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追想のアナスタシア


 皆さん、こんにちは。ロマノフ朝の血を引いていない木賃もくちんふくよし(芸名)です。
 さて。本日はとあるアニメーション映画についてお話ししましょう。そのタイトルは、

 『アナスタシア』


 この名前に聞き覚えのある人は多いのではないだろうか。まあ、ロシア人女性名の代表格のひとつなので、アナスタシアだけでなく、イリーナ、エカテリーナ、カチューシャなどもそれに該当するだろう。

 このアナスタシアは、最後のロシア皇帝ニコライ2世の第4皇女アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァを指す。

 そう。レーニンによって処刑されたロマノフ王朝最後の皇女だ。
 トロツキーは皇族の処刑に反対したが、レーニンは半ば強行的に処刑を下したとされる。
 だが、政治的配慮からか、「ニコライ2世は処刑したが、家族は安全な場所にいる」と発表したのである。
 これにより、ニコライ2世を除く皇族の生存がまことしやかに囁かれた。背景はそんなところだ。

 そこに、一人の女が現れる。

 アンナ・アンダーソン
 アンナと名乗る女は、ドイツにて、自殺未遂患者として精神病院に収容された。しかも、記憶を失っていた。
 しかし、記憶を取り戻した彼女は自らが「処刑を免れて辛くも逃げ出し、記憶を失った皇女アナスタシアである」と名乗ったのである。
 このドラマティックな展開に世間は沸き立った。

 一般人が知り得る筈のない皇族の事を知り、顔立ちや身体的特徴までアナスタシア皇女と一致する。
 その身体には、銃殺刑を辛うじて逃れた傷痕が刻まれていたー。
 この事件は、20世紀を代表するロシアの謎とされ、世間を賑わせたと言う。

 まあ、これも冷静に判断していくと、ロシア語が話せないとか、肝心な部分は記憶があやふやとか、かなり眉唾でお粗末な偽物だったと思われる。
 調べるに、周囲が「処刑を免れたアナスタシアなのでは?」と持て囃すうちに、その言葉を真実だと思い込むようになってしまったのではないだろうか。

 ちなみに「やあやあ我こそはロマノフ王朝が最後の皇女アナスタシア・ロマノフであるぞ!」と名乗り出た女は30人を下らないと言う。

 この「アナスタシア事件」は後に、20世紀フォックスの映画「追想」にて映画化される。
 ロシアの元将軍が、皇女に似た記憶喪失の女を、皇女に仕立てあげて、ロマノフ家の遺産を手にしようとする物語だ。
 立場的には「逆・ローマの休日」であり、後の「マイフェアレディ」的な王道ストーリー。
 しかも、仕立てあげた偽物アンナこそが、実は本物のアナスタシアなのではー!?

 ヒロインであるアンナをイングリッド・バーグマン(「カサブランカ」「誰がために鐘は鳴る」)
 元将軍を演じるのは世界最強に美しいハゲ、ユル・ブリンナー。(「ウエストワールド」「未来世界」)


 (´・Д・)」 ぶっちゃけ、

 ユル様のご尊顔(ハゲ)が
 見られるだけで
 もはや最高の映画である。


 映画は色々とアレな感じもある(舞台がヨーロッパなのに言葉も文字も全部英語とか)んだけど、物語の締めくくり方は一級品だと思う。
 まあ、観たのはずいぶん昔で、記憶も定かではない事が発覚している(白黒映画だと思ってたらカラーだったとか)ので、今観れば、また違う感想が出てくるかも知れない。

 この「追想」(原題:Anastasia.1956年作品)が、なんと40年の時を経て、リメイクされたのである。

 それが『アナスタシア』(原題:Anastasia.1997年作品)である。製作は同じく20世紀フォックス。

 当時、「リトル・マーメイド」「美女と野獣」「アラジン」と大ヒットを飛ばしまくるディズニーに対し、


 (´°皿°)」 あんなベッタベタで
 子供騙しの王道アニメぐらい
 ウチでも簡単に作れるわい!


 謎なキレかたをした20世紀フォックスが初の長編アニメ映画に挑戦。
 モチーフとなるのは、あの「追想」だと言う。

 ディズニーアニメが好きじゃないワタクシ(「アラジン」と「ノートルダムの鐘」や、ピクサー作品は好き)は、


 (´°∀°)」 いいぞ! やったれ!!


