたクラゲの代わりにタイプ-7が出現。ジャムはタイプ-4、タイプ-6と目まぐるしく姿を変えるが、雪風はそこへ再度レイフのLRHM1を発射。ジャムはクラゲ状に戻り、その口に核弾頭が突入し爆発。脅威消滅と雪風。零は雪風とジャムの間で何らかのやりとりがあったのではと推察する。(雪風はいつぞやの恨みを晴らした?零は雪風に「やったぜ!」というような意志を感じた)
零は針路をTAISポッドのあるシュガー砂漠へとる。
シュガー砂漠のTAISポッドは、破壊されて間もない様子だった。雪風は司令部に、飛燕を出して田村伊歩大尉にロンバート大佐を探させよと要求し、深井大尉には針路をTAB-17へ、前回の出撃で爆撃機オンロック3機(ジャムに取られたやつ)を強制着陸させるために指定された前線基地へ向かえと要請。
その時、零たちはラストミッションでTAB-17からTAB-14へ向かう旧雪風と遭遇した。零と雪風は、これはロンバート大佐が弄する時空欺瞞操作だろうと見破る。雪風は大佐本人を炙り出すべく行動する。雪風はロンバート大佐を帰順させ、対ジャム兵器として使うつもりなのだ、と零は雪風に〈共感〉した。大佐にこちらの言うことをきかせるための武器は、田村伊歩の邪眼だ、と。
ここから最終回の感想。
シュガー砂漠上空、かつてジャムに汚染され、今は廃墟になっているTAB-14を背に、雪風はTAB-17へ向かって飛ぶ。
後方TAB-14方面で超空間発生。よろよろしながらこちらへ向かってくるミニ通路。ロンバート大佐が中にいるのかもしれないと「洞察」し、雪風が投じた釣り針に引っかかっているような状態だから、バランスを崩してはならない。雪風はあいつを釣り上げようとしていると「共感」する深井大尉。
・洞察と共感のこと
理屈や因果関係など捨てて「考えるな、行動しろ」というのを、お互いの深い交わりと情報の蓄積を土台とする「共感と洞察」の高みにレベルアップさせると、理屈を超えた正解に繋がっていくのかも。と、思った。「勘」とか「反射」とかに近いよね。言葉で分析する前に正解を出してるってこと。
これって、深井大尉ら人間だけでなく、雪風もやっている? 例の新生回路使ったりして。「共感と洞察」はAIにも必要なんじゃないかなと思う。こないだ遊んだGrokが「これだ」って出してきた雰囲気映像がだいたい微妙で面白かったのは、単なる学習だけでは得られない共感と洞察がまだ足りないからなんだろな…とか思っちゃった。
・異なる世界に生きていても…は分かるけど…
深井 『異なる世界に生きている存在にもかかわらず、あたかも同じ世界に生きているように感じられるのは、それこそ人間の優れた能力のおかげなのかもしれない』
それはそう。だけど、雪風の世界に自分がいると感じる〈超常体験〉がなぜ起こるんだろう… アンブロークンアローの時もだけど、フェアリイの環境そのものがそんなことを可能にしているのか、ジャムのせいなのか、彼らがいるのはどういう世界なんだ。でもわたしの物理的知識が足らないからそう思うのか。時間が飛んだり、雪風の見せる景色を感じたりするのは、空間ワープとか重力制御みたいなものだと考えればいいのかな。フェアリイの人間には魔法に見えてもジャムや近似ジャムの雪風には普通な技術…?
そういう世界を一緒に体験している桂城くんのことを「戦友」だって思う深井さん。でも平時に友人でいられるかは別だと。ふふふ~ん(笑) 桂城くんのほうは、どう思っているかな。彼は深井さんのこと信用してるし、けっこう好きだよね。この人といたら面白いことになる…みたいな感じ?
