GKのスペースディフェンスが守備を安定させる理由|松本拓也が伝える、GK指導の本質
チームの安定感に直結する
全5回でGK指導のすべてを学ぶ今回のアカデミー。第3回では「スペースディフェンス(クロス対応)」をテーマに講義が行われた。第2回講義のテーマだった「シュートストップ」同様、そのクオリティがそのままチームの勝敗に直結する重要なセクションだ。
松本氏はスペースディフェンスの講義内容を大きく4つに分類した。
①DFラインの背後のカバーリング
②キャッチングの技術とキャッチングのフォーム
③パンチングの技術とパンチングフォーム
④クロス
スペースディフェンスは、シュートを打たれる一つ前の対応と言い換えることができる。シュートをきっちり止めることはもちろん重要だが、それ以前にそもそもシュートを打たせないに越したことはない。相手のシュートにつながる一つ、あるいは二つ前の局面で判断よくプレーすることで、ピンチを未然に潰して相手の決定機を減らすことができる。GKの質の高いスペースディフェンスは、チーム全体の安定感向上にも直結する重要な要素なのだ。
大事なのは「いい準備」
松本氏が今回の講義で何度も強調したのが、「良い準備」の重要性だ。ディフェンスラインの背後に出てくるロングボールの処理も、サイドからゴール前に飛んでくるクロスボールにしても、事前の予測とそれに基づいたポジショニングがものを言う。
例えば、ハイラインで守る傾向が強くなっている現代 フットボールにおいて、ディフェンスの背後のカバーは、GKに求められる重要な役割の一つだ。GKの飛び出せる範囲が広ければ広いほど、ディフェンスラインの選手たちも勇気をもってラインを押し上げることができ、必然的に前線からのプレス強度も上がる。
とはいえ、GKが一か八かで闇雲に飛び出していたのでは、一歩間違えると即失点につながってしまう。自らが一番後ろの選手であることを念頭に置いた上で、裏に出てきたボールに対して前でGKが処理するのか、それとも後ろに残って味方に対応させるのか判断が必要だ。そのためには、ピッチ上の状況を正確に把握し続け、次の展開を予測できていなければならない。
GKが見るべきポイントはたくさんある。まず、ボールをもった相手選手がパスを出せる状態なのか、またはどこを狙っているのか。受け手となる相手FWがどこに居て、それぞれどこで受けようとしているのか。そして味方のDFはそれを認知できているのか、認知できていた場合はボールが出てきた際にどう処理をしようとしているのか。言うまでもなく、裏を狙ってくる相手FWと帰陣する味方DFの足の速さの優劣も計算に入れておかなければならない。
ボールと相手と味方の状況を把握し、次の展開を予測する。いざボールが出てきた時に瞬時に的確な判断を下せるようになることが、GKのスペースディフェンス向上の第一歩だ。
「ナイス」の声掛けが理想的な理由
次の展開を予測するためにとても重要なアクションがある。味方DFへのコーチングだ。GKはチームの最後尾からピッチ全体が見渡せる。そのため、味方DFの死角で発生する相手の動きや所作を読み取り、次に起こる可能性が高い事象に対応できるよう、声で味方に伝えなければならない。的確なコーチングによって、危ない状況を未然に防げる場合もある。
そのコーチングにおいて松本氏が重要だと強調するのが、声掛けの「タイミング」だ。
「例えば緊急地震速報が来る時に地震発生の5秒前に通知が届くのと、1分前に届くのでは備えられることが大きく変わりますよね。試合中も同様に、危険な状況に陥る直前に声を掛けるのではなく、それより少し前に次の展開を予測してコーチングしてあげる。それによって、味方DFたちもよりいい備えができます。極力シンプルで短い言葉を使い、先手、先手でコーチングしていくことが大事です」
相手がどこを狙っているのか。複数の選択肢があるなかで、最も危険な場所はどこか、次になにが起こりそうか。GKとDFが頭のなかで同じ絵を描いて守れている状態が理想である。
もちろんそのためには試合中に適宜コーチングして伝えればいいというだけではなく、練習中から常にコミュニケーションを取って細かい擦り合わせを積み重ねておくことが大切だ。GKとDFが互いの特徴や傾向、考えを理解することで、それを考慮したコーチングが可能になる。また、練習から入念に擦り合わせておくことで、松本氏の言うシンプルかつ短い言葉であっても、互いの意図を伝えやすくなる。
「GKの声は、“ナイス”という言葉が多く出ている状態が理想ですね。これは決して味方を鼓舞する言葉が重要という意味ではなく、あまり多くの指示を連発せずに“ナイス”と言えているということは、守備陣がGKのイメージ通りに守れている証だからです。練習から擦り合わせができているからこそ、試合中に細かく修正する必要がなく、結果的に“ナイス”の声が多くなる。GKと守備陣がいい連係を取れているなによりの証拠ですし、互いの意思疎通が重要なスペースディフェンスにおいては、ここが一番モノを言う部分なんです」
第3回の講義は、スペースディフェンスに関して非常に濃密な理論が展開された。上記した戦術的な応用の話だけでなく、クロスボールに対応する際の「パンチングの手の握り方」といった基本中の基本まで、とにかくGKのすべてを完全網羅しているのが松本氏の講義の特徴だ。現在の年齢や競技レベル、指導しているカテゴリーに関わらず、GKに関わるすべての人にとって有益な講義であるように思う。ぜひこの機会に受講をご検討してみてはいかがだろうか。
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