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【GK育成改革】日本サッカーは"大谷翔平”を発掘できるのか?「才能がある選手はまだまだ眠っている」

日本サッカーの歴史に残るレジェンドGK楢﨑正剛さんのすごさをプロに語ってもらおうという、この企画。大宮アルディージャGKコーチ松本拓也さんに徹底分析していただいた前編は、横浜FCの六反勇治選手から「面白すぎて早く後編が見たいです」とコメントが寄せられるなど大反響を巻き起こした。後編は楢﨑さんのようなGKをどうすれば生み出せるのか?をメインテーマに掘り下げていく。GK大国ドイツの育成現場を見てきた松本さんの言葉は、あらゆるカテゴリーの指導者にとって考えさせられるものがあるはずだ。

<インタビューの前編はこちら>

上に行けるGKの条件とは?

――日本人GKが上のレベルに行くためには、どんなことを意識して取り組んでいけば良いのでしょうか。

まずゴール前でしっかり守れるというのは大前提になると思います。それに加えて、「どんなサッカーを志向する監督の下に行ってもオーダーに応えられるGKになる」のが上に行く条件ではないかと考えています。


――さまざまなサッカーのスタイルに順応できるということですか。

そうです。僕の指導でも「やれることを増やそう」というのをずっと伝えています。監督から「そこのクロスボールは出てくれ」と言われたら出れるし、「俺は安定感を求めるからそこは行かないで欲しい」と言われたら止まれる。さまざまなコンセプト・要求に柔軟に対応できる選手になることが大事です。

そのためには育成年代のうちにプレースタイルを固めてしまうのではなくて、将来的にどういったスタイルを要求されても対応できるよう、10代のうちにプレーの幅を広げておく必要があります。

僕は日本人GKは育成年代で前に出るトライもやっておくべきだと思うんです。これは体格の問題もあります。ドイツは一般男性の平均身長が日本より10cm以上高いというデータがあります。体が大きなドイツ人はゴールライン付近に残っても守れますが、それよりも一回り小さい日本人は手の届く範囲も変わってきますから、同じ守り方が必ずしもベストとは限りません。


――楢﨑さんはドイツのGKの考え方に近いプレーをしていたということですが、187cmのサイズがあるからこそ可能になる部分もあると。

そうなんです。体のサイズが十分にあればそのスタイルでも良いと思いますけど、日本のGKの平均身長はそれよりももう少し低いので。ドイツのGKと同じように「前に出ないで残る」という選択をした時に、「後ろに残って守ったところで、ヘディングされたボールに果たして届くのか」という問題が出てきますよね。

ましてや育成年代の段階ではその選手が最終的に身長何cmまで伸びるのかも分からない。中学生の段階で既に180cm近くあったとしても、そのまま順調に190cmになるとは限らないですよね。だからこそ、「最終的にゴールを守れればOK」という考えがベースとしてあった上で、育成年代のどこかで「前に出る」というチャレンジをさせる時期は必要だと考えています。

最終的にどういうスタイルを選択するかは、その後の体の成長具合やその時々の状況、監督からのオーダーに応じてセルフジャッジすれば良い。だけどそのためにはあらかじめきちんと引き出しを増やしておかなければいけません。後からいかようにも対応できるように、育成年代のうちに幅を広げておくのが大事だと思います。

<オンライン講習会ダイジェスト記事>

誰もいないグラウンドで“1人コーチング”


――日本のGKの育成強化について、他にはどういう点が鍵になっていきそうですか。

Jリーグも今ではチーム数も増えて、各チームのアカデミーにGKコーチが在籍するようになってきました。この新型コロナウイルスによる自粛期間にみんながそれぞれやってきたことを言語化しようといった動きもあって、言葉の整理もだいぶ進んできた気がします。ただ一方で、環境が整備されてきたからこそ気を付けなければいけないこともあると思っています。


――具体的にはどういったことでしょうか?