深井さんの平時の友人はやっぱりブッカー少佐なんだろねえ 平時だし平穏そう。ブーメランピクニックをしていてほしいね。
・ロンバート大佐を釣る
クーリィ准将がアグレッサーズを創設したのは、ジャムおよびロンバート大佐を釣るためだとイメージしていたので、「釣り」の言葉におお! となるなどしていた。准将の垂らした釣り糸の先に雪風と深井さん(桂城くんも)。でも、わたしは釣った魚をどうするのかまでは考えてなかった。
まさか「人間」に戻すなんてね!!!びっくりよ。 雪風はロンバート大佐の贈ってきた「時空の切れ端」の力を使って、雪風の支配する空間へ引っ張ろうとしている。らしい。 零「巴投げで一本」彰「釣りじゃなかったんですか?」零「一本釣りだ」…なにこの会話ウケる~
大佐はジャムのミニ超空間にいる。そこにLRHM1を撃って超空間ごと大佐を葬る。特殊戦はそういう作戦を開始した。だが、雪風は大佐を生きたままジャムから引き離したい。雪風はレイフも使ってその作戦を阻止する。司令部の指示から離れ、雪風の考えに沿って、作戦は進んでいく。
・10番機リヤーン、12番機エンリル、4番機春燕チュンイエン!
エンリルは初出時の11番機から今回12番機に修正された。グッドラックで11番機はガッターレだったけど、今作では11番機がインバット。ガッターレが引退して番号を引き継いだのか。(追記:アグレッサーズ新設時点で大規模な組み換えがあったのだろうな~)
春燕は「チュンヤン」から「チュンイエン」にルビが変化。そして、パイロット、周静(チョウジン)中尉の名前が初登場~!! グッドラックで出た春燕のタン中尉は、パイロットだとは書いていなかったので、タン中尉がまだ健在ならFOの可能性が出てきた。そして、周静中尉。なんとなく名前のイメージから、物静かで無口で無表情だけどすごくまじめに任務にあたる人を想像。准将や少佐からの信頼が厚そう。だけどなんか面白いギャップがあると嬉しいな。
で、深井さん、名前、憶えてなかったんだw ブリューイ中尉の名前は知ってたのにw チョウジン中尉ってマジで無口なのかも。深井さんて、何かきっかけがないと人の顔や名前を覚えなさそうだし。
・田村伊歩の邪眼が見破り、人間に戻った大佐
田村大尉の邪眼が大佐とジャムの重なりを「見」て、分離することを雪風は期待して、その通りになった。〈時空の泡〉と分離した。ジャムであるロンバート大佐をの首を獲りたい、という伊歩さん。しかしただの人間なら殺す意味はないと。殺さないけど、ほんとにすごかったよね… 飛行中の爆撃機の胴体上部に、飛燕のランディングギアで殴りつけるの…「出てこい、ロンバート大佐。返事をしろ。わたしは特殊戦のように優しくはないからそのつもりで聞け。…」以下の啖呵と行動がかっこよすぎる。
わたしは操縦ができないんだと焦る人間に戻ったロンバート大佐はしぶとくてちょっとカッコ悪い。深井さんにまで「雪風にとってはロンバート大佐などどうでもいいのだ」とか言われてかわいそう。
・大佐が明かすジャムのひみつ
暴力の神の化身である田村大尉が怖すぎるのと、自分より下にみていた深井大尉に価値がないとみなされるのがとっても悔しい大佐。
「ジャムは生命が行う情報活動を餌にしている。情報差(って何?) を利用してエネルギーを得る」「〈超空間通路〉を利用してジャムは地球の情報を食う。地球は情報を抜かれ白い砂漠になるだろう」「もともと地球やフェアリイ星の生命はジャムが種を播いたことで発生したのかも」「わたしが地球に案内したジャムは地球のコンピューターネットワークの中にいる」とか、どっかで聞いたような話をする。情報を食うとかいうのはジャクスンさんもしていたね。地球の研究者の間ではメジャーな説なのかも。コンピューターネットワークの中…というのはグッドラックあたりで深井さんも感じてたものだね。
それを深井大尉は黙って心の中でバッサリ斬る。―ジャムは、そんなものではない
桂城少尉の言葉は直接大佐に言ったわけじゃないけれど大佐をえぐっただろうな。
「言葉は強力な幻覚剤のようなものだ。妄想世界を生む」「ロンバート大佐の限界は、人間の言葉の限界でもある」
だけど、シュガー砂漠上空を飛ぶ零は、自己が消滅することへの恐怖を覚える。雪風とシンクロして感じるそれは、感情とはまた別の恐怖だという。
恐怖が感情でないなら、どういうことなんだろう。言葉の世界は難しい。
・そしてそして第6部へ突入か
目に見える灰色のボールのようなもやもや(放射線量強い)を発見。それにレイフが突入~ いいね!この、無人の身軽さと雪風の前衛としての思いきりのよさが好きだ。しかしそれは突入したレイフを捕まえて恐ろしいスピードで逃げてく。…筋斗雲かな。それよか、レイフ~~~!!!!
