![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/35467507/rectangle_large_type_2_77124d86d6c6ed388b436b13587586f8.jpg?width=1200)
【楢﨑正剛×シュミット・ダニエル】新旧日本代表が欧州最先端を語る!トップレベルのGK観とは?
日本でもっとも長い間トップで戦い続けた守護神と、その背中を追いかける選手。現役を退いた今も絶大な人気を誇る楢﨑正剛と、第一線のピッチに立つシュミット・ダニエルは、世界最高峰のGKをどう見ているのか。
現代サッカーのGKには、止めることと、ゴールを奪うための第一歩となるプレーが求められている。「どちらも大事」という議論を超えてGKが直面するテーマに、日本を代表する2人が迫る。対談本編は、28日(月)20時にスタートする。
さて、そんなスペシャル対談に先立ち、2人に“顔合わせ対談”をオファーした。
イベント当日の話題だけでなく、そもそも世界最高峰のGKをどう見ているかを両者に問いかけた。導入に選んだのは、バイエルンvsパリ・サンジェルマンによるCL決勝。マヌエル・ノイアーと、ケイラー・ナバス。あの舞台に立った2人の守護神を語ることは、世界最高峰でかつ欧州最先端を語ることと同義に近いだろう。
すると、話題はそこからどんどん彼らの“リアル”な部分へと展開していった。聞き手は、対談でも進行役を担当するGKライター・福田悠氏。これは世界最高峰のGK視点を知るための、入り口となる対談だ。
インタビュー・福田悠(GKライター)
構成・ホワイトボードスポーツ編集部
楢﨑&シュミットはノイアーとナバスをどう見ている?
──お2人は、オンラインではありますが、面と向かってお話するのは実は初めてだとか。
楢﨑正剛(以下、楢﨑) 緊張してるの?
シュミット・ダニエル(以下、シュミット) はい(苦笑)。
──シュミット選手から、楢﨑さんに聞きたいことはありますか?
シュミット 特に……今のところ大丈夫です(笑)。
──緊張されていますね(笑)。イベントに先立ち、2人のGK観を知る機会にもなればということで、世界最高峰の舞台、CL決勝に出場した2人のGKについて聞かせてもらえますか?
楢﨑 よろしくお願いします。
──バイエルンはマヌエル・ノイアー、パリ・サンジェルマンは大会中の負傷がありながらも、ケイラー・ナバスが出場しました。体格もプレースタイルも対照的な選手があのピッチに立っていました。シュミット選手は、2人のGKにどんな印象をもっていますか?
シュミット ノイアーはもともと、細かい技術よりも体の大きさがすごく目立つプレースタイルだったと思います。セービングも他のプレーも、体をダイナミックに使っていました。でも、もう10年くらいトップにいますが、だんだん細かいところを突き詰めているような。その一つとして、ビルドアップでも、チームにプラスαをもたらしています。特にすごいと思ったのは、大事な局面でのセーブです。2-0で勝っている状況で見せた(1点を取られてはいけない重要な局面での)セーブ。チームに与える安心感がすごくありますよね。
──論理的には止めるのが難しいような局面、決められても仕方がないここ一番で止められる。味方からすると、止めてほしい場面はありますよね。
シュミット それです。すごく勝負強さがある。ワンプレーが試合を左右しますからね。
──楢﨑さんはどうですか?
楢﨑 本当は(ノイアーもナバスも)そんなに違わないんだけどね。でも、ノイアーはズルイですよ(笑)。あのデカさであれだけ動けて、守備面でも攻撃面でもチームの力になれる。最初は守備範囲がクローズアップされていましたが、チームの戦い方に応じてうまくフィットできる。だから、何かが突出しているというよりかは、全てにおいてレベルが高いという印象がありますね。
──では、ナバスは?
シュミット 身体能力を生かした細かいステップの速さやフィジカルの強さを前面に出していると思います。
楢﨑 ステップは本当に速いよね。それに、上背がなくてもシュートストップに強いのは、間合いの取り方や足の動かし方が速いからだと思う。ダンはでかいけど、日本人には彼くらいのサイズのGKは多いので、ノイアーよりもナバスを目指すイメージのほうが合いそうですね。とはいえ、ナバスは身体能力が高いから真似しようとしても簡単ではないと思うけど……。
──生まれもったバネを感じますよね。
楢﨑 そうですね。それと、体格差を感じさせないように、やはり1、2歩先に構える。本来は動かない距離感でも少し狭めて守るディスタンスの取り方が特徴だと思います。
シュミット まさに、その1、2歩詰めるイメージはありますね。ナバスは間合いを詰めるスピードが速いしタイミングもいいから、1対1をすごく止められるように感じます。
──身体能力と技術で言えば、どちらが高いのでしょうか?
