ウェルビーイングと私 ~生きること~ なるし〜
業務上必要なトレンド、それが私にとってのウェルビーイングだった。
私がはじめてウェルビーイングの概念に触れたのは2012年、東京大学医学系大学院職場のメンタルヘルス専門家プログラムだ。WHOの健康の定義としてのwell-beingだった。私はプログラムで学んだポジティブメンタルヘルスに共感し、すぐに支援企業にて実践を試みた。ポジティブメンタルヘルスは、今注目されている「ウェルビーイング経営」そのものだった。一人ひとりがいきいき幸せに働くことができる職場を創ることが、結果的にメンタル不調者が出難いだけでなく、生産性や創造性の高い職場を創るというものだ。
翌2013年に慶応義塾大学SDMで開催された、デザイン思考のワークショップに参加した。デザイン思考が業務上必要な知見だったからだ。デザイン思考は人間中心イノベーション志向と言われ、商品・サービスの機能的価値ではなく、人の心理的価値に焦点を当てたものだ。ワークショップの実施責任者だった前野隆司教授から、心理的価値を探るヒントとして、幸福学、そして幸せの四因子の紹介があった。幸福学との出会いの瞬間だ。
その後前野教授の著作を読み漁るなどして学びを深めつつ、幸福学をポジティブメンタルヘルスの実践の中に取り込んでいった。メンタル不調者が激減しかつ組織の集合知が高まった支援事例もでき、学会でも発表している。
業務上必要なトレンド、いや業務上必要なツール、それが私にとってのウェルビーイングだった。
2019年前野教授の主催する、BEING SCHOOLに参加し、私にとってウェルビーイングにもうひとつ大きな意味が加わった。BEING SCHOOLは、「私たちはいかに在るべきか」、というキャッチコピーがつけられ、3か月間毎週ただ「在り方」について対話を重ねるものだった。3年後に還暦を迎える私にとって、立ち停まり「在り方」を見つめる絶好の機会となった。
私はどう在りたいのか、どう生き死に向かっていくのか?
私は社会人最初の上司を自死で失くした。ハラスメントという概念も無い時代に壮絶ないじめの中彼は亡くなっていった。会社に対する不信感、行為者への憎しみ、何もできなかったという無力感に苛まれた。同時に自律的に幸せに働くことへの強い思いが私の中に芽生えた。なぜ今私が、幸福学を活用しポジティブメンタルヘルス(ウェルビーイング経営)を推進しているのか?、「一人ひとりがいきいき幸せに働く組織・社会を創りたい」、微力ながらもその一翼を担いたいからだ。
ウェルビーイングが私の「在り方」を問う、力強い「問い」になった。
原点に立ち戻った私は、メンタルヘルスの専門性を高めるべく精神保健福祉士(MetalHealth.Social Worker)という国家資格を取得した。精神保健福祉士は医療・心理・福祉が混合したような資格で、学びの過程で福祉の英訳がWellbeingであることを知った。よく考えたら福祉は「福」も「祉」も幸福を意味する漢字だ。そして現代的な福祉は、障害や貧困に喘ぐ人々を助けるということではなく、あらゆる人がその人の強みを活かしその人らしい人生を送る援助をするもの、援助しあうもの、またそういった社会を実現するものとされている。福祉の理念に共感した私は、引き続き福祉領域のウェルビーイングの学びも深めている。私のミッション遂行に役立ちそうだ。
ウェルビーイングは健康、幸福、福祉、安寧など多様な概念を包摂する。今後ウェルビーイングを志向し、あらゆる分野がシームレスにつながっていくだろう。ウェルビーイングは、私がミッションとする、一人ひとりがいきいき幸せに働く組織・社会が実現した理想の姿そのものであり、実現のためのツールでもある。人生100年時代の仕事の糧を得るドメインとしても重要だ。
そして何より、私の「在り方」を常に問う、力強い「問い」である。「在り方」は生きる意味そのものである。