日本人って真面目で指導も熱心なので、例えば子どもが何かエラーをした時に「それはこうやるんだよ」と答えを教えてしまいがちなんですよね。そうすると子どもたちが考える機会を奪ってしまう可能性もあるなと感じていて。


――壁にぶつかって自ら悩んだり、そこで試行錯誤したりということが減ってしまうと。

そうなんです。少し前に川島(永嗣)選手が言っていたんですけど、昔は今のように理論や情報が確立されていなかったから、川島選手自身も何かあると「まず自分で試してみよう」という気持ちであらゆることにとことんトライしていたそうなんですよ。面白いエピソードがあって、川島選手が高校生の時に、練習後の誰もいなくなったグラウンドで「寄せろー!」とか「中切れー!」ってコーチングの練習をしていたらしくて。


――周りからみれば「あいつ、何やってるんだ」という感じだったでしょうね……。でも、本人の中でそれが必要だと感じたからこそ自発的にやっていたんでしょうね。

そうなんです。そこがすごく重要で。「コーチングって何を言えばいいんですか?」って聞かれてコーチが全部教えてしまうと、川島選手のように自分で考えて動かなくなってしまうと思うんです。川島選手のやり方は一見非効率に感じる方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。そうやって選手自身が必要性を感じて自発的に動くのって、実は一番大事なことなんです。

さまざまな指導法が整備されてきたことで、ある程度の水準までの技術やベースを教えることはできるようになってきました。けどその先のトップレベルまで行けるかとなった時に指導者が注意しなければいけないのは、そこに到達するために“指導者がそう仕向けるようなアプローチをいかにできるか”だと思うんです。


――答えを教えるのではなく、導くと。

はい。少し前の話になりますが、2017年に当時川崎フロンターレで指揮を執っていた風間(八宏)さんの練習を一週間付きっきりで見に行ったことがありまして。その中でシュート練習を40分くらいやった日があったのですが、最初あまり上手くいっていなかったんです。少しダラっとした雰囲気もあって、あまり良いトレーニングになっていなかった。

そこで風間さんが「こういう時はここを見るように意識して」とか、選手たちに少しずつアドバイスを入れていったんです。それを何回かやっているうちに選手たちが「あれ、なんかうまくいき始めたぞ!」っていう雰囲気になってきて、最終的にそのシュート練習がすごく良い形で成立したんです。結果的にその次の天皇杯で、川崎はFC東京に2-1で勝ちました。

風間さんが最初から全てを教えるのではなくて、選手たちにヒントを与えることで選手が自分で考えて試行錯誤するようになって、結果的に「なんか俺ら上手くなってるんじゃない?」って思うような環境を作っていったのが印象的で。指導の究極だなと感じました。

1から10まで全てを説明して覚えさせるよりも、3まで伝えてそれを選手自身がうまく10まで持って行けるような環境を指導者が整えた方が、最終的には選手の本当の力になると思うんです。GK育成の現場においても、そういう環境を指導者がいかに作れるかが今後の鍵になってくると思います。

<オンライン講習会ダイジェスト記事>

日本は“大谷翔平”を発掘できるか?

――日本の育成システムについては何か思うところはありますか?

先ほどお話ししたように環境はかなり整ってきていると思いますが、日本ならではの課題もあるなと感じています。日本ではユースやジュニアユースに入団した選手を、基本的には3年間、卒業するまで見ますよね。これに対してドイツでは1年単位で選手が変わるんです。


――それだけ小まめな入れ替えがあれば、当然競争も活発になりますよね。

そうなんです。これを可能にしているのがドイツのスカウト網です。全国のあらゆる選手たちを常にチェックしていて、新たな人材の発掘を怠りません。ユースやジュニアユースのGKコーチは、ホームゲームはともかくアウェイゲームには帯同しないことすらあります。


――その時間を新たな選手の発掘に充てるんですか。

はい。チームの練習に参加させたり、スカウトに行ったり、新たな才能ある選手を探すんです。ポテンシャルのある選手をより多く吸い上げられる仕組みになっています。日本だとジュニアユースのセレクションで落とした選手がその後の1年間で急成長したとしても、入団するにはユースまで待たなければいけないですよね。育成年代において、その2年間ってとてつもなく大きいんです。


――中高生というと突如背が伸びる選手もいますし、それとともに選手としても一気に成長する選手もいますもんね。確かにそういう選手を吸い上げられないのはもったいない。

GKは体格が重要なポジションでもあるので、少し遅れて伸びてくる選手もいるんです。そういう選手を早いタイミングで上のレベルに吸い上げられる仕組みができれば、今以上に才能を開花させる選手がたくさん生まれてくると思います。ポテンシャルがありながら吸い上げ切れていない才能がまだまだ多く眠っているはずです。


――GKとして確かな才能を持った選手は他にもいるかもしれないけど、その選手たちが日の目を見ないまま消えてしまっている可能性もあるのですね。

楢﨑さんのような、あるいは野球の大谷翔平選手のようなタレントを発掘できれば、その中から自ずとすごい選手は生まれてきます。シビアかもしれませんが、そこそこの才能の選手をどれだけ頑張って指導しても限界があるのも事実です。