楢﨑 両方ですよね。
シュミット たしかに(笑)。
──では、日本人GKとしては、ていねいさをまずは真似するところから。
楢﨑 それがいいと思います。ナバスも、身体能力に加えて、ステップの踏み方などはトレーニングで身につけている感じがします。自分のウィークポイントを補う意識があるのかなと。
──シュミット選手はナバスより体格に優れていますが、そういう選手も参考にしますか?
シュミット しますよ。ナバスももちろんですし、それほど小柄ではないですけど、身長が低めの、クリスタルパレスのビセンテ・グアイタや、チェルシーのケパとかは何度も見ます。今はすごく批判的な見方をされていますが……。でも、動く技術やポジションを変える速さがある。低い体制でもすごく速く動くことが自分には足りないところなので、彼のプレーを見て盗もうとしています。
──様々なスタイルのGKを見るんですね。
シュミット そうですね。取り入れられるところを探っています。
──英国誌が、エリア内でなおかつブラインドのシュートを止められなかったケパに対して「あれを止められないようでは……」と批判していました。あまりにも要求が高いなと。
シュミット そうですよね。でも、だからプレミアリーグなんだろうなと思います。
若手GKが育つベルギーと日本の育成現場で感じること
──楢﨑さんが現在指導されているユースの選手には、どんなタイプの選手がいますか?
楢﨑 ユースには4人のGKがいるのですが、体格は、186、7cmで、僕より少し大きいくらい。タイプはそれぞれで違いますね。近距離のブロックなどシュートストップに強い選手、攻撃が得意な選手など。クラブとしてはなんでもできるようにしたいので、長所を伸ばしつつ、弱いところもしっかりと伸ばしていくことを意識しています。まだ成長過程なので、現段階ではスタイルにもバラつきがあります。
──シュミット選手は若いGKを見る機会はありますか?
シュミット あまり多くはないですが、伊東純也選手が所属するゲンクで17歳の三番手のGKマールテン・ヴァンデヴォートとか、面白い選手はいますよ。ゲンクは、レアル・マドリードのGKクルトワや、マンチェスター・シティのデ・ブライネを輩出したクラブですが、第1GKがアキレス腱を切ってしまい、代わりに入った第2GKのパフォーマンスがあまり良くなくて出場機会をつかんだのですが、足元に自信をもっていて、シュートストップの身のこなしもしなやかです。
──CLの史上最年少GK出場記録を更新した選手ですね。
シュミット そうですね。シントトロイデンのGKコーチ(ヨルゲン・デ・ブレエケリー)は、ベルギー代表U-19のGKコーチも担当しているのですが、先週の代表ウイークでの指導から帰ってきて「すごくポテンシャルが高い」と話していました。誰に聞いても、あいつは良いGKになるって言いますね。ベルギーのGKの多くは、(シュートを)止める、蹴る、フィードをズラさないという基本ができていますね。
──日本人の若手GKにも、何か傾向がありますか?
楢﨑 傾向はありますね。でも、今は日本人の育成でも足元をすごく大事にしているから、みんなうまいと思います。ボールを持った際にどこを見るべきなのかということは頭で理解しているから、あとはどう蹴るかなどの細かい技術で差が出ているという印象はあります。
──シュミット選手は足元の技術の高さも特徴ですが、そうしたキックの精度やオン・ザ・ボールのスタイルをいつから意識し始めたのでしょうか?
シュミット 僕は大学からですね。高校時代は、FWが速かったこともあり、いかに裏を通すかというプレーを考えていました。でも大学からはDFと連携をとって、CBが開いたところに出したりボランチに通したり、自分がビルドアップに関わる意識とイメージが強くなりました。
──チームのプレーモデルによって求められるものも変化しますし、キャリアや時代背景ごとに求められるものも変化していったわけですよね。
シュミット そうだと思います。
シュミットが楢﨑に聞きたい「準備」の優先順位とは?
──では緊張もほぐれてきたと思うので、改めて楢﨑さんに聞きたいことはありますか?
シュミット あります(笑)。ナラさんの講習会動画の第1回では、準備のことをお話しされていました。実際にナラさんのプレー集を見ていると、シュートを打たれる際の体がすごくニュートラルなんです。そこは自分がまだ定まっていないところでもあって、どういう意識で準備されているのかなと。ゴールとポストを結んだポジショニングやスタンスはもはや無意識にできると思いますが、対シュートの優先順位はありますか?
楢﨑 難しいね(笑)。基本的にはナバスのプレーと同じで、足を動かして、取れる範囲を取ろうというところ。足がちゃんと動けば、その範囲が広がるし、体が伸びればさらに広がる。そういう感じでした。それであとはタイミング。足が動いて体が伸びても、タイミングがしっかりと合っていないと取れない。ポジションはもちろん大事だけど、そこは練習や試合を重ねたら、自分がどこに立っているかをだいたい把握できる。だからタイミング。相手がどう打ってくるかを見ること。結構、見ているかな。
シュミット 相手をですか?
