インフレが長期金利に起こすジレンマ
大分金利が上昇してきたので、10年スワップ金利を回帰分析で見直してみます。
10年スワップ金利を、以下の変数で回帰分析を行ってみます。
1) FED's Asset Balance Sheet in % of GDP, 2) 5Y fwd 5Y Inflation Swap, 3)1y3m/2y3m OIS spread, 4) 3m fwd 3m OIS
model 10y swap = -0.01507696 * b/s + 0.65137984 * 5y5y inflation swap + 1.29864817 * 1y3m/2y3m OIS + 0.66695207 * 3m3m OIS + 0.04194479
in-sample R^2:0.9668995920241354
in-sample R^2の通り、説明度の高い回帰分析ですが、現在のresidualは46.36bpsと大きく乖離しています。
インフレに対する係数が0.65あり、更に手前のOIS金利に対しても正の係数があるため、回帰分析上の10年金利フェアバリューは大きく上昇しました。それに比べて、実際にはあまり金利上昇をしていないため、大きく乖離してしまったという結果です。
過度なインフレが起こるとFEDは恐らく利上げをしてしまいます。そうすると将来のインフレ期待値が下がってしまうため、この回帰分析上でも、金利低下圧力が出ます。仮に早期利上げにより、5y5yインフレスワップが2%辺りへ下がり、その代わり3m3mが現在の0.09%から0.5%へ上昇し、1y3m/2y3mは恐らく現在の0.67%から0.75~1%へ上昇するでしょう。これらの数字を使うと、10年スワップは2.15~2.4%にいる事になります。
正直な感想としては、10年スワップが2.4%に先1年で行く姿が全く想像できません。では、このモデルの欠陥はどこにあるのだろうか。。今度は、10年金利は2.1%(個人的に10年スワップはこの辺りかなという感覚的水準)に固定して、同じく3m3m=0.5%で、1y3m/2y3mを逆算してみました。すると、1y3m/2y3mは0.7636622496453369%という結果でした。
昨日の投稿でも話したターミナルレートが低いというのはまさにこういう事なんだと思います。ターミナルレートがもっと高い所にあるべきだと提唱している自分でさえ、10年金利が2.1%行けば御の字みたいな感覚を持ってしまっていることで、手前の金先がスティープニングしきれない。なぜ世の中の投資家は金利上昇へ恐怖感を抱かないでしょうか。。一つの理由に、他の先進国の金利がもっと低いという点があるのでしょう。そもそも米金利がここまで低下した仮定で、他国の金利が低すぎて米国債への投資を増やした外人が増えたというのがります。GPIFもいい例です。そして日本のメガバンクも外債投資を増やしました。
確かにJGBの20年金利が大きく上昇した場合、自分はUSTの10年金利に対してもタームプレミアムを要求すると思います。思えば最近の米金利の上昇のきっかりも欧州発信でした。
日銀においては、少しずつ輪番の額を減らしてはいますがYCCのレンジが+/-25bpsになっていて、現在の9bpsから10年金利の上昇は最大で16bpsとなっています。日本において2%インフレが起こるのは大分先でしょうし、黒田総裁の満期は2023年4月なので、これも2年後です。なので、円金利においてグローバル金利上昇を与えるきっかけは起こりにくいと考えるのが自然です。ただ欧州においては、ECBの2023年に利上げなどが騒がれたりもし始めたりと。欧州は日本と違い、今回のコロナ収束とコモディティ価格上昇で足許インフレが起こっています。ECBとしては長い間デフレと低成長に悩まされていましたし、本当にオーバーシュートさせて金利上昇させる可能性は十分あると思います。むしろある程度の金利上昇はかなりウェルカムなのではないでしょうか。
多くの証券会社のストラテジスト(特に円の世界では)、米金利が円金利の先行指標として分析に使っています。欧州においても似たような事をやっている人が多いです。我が国の中央銀行、日本銀行は「点検」を行った際、YCCが効果的であったと結論づけていますが、その説明の過程で、米金利をモデルの変数に使っていました。(中銀の人間として、自国の国債金利の水準を求めるのに、自分たちが一切コントロールできない変数を使うなんて、恥ずかしくないのか?と個人的には思いました。)
しかし、今後は、逆で、欧州又は日本の金利の変動が、米金利の先行指標になる可能性があります。世の中の投資家にとって最もペインなのは、米金利が然程上昇しないなか円金利又は欧州金利が上昇することかもしれませんね。