「予測はしても、先には動かない」。元日本代表GK楢﨑正剛が明かすスーパーセーブの秘訣。
あらゆる競技のトップ指導者・現役アスリートによる最高峰の理論を学べるオンライン講習会『WHITE BOARD SPORTS』。記念すべき第1回目の講師を務めたのが、元サッカー日本代表GKの楢﨑正剛氏だ。日本人最多タイとなるワールドカップ4大会メンバー入りなど、GKとしてアジアでも屈指の実績を誇る楢﨑氏。そんな誰もが知るレジェンドが、全3回の講義で自身が培ってきた超実戦的なGK理論を余すところなく披露してくれた。ここでは第1回「“準備動作”でセービングは決まる」について紹介する。
一番大事なのはポジショニング
全3回の講義はすべて、楢﨑氏の現役時代のプレー映像を再生しながら本人が解説を行う形で進行していく。対シュートがテーマの今回は、クロスからのシュート、角度のないエリアからのシュート、DFと連携してのブロックなど、全8つの異なるシチュエーションでの対応が紹介されている。そのあらゆる場面で楢﨑氏が繰り返し強調しているのが「準備の大切さ」だ。
際どいコースに飛んできたシュートを横っ飛びで弾き出すセービングは、GKの華ともいえるプレーだ。しばしば「驚異的な反応」などと形容されるこれらのプレーは、あたかも鋭い反射神経や身体能力のみで実現されているように表現されがちだが、実際にはそうではない。相手FWとの駆け引き、味方DFとの連携、正確な状況認知から生まれる予測など、打たれる前の様々な準備ができているからこそ可能になるのだ。
そのあらゆる「準備」のなかでも楢﨑氏が「一番大事」と語るのがポジショニングだ。シュートを打たれる瞬間にどこにポジションを取るか。大袈裟ではなくcm単位での細かいポジション修正を生命線としていた楢﨑氏の真骨頂ともいえる部分だ。
対シュートのポジショニングの基本は、「ボールと両ポストを結んだちょうど真ん中に立つこと(楢﨑氏)」である。自分の体から左右のポストまでの距離を均等にすることで、ゴールの端に飛んできたシュートへの移動距離を最短にすることができる。だがこれ自体はGKの実用書などにも必ず載っている、いわば基本中の基本だ。
この講義を受ける最大の価値は、その先の「実戦の中での正しいポジショニング」について徹底的に学べる点にある。
「ボールと両ポストを結んだちょうど真ん中に立つ」といっても、あくまでもそれは基本の話。試合中はただゴール前でボールに合わせて横移動していれば良いというわけではない。時には真ん中よりややニア寄りに立つ場合もあるし、瞬時に前に出る判断が求められる場面もある。一言に「真ん中に立つ」と言っても、ボールの位置や相手の体勢、味方DFの付き方等によってポジションを細かく修正し続けなければならないのだ。
例えば、相手FWがドリブルでペナルティエリア内に斜めに進入してきたとしよう。ボールを持った相手がワンタッチ運ぶごとに、GKの対シュートのポジショニングも、想定されるパスコースも、味方DFによって消せているコースも刻一刻と変わる。タッチの大きさやボールとの距離感などによっては、一気に間合いを詰めてブロックに持ち込む、あるいは飛び込んで打たれる前にカットするといったプレーも要求される。
こうしたGKの試合中の実戦的なポジショニングや戦術的判断について学べる実用書や講座は、実は日本国内にはほとんど存在しない。ましてや楢﨑氏のようなトップレベルのGKが“その時何を根拠にそのポジションを取っていたか”を知れる機会などないに等しく、そういう意味でも大変貴重な、唯一無二の講義と断言していいだろう。
「まずは対シュート」の意識が生んだビッグセーブ
また、楢﨑氏がポジショニングを解説する際に何度か強調しているのが「まずはシュートを想定して準備する」という点だ。確かに映像を見てみると、例えば中央からサイドに展開されたシーンなど、ほぼ間違いなく次はクロスかパスだろうと思われる場面であっても、楢﨑氏は先読みして中央に体を向け始めるようなことはしていない。実際にクロスが上がるまでは、あくまでも真っ直ぐボールホルダーの方を向きシュートに備えたポジションを取っているのだ。
「ボールを持った相手が経験豊富な選手であれば、“おそらくクロスだろう”とGKが読んで動こうとする心理を逆手に取って意表を突いたシュートを狙ってくる可能性もあります。次のプレーを予測するのは(その後のプレーへの移行をスムーズにするためにも)もちろん必要なのですが、先に動くことはまずないです」(楢﨑氏)
戦術的根拠を元に予測しつつも、まずは対シュートの準備をする。そんな楢﨑氏の準備力が発揮された場面はキャリアの中で無数にあったわけだが、中でも筆者の印象に残っているシーンを一つ紹介したい。2002年11月20日、埼玉スタジアムで行われたキリンチャレンジカップ・日本代表×アルゼンチン代表での前半42分のプレーだ。
後方からのロングボールを中央で収めた⑰アリエル・オルテガが、ペナルティエリアの左角付近にいた③パブロ・ソリンへ。ソリンの前には日本の右SB名良橋晃がいたが、そのやや外では⑦クラウディオ・ロペスがフリー。アルゼンチンは瞬間的に2対1の局面を作れており、更にゴール前中央には⑰オルテガ、ファーには⑨エルナン・クレスポが走り込もうとしていた。GKとしてはあらゆるプレーを予測しなければならない難しい局面だった。
多くの日本人選手であれば外の⑦C・ロペスを使うなど、より確実性の高いプレーを選択していたことだろう。ファーに走り込んでいたのが⑨クレスポであることを考えれば、シンプルなクロスボールも有効だったはずだ。
ところが、バウンドしたパスを胸で足下にコントロールしたソリンは、迷わずその左足を振り抜いてきたのだ。インステップややアウトにかけてゴール右上隅を襲った、ワールドクラスの鋭い一撃。だが決まったかに見えたこのミドルシュートを、楢﨑氏は右手一本で見事に弾いてみせた。「それを止めるか…」と言わんばかりに苦笑いを浮かべるソリン。「まずは対シュート」という日頃からの心掛けが生んだビッグセーブだった。
<試合動画>
その正確なポジショニングと丁寧な準備によって、世界のトップレベルとも互角に渡り合ってきた楢﨑氏。長きに渡り第一線で活躍してきたGKから学べることは、あまりにも多い。日本のゴールを守り続けてきた守護神の講義から、超実戦的ポジショニング理論を盗んでもらいたい。
また、全3回のセット購入者には、特典として楢﨑氏が主宰する「GKオンラインサロン」に参加することができる(期間限定)。GKとして高みを目指したい選手、現場に立っているGKコーチ、Jリーグで活躍している現役選手といった“GKファミリー”とともに高みを目指そう。
(文:福田悠/写真:名古屋グランパスエイト)
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