ビッグボスは誰か?
当たり前ですが、市場はより買いが多い場合、価格は上昇します。そして、より売りが多い場合は価格は下落します。
瞬間毎に買い圧力が強い時もあったり、その逆があったりするので、Tick Dataでマーケットを覗くと凄くノイズが多いチャートになります。なのでHigh Frequency Tradingの分析においては、Kalman Filter等を使ってデータのクリーンアップを行い、データ分析を行う事が多いです。(これらの機械学習を使った手法等はいつか気が向いたら投稿します)
しかし中・長期的には、市場は基本的に「構造的需給バランス」と「ファンダメンタル」のバランスで成り立っていると考えてます。そして金利市場においては、中央銀行がこれらを大きく動かす力を持っています。
先日投稿した通り、現在FEDはテーパリングと利上げは別物であると市場に発信しています。果たして、本当にこの二つを分ける事ができるのでしょうか?現在の市場の折り込みと、FEDが望んでいる金利市場のあるべき形について今回の投稿では考えてみたいと思います。
まず初めに、FEDはDotを見てみましょう。今年の6月に出したDotで、2023年の利上げが2つ示され、2022年の利上げがもう少しで一つ着きそうっていうものでした。FAITを導入して1年経たずしてFEDはインフレに恐れをなしたかの如く従来のPreemptive hikeを示唆している様にも捉えられる内容で、カーブは大きくフラットニングをしました。
では以前と同じように手前のOIS金利対比、10s30sのカーブがどのようになっているかを見てみましょう。
上の図は、緑点は、2015~2019年春までの利上げサイクル時の10s30sと1m OIS金利をプロットし、回帰分析を行いました。X-Interceptが2.16%となっており、大体前回のターミナルレート近辺となってます。実際に10s30が0bpsをヒットしたのは、OISが1.85%辺りの時でした。基本的に利上げサイクルにおいて、投資家はなるべく超長期の債券を買います。理由はシンプルで、今日買った2年債は、1年後に利上げされてしまうと、時価でマイナスが出てしまい、満期保有を強いられてしまうため投資家としての投資自由度のオプションを失うことになるためです。では、現在のカーブを使って、Spot10s30s vs spot 1m OIs、1年先10s30svs1年先1mOIS、、、etcとプロットしていきます。すると、3年先10s30sが既に0近辺にいる事がわかります。少し見難いですが、水色の×の点は、3月18日時点のカーブで同じことを行ったデータです。0近辺にいる点は、4年先10s30sです。ただフォワードOIS金利が1%辺りで10s30sが0に来るというカーブ形状はずっと同じようです。これが意味することとは何なのか。。。以前、同じような分析を2s10sのカーブでやりターミナルレートが低いという話をしました。あの分析からマーケットの織り込んでいるターミナルレートは約1.56%という数字がでたので、X-Inteceptが1.56になるように、現在のカーブから引いたregression lineをパラレルシフトしてみました。r*から逆算して、ターミナルレートが1.75~2.25%辺りと仮定すると、黄線のX-interceptである1.56(ターミナルレートから20~50bps下)で10s30sが0bpsになるというのは、個人的にしっくりきます。では、その線状において、10s30のフェアバリューはいくらかを見てみると、現在の3年先1MOIS金利を当てはめてみると、16.5bpsです。ターミナルレートの仮定が正しいならば、手前の利上げ織り込みと、超長期が織り込んでいる利上げペースでの整合性が取れていない状態です。もちろん結果的にターミナルレートがすごく低くカーブは寝たままで終わる可能性もあります。ただもしターミナルレートが低い場合、今のマーケットは既にそれを織り込み終わっていることになってしまうため、これ以上のカーブのフラットニングはより速いペースでの利上げ又はアセットの急激な下落によるリスクオフ相場以外では想定しにくい状態となります。
では、なぜマーケットはこんなに低いターミナルレートを前提に取引されてしまっているのでしょうか?以前の投稿で述べた通り、一番大きな理由は、デルタ株懸念によるタームプレミアムが低下したことでターミナルレートを押し下げています。その他に考えられるのは、マーケットはFEDがFAITを続けると信じていない事と、現在のインフレがある程度Transitoryであると思っているからだと思います。
FEDが従来のPreemptive Hikeを行う場合利上げ後にはある一定度のインフレ圧力が減る事でしょう。そして、今のインフレ自体がTransitoryの場合、最初に少し利上げをしたら、またインフレが起こらなくなりそれ以上の利上げが出来なくなってしまう可能性があるとみられているからでしょう。
非常に逆説的ではありますが、FEDが早期利上げをすると将来のインフレを殺してしまう事になりターミナルレートが下がり、長期金利が上がらないという状況になっています。そのためFAITをちゃんと継続する場合は、インフレをオーバーシュートするため、ターミナルレートが上昇し長期金利が上昇しやすいと考えています。
そもそもFAITにおいて、いつになったらAverage Inflation Targetが2%達成とみなされるのでしょうか?6月に日銀がこれに関するホワイトペーパーを夏前に出していましたが、簡単なシミュレーションをしてみました。Fedが最近よくレファレンスに出してくるDallas Fedが出しているTrimmed PCEを使いました。これは、変動幅が大きい物と小さいものを切り捨ててるものです。つまり実際のトレンドがよく反映されるものです。これがアベレージで2%行く場合、Average Inflation Target達成といっていいのではないでしょうか。マーケットが現在75%程織り込んでいる2022年12月までに、2.1%のTrimmed PCEが達成される場合、2022年12月頃にコロナ以降のAverage PCEが2%となる見込みである事がわかります。
この2.1%が達成可能かはわかりませんが、来年の春以降は今年の数字対比での%で表されるので、ハードルは2022年春以降上がる事は間違いありません。つまり、FAITフレイムワーク内では、2022年12月より早くの利上げのハードルもそれなりに高いという事になります。
つまりこれ以上早期利上げ織り込みは、FEDのFAITへの挑戦という事になります。先ほど言った通り、これ以上のフラットニングは早期利上げまたは早いペースの利上げとなるため、これ以上カーブを寝かす=FEDへの挑戦といも捉えられます。
FEDが勝つのか、マーケットが勝つのか。。。