桂城「あれはジャムの宇宙船じゃないか」今回の桂城くんはずっと面白いこと言ってる人だった。アドレナリン出てるのかな。
そのもやもやは地球との超空間通路へ一直線。追う雪風。なんとなくアンブロークンアローの地球に一番乗りレースを思い出す。
ブッカー少佐に「通路には入るな」って言われたけど、どうにもできない状況に。レイフが吐き出され、雪風は通路(ジャムの本体?)に。取り込まれてしまったね。
そして通路を抜ける。
え?え?え?金属光沢の植物?ってことは、フェアリイなの? いつの?
「帰ってきた」 ????
・えーと、ジャム本体=超空間通路 深井説
んんんん…ん-ん-ん- え? (笑) どうなるの。
通路?? っぽい空間操作ができる異性体? いや、ジャムはそれを度々やっていたけれどもけれども。
「我は、我である」って言ってたのも超空間通路のもやもや??
え~…超空間通路の抜けた先ってジャムの意志で変えてるのだろうか…
考えてみたら、自然現象とは思えない自分たちでは理屈のよくわからないものを利用して地球人はFAF基地とか作っていたんだし、それで物資や食料や人間を運んでいたんだよね…冷静に考えたら怖い話だ。まあ、火がどうして熱いか知らないでも使えるし、そういうもの…かな?
でも「ジャム化」に近い雪風と「雪風化」してる深井さんの言う事だからなあ。ここはやはり桂城少尉が!! 活躍に期待。
しかし。出た先に滑走路とか給油できる基地がなかったらどうなるんだろ。でも、雪風は「帰ってきた」と思ってるみたいだからちゃんとおウチがあるのかしら?
うん。6部へのワクワクが増しますね。先がまったく予測できない。
どんな驚きがあるのか。それがSFだよね。とても楽しみ。
・初めての"連載追っかけ"体験は最高だった
SFマガジンが発行される2か月に1回、本当に毎回毎回濃くて楽しくて素晴らしい体験だった。どんなに仕事が忙しくても届いたその日に読みたい!そしてできるだけ早くメモを文字にしたい!と、読みながらノートに走り書きメモしたり、本に直接線を引いたり言葉をぐるぐる囲んだりしながら読んだ。ひとつの作品をこんなに粘っこく味わったのはこの戦闘妖精雪風第5部が初めて。
俯瞰した読み方をしていないので、部分的な実況メモになりがちだけれど、全体の印象などは単行本を読んだ時に感じたいっ! それに、シリーズを通すとまた違うものが見えたり新しい発見があったりするのかな…とも思う。
読む時の自分の環境や知識で見えてくるものが違う。書かれた言葉は変わらない。「変わったのは自分だ」という事だよね。それを楽しむのがするめ読みの美味しいところだな…と思うんだ♪
「インサイト 戦闘妖精・雪風 」の単行本 は 2025年2月19日(水)に発売!
「アグレッサーズ 戦闘妖精・雪風」の文庫は2025年1月22日(水)に発売!
神林先生に最大級の感謝と敬愛を。