楢﨑 相手もそうだしいろんなところ。見ることを大事にしていたかな。ポジションが多少ズレていても、動けないと取れないからちゃんと見る。動くことと見ることは逆説的かもしれないし、本当はポジションを取ることが一番だけど、体が動いて、タイミングを合わせることが大事だなと。
シュミット 自分のポジションがズレていると感じることもありましたか?
楢﨑 それはあったよ。でも、まずはちゃんと動けることを意識したかな。大前提として、ポジショニングがズレてはいけないから矛盾するし、何が大事かの順番をつけるのは難しいね(苦笑)。
──楢﨑さんがいう「見る」のは情報を拾う作業ですよね。
楢﨑 そう。自分が行動する理由づけをするためのものですね。ボールを持っている選手、持っていない相手の状況や、味方の状況とか。でも、自分がこう対応するだろうと思っていたのとは違うこともあります。
──楢﨑さんがよくお話ししている「予測はしても、先に動いてはいけない」ですよね。
楢﨑 そうです。味方を参考にしても、裏切られることがある。信頼するけど、信用しない。自分で見る。自分と思っていたアクションとは違って、急に逆を突かれてやられてしまうことは多いですね。
シュミット それは海外でもすごくあります(苦笑)。
楢﨑 日本より多いだろうね。
シュミット たとえば「シュートコースを切る」にしても、日本では「ニアを切れ!」と言えば、かなり切ってくれます。仮に相手に抜かれても、できる限り動いてくれる。でもベルギーだと、置いていかれたらあとは任せたとなる(笑)。だから、あまりシュートコースがどちらかを考えなくなりました。本来はそこもコーチングで伝えないといけないのかもしれないですが……。
──言葉の壁はやはりありますよね。現地の言葉を覚えても、瞬間的に「しぼれ!」と日本語で言ってしまうとか。そうすると、味方とうまく連動できない状況で止めにいく状況が増えているのかなと。
シュミット そうだと思います。英語でコーチングするので、僕の語学力の問題かもしれないですが、日本語のほうが強く、短い。英語であれば「しぼれ!」は「スクイーズ!」ですけど、「しぼれ!」のほうが早いですよね。もちろん、海外のGKは「スクイーズ」で対応しているので、そういう差を感じている時点で、自分のコーチングがうまく伝わらない感覚はあります。日本とは馴染みが違うところですね。
楢﨑 でも、日本のほうがGKと一緒に守ってくれる意識があるってことは(川島)永嗣も話していたね。最終的には自分が守らないといけないと。その意味では、自分を伸ばすにはいい環境だと思う。
シュミット「後のGK人生に生かせるような対談にしたい」
──楢﨑さんは、味方を動かすことも大事だけど、最後は自分で止め切ることを突き詰めるのがGKだとお話しされていました。その点、指示は多いけど失点も多いというGKもいますよね。
楢﨑 グランパスは外国人選手の攻撃力を重視していた時期があって、そのときは「あとは守れ」みたいなことはよくありましたよね(笑)。自分としては、一人で守らないといけないという責任を感じていた時期もあったので、そういう経験が自分を鍛えたとは思いますね。
シュミット 自分のキャリアを考えると、海外で戦う以上は数字も意識します。自分が止めることで目立つというか、セーブ率や無失点で終えること。全然できていないですが、シュートを止めて、無失点試合を増やすことにはこだわる必要があると思っています。と同時に、やはりチームを勝利に導けるGKが求められるから、チームの成績にもこだわります。欲張りですけど、両方がすごく大事ですね。
──ありがとうございます。イベント本番も、こうした世界で戦ってきたお2人にしかわからない現場感、GK観のある話をお聞かせいただけたらと思います。最後に、イベントに向けて一言お願いします!
楢﨑 オンライン対談ではありますけど、僕としては、ダンがさらに飛躍するきっかけになったらいいなと願っています。根拠もないし、プラスになるかもわからないし、えらそうに言えることじゃないけど、良いものを与えられたらいいなと。それがいろんな人にも伝わるように頑張らないと。たくさんしゃべらないといけないなと思っています(笑)。
シュミット 自分が小さい頃から日本代表で活躍されていたナラさんとお話しできる貴重な機会をいただけたので、たくさん質問をしたいです。それが見てくださっている方も「それが聞きたかった!」ということを伺いたいですし、そこでいただいた答えを今後のGK人生に生かせるような対談にしたいです。自分にとってすごく有益なものにできるように頑張ります。今日はありがとうございました!
──────────────────────
【楢﨑正剛×シュミット・ダニエル 新旧日本代表対談】
現代GK進化論「シュートストップvsビルドアップ」どちらが重要か?
──────────────────────