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「私の分析方法をオープンにします」プロアナリストと共有する、現場の分析術とW杯優勝の夢

「分析=難しい」ではない。サッカーをこれだけ見られたら楽しい

──杉崎さんはどんなことを目指してアナリストをされていますか?

私の目標は日本がワールドカップで優勝することで、そのために続けています。

──分析で日本を世界一にする。

私自身が日本代表チームのアナリストとして、ということより、私のアクションが日本代表チームの優勝のサポートにつながっていけばいいという考えです。まずは「アナリスト」自体の認知を広げ、サッカー分析の楽しさを伝えること。そして、個々で学ぶだけではなく、コミュニティを通して成長すること。さらに、有能なアナリスト集団をつくって、世界一を目指していくこと。W杯優勝のために、一つひとつ階段を上っていく必要があると思っています。

──優秀なアナリストを輩出していくということですね。一般的にアナリストの知見や方法論がオープンになっているケースは少ないですが、どんどん伝えたいという考えですか?

そうですね。私は、Jクラブのアナリストとして7年間活動しましたが、クラブからすると、テクニカルコーチの活動をオープンにしたくはないものです。財産でもありますし、漏れてはいけないものという風潮がありました。ただ、ずっと感じてきたのですが、ヨーロッパではすごくオープンになっているんです。たとえば、モウリーニョ監督が大学で何でも話している。世界の名将と呼ばれる人たちがどんどん公にするから、周囲もめちゃくちゃ成長する。20代前半からアナリストがどんどん出てくる。でも日本は、どちらかというと閉鎖的です。なぜ閉ざされているんだろうという疑問がずっとありました。私は、オンラインサロンを運営していますが、そこでは基本的にオープンにしています。決してクラブの内情をさらすとかではなく、あくまで自分の知見を伝えるというイメージです。それをどんどん盗んでもらいたいと思っています。

──今は、「戦術を楽しむ」という日本独自のファンの楽しみ方が広がっていると感じています。ただ一方で、そこで語られている「戦術」が現場と乖離している印象もあります。卓上の話が先行していて「現場ではこうだよ」という話がない。そういったリアルな話やノウハウがオープンにならないからこそ、どんどん乖離が進んでしまうのかなと。

それは感じます。サッカーの見方があって、どれだけ見ることができて、その先にどうまとめるかというところですよね。その話で言うと、私の周りでは少しずつ変化も感じています。オンラインサロンのメンバーが、川崎フロンターレvs横浜F・マリノスの「レビュー」を発信したのですが、マリノスサポーターがそれを見て「すごい」となった。その人は「戦術クラスタ」ではなく、あくまで試合で起きた事象を局面で整理して、どうなっていたかを分析したものでした。

──まさにアナリストの仕事領域ですよね。

実際に試合の見方、局面の分け方は私が伝えていた方法を使っていたそうです。そうやって自分のやってきたことがつながっている実感もあります。自分がすごいとかではなく、アナリストは面白いという人が増えたらいいなと。今は「分析=難しい」と思われることが多いですが、そうではない。サッカーをこれだけ見ることができたら、すごく楽しいよと伝えたいですよね。私も、サッカーを楽しむためにやっていますから。楽しむためにサポートして、楽しいだけでは勝てないから戦術や戦略を使う。難しくしようとしているわけではありません。

──ベースには、楽しむことがある。

監督をサポートするアナリストは、決して“やらされる”ものではありません。もちろん、監督のオーダーがあり、それに応え、結果を出すために取り組んでいますが、ただデータを並べたり、無機質にやったりするわけではありません。現場のリアルなやりとりがあって、それが楽しいものです。そういう部分って、なかなか伝える機会はないですよね。だから「分析って、データを駆使してスカウティングしたりして、難しそう」となってしまう。でも、本当はそこに「現場感」があるわけです。私はプロとしてトップカテゴリーで続けてきてようやく気づきました。データだけでも、サッカーだけでもダメで、その融合で選手をサポートすることが楽しいんだと。

──だからこそ、楽しさと実際のノウハウを伝えることを始めたんですね。

そうです。アナリストの楽しさを知り、一緒になって日本のサッカーを高めていける人を増やしたいなと。日本が強くなるために、アナリストは絶対に必要だと思っていますし、だからこそ、いいアナリストを増やさないといけない。そういう想いに共感してくれる人とコミュニティを築いて、知見を共有して、進んでいきたいと思っています。

──日本を強くするアナリスト集団が求められている、と。

そう感じています。やはり「アナリスト」はまだ日本に定着したとは言い切れません。私自身が外で何かを発信しても、「誰?」となってしまう。アナリストは裏方ですから、自分が出たいわけではないのですが、そもそも知られていないものを広げるための発信も必要だと思っています。私の小さい頃の夢は、Jクラブで優勝することと、日本代表になることでした。もちろん、当時は自分が選手として成し遂げることを思い描いていました。その夢が現実的ではなくなったときに自分に何ができるのかを考えてきましたが、一つ目の「Jクラブで優勝」は達成した。だから次は、日本がW杯で優勝することに本気で取り組んでいきたいんです。

──すごく大きな目標ですね。

でも、そこを目指さないといけないと思っています。Jクラブで優勝した実績は、もう過去のこと。今のチャレンジが、未来の日本のサポートにつながると信じて続けています。

──今回「サッカー分析集中講座」を限定5名で行うのも、その目標につなげていくために?

そうですね。先ほどもお伝えしましたが、いいアナリストを増やさないといけないと考えていますし、そのためには、この世界に興味をもって入ってきてくれる人に、きちんと伝えたい。そう考えたときに、私が実際に試合に向けてやっていることを伝えたり、試合中にどんなことを見て、考えて、行動しているかを共有したり、それらを実際の質疑応答でフィードバックしていくことを考えると、濃密なものにするには5名くらいが精いっぱいなのかなと思っています。

──サッカー分析を、日本でも当たり前の文化にして、高めていきたいですね。

そうですね。いいアナリストが何人も出てきて、もし仮にそれが日本代表のW杯優勝につながっていったら、本当に素晴らしいですよね。2014年にドイツ代表が優勝した際に、日本メディアは「ドイツのデータ分析がすごいぞ」と伝えました。その逆の光景を目指しています。ヨーロッパの最先端の人たちが「日本のアナリスト集団がすごいことになっているぞ」と取り上げることが、究極的な夢でもあります。今は、そこを目指しています。

杉崎健(すぎざき・けん)
1983年6月9日、東京都生まれ。2014年から2015年にヴィッセル神戸、2016年にベガルタ仙台の分析を担当。2017年から2020年までは、横浜F・マリノスの名将、アンジェ・ポステコグルー監督の右腕として、チームや対戦相手を分析するアナリストを務めた。2019シーズンには、クラブの15年ぶりのJ1リーグ制覇にも大きく貢献。日本では他に導入されていない最先端技術を搭載したサッカー分析用動画編集ソフトを駆使し、監督のイメージを映像化、具現化しながら、選手・スタッフからの信頼を勝ち取ってきた。現在は、プロアナリストとして活動し、「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、自身が培ってきた知見やノウハウを共有しながら、有能なアナリスト集団の形成を目指した活動も続けている。

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