だからこそ、指導の内容を高めていくだけでなくて、楢﨑さんのようなポテンシャルを持った選手を1人でも多く上に吸い上げていく。そういう仕組みを構築していくことも、今後間違いなく必要になってくると思います。僕自身もそういったシステムの必要性を伝えていけるよう、引き続き頑張っていこうと思います。

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松本拓也(まつもと・たくや)
1980年1月25日生まれ。柏レイソルユースを経て、ドイツのウンターハッヒングでアマチュアとしてプレー。引退後は川崎フロンターレのユースや柏U-18など育成年代でGKを指導し、柏の日本代表GK中村航輔を育てた。その後は、柏のトップチーム、アカデミーでもGKコーチを務め、2018年7月から2019年5月にかけては日本サッカー協会とJリーグが協働で行うJFA・Jリーグ協働プログラムの取り組みの一環と1FC.カイザースラウテルンで研修を受ける。2020シーズンより大宮アルディージャのトップチームのGKコーチに就任。
Twitterアカウント

(文:福田悠/写真:名古屋グランパスエイト、大宮アルディージャ)

あらゆる競技のトップ指導者・現役アスリートによる最高峰の理論を学べるオンライン講習会『ホワイトボードスポーツ』では、楢﨑正剛氏のオンライン講習会(全3回)を配信中です。また、7月1日(月)より楢﨑氏も参加するオンラインサロンがスタートします。こちらは楢﨑氏および参加者の皆様でGKについての知見を共有し、GKファミリーの輪を広げるためのものです。ぜひご参加ください。

【タイトル】
楢﨑正剛presents「GKオンラインサロン」
【参加資格】
ホワイトボードスポーツにて「楢﨑正剛オンライン講習会」の3本セットをご購入いただいた方
【メッセージ】
みなさん、こんにちは。楢﨑正剛です。
このたび、「GKオンラインサロン」を開設することになりました。オンライン講習会では僕が現役時代にどんな考えを持ってプレーしていたのかを伝えさせてもらいました。自分が実際に選択したプレーについて、なぜそのプレーを実行したのか。1個1個を振り返っていく作業は、僕にとっても多くの発見がありました。
ただ、オンライン講習会では参加者の皆さんとコミュニケーションをとることができません。GKについて、もっといろいろな人と情報交換できる場所があったらよいなと思っていました。育成の現場ではこういう悩みがあるんですというのを教えてもらったり、動画の中で紹介したプレーについてもっと詳しく解説したり。あるいは、世界のあのGKがすごいとか、スーパープレーがあったとか。
日本代表、Jリーガー、GKコーチ、初心者、ファン……そういうのを取っ払って、とにかくGKに興味を持っている人が、みんなで話し合える場所にしたいと思っています。そうやってGKファミリーを1人で多く増やすことが、日本のGKの発展につながっていったら最高です。
【コンセプト】
・GKの悩み&相談を共有できる場所
・オンライン講習会についての深堀り&噛み砕き
・楢﨑正剛さんとのコミュニケーション
・参加者同士のコミュニケーション
【活動内容】
1.サロン内での情報交換
「好きなGK動画を貼っていくスレ」「GKをやっていてよかったことを共有するスレ」「GKのギアについて語ろう」「GKお悩み相談室」「雑談スレ」
※サロンメンバーによる自由なスレ立てOK
2.オンライン定例会
月1回のZOOMミーティング運営メンバーがファシリテーターとなり近況報告など。
3.質問コーナー
質問は運営メンバーにてとりまとめます。質問への回答は動画orテキストにて配信。
4.特別講義楢﨑正剛さんが話を聞いてみたい人をゲストに呼んでのオンライントークイベント
5.GKコンテンツの作成や売り込みサロン内での共有知識を企画に練り上げ、各社サッカーメディアなどに売り込む。サロン内で企画会議を行ったり、企画書やコンテンツの制作も行う。
【スタート】
2020年7月1日(水)
【プラットフォーム】
Facebookの非公開グループ※オンラインサロンへの入会方法については別途ご案内させていただきます
【期間】
2020年7月1日〜2021年3月31日まで
【参加費】
無料※オンライン講習会の特典となりますので入会費・月額費などの追加費用は発生しません

<オンライン講習会ダイジェスト動画>


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