 と喜び勇み、ウキウキで劇場まで足を運んだのである。

 が、フタを開けてみると、



 (´°Д°)」 ディズニーより、
 ディズニー映画してやがる、、、!



 なんと「追想」にはなかった設定で、ロマノフ王朝を乗っ取ろうとする、


 悪の大怪僧
 ラスプーチン


 が登場し、しかも悪いコウモリとか連れちゃってる。
 (´°Д°)」 「え? コレってディズニー映画だっけ?」とパンフレットを確認したくなるぐらいに歌うわ踊るわのファンタジアが展開。そーゆー意味ではディズニーに対抗できてる。出来てるが、「追想」がディズニー映画にされちゃったよ? 最初も途中も最後も、なんか、


 
 (;´°Д°)」 思ってたんと違う、、、


 と肩を落として家に帰ったのを覚えています。
 逆に言うと、ディズニー的作品を期待して観に行った人には良い出来だったのかも知れません。
 あるいは、ディズニー・ファンにとって悪質なパクリ作品に見えたかも知れません。
 ワタクシはそう思っていたのですが、周囲の感想や後のネット論評を見ても、



 (; °Д°)」 えっ? コレって
 ディズニー作品じゃないの?



 って声が多数あったりする。中にはディズニー映画だと信じたままの人もいる。


 (´・Д・)」 むしろ、ディズニー映画に対抗しようとしてコケた映画なんだよなぁ、、、。


 そう。しかも、この頃(1997年)のディズニーは「リトル・マーメイド」「美女と野獣」「アラジン」と立て続けの大ヒットを飛ばした直後で、自らの作品が壁となって低迷期を迎えていたのである。


 ポカホンタス(1995)、ノートルダムの鐘(1996)、ヘラクレス(1997)、ムーラン(1998)、ターザン(1999)と、イマイチなタイトル続き。(ちなみにワタクシはディズニーアニメではノートルダムの鐘が一番好き)


 対抗作としては充分に悪くない出来だったりする「アナスタシア」だが、掛けたコストに見合う興行収入には至らなかったと言う。
 ちなみに円に直してるのでかなり雑だが、アナスタシア、ヘラクレス、アラジンの興行収入と製作費は以下。


アナスタシア 製作費 50億円 💰興行収入 140億円
ヘラクレス 製作費 850億円 💰興行収入 250億円
アラジン 製作費 280億円 💰興行収入 500億円


 ボロボロの赤字だったヘラクレスに対し、アナスタシアはちゃんと利益を出している、、、と言いたいところだが、アメリカでの興行収入は58億円なのでギリギリ。
 なお、FOXのアニメーション映画は、次作の「タイタンA.E」で750億円かけ、350億円しか回収できず、ヘラクレス級の大爆死。わずか3年で閉鎖となった。(CGアニメ部門は生き残った)


 日本ではイマイチな認知だが、映画業界的には「20世紀フォックスがアニメーションに参戦!」ってのが、既にバッドニュースだったらしい。
 こっちで言うと、


 (´・∀・)」 えっ!? あの
 「スタジオ・ジブリ」が、
 実写映画に挑戦だって!?


 って感じの「やめときゃイイのに」風潮だったそうな。

 それどころか、映画界の裏事情に興味のない多くの人々にとっては、「ロシアの皇女がラスプーチンに狙われるディズニー映画ってあったよね?」と記憶される始末である。何故か皆、ラスプーチンは覚えてるのに、アナスタシアの名前を覚えていなかったりするのは謎。知名度の問題か?

 つまり、一面的な見方をすると、ピクサー作品の大ヒットで返り咲くまで、低迷期のディズニーアニメを支えたのは、「アナスタシア」だったと言えなくもないのである。はい。言い過ぎです。

 その無残な誤解か、フォックス・アニメーションの閉鎖が原因か、「アナスタシア」は黒歴史扱いされる事が多い。そう。闇に葬られたのである。


 そんな、史実とは違う形で処刑された「アナスタシア」だが、20年の時を経て、奇跡が起こった。

 2017年、ブロードウェイでミュージカル化。のちに日本を含む世界でも公開される。

 それだけではない。


 なんと、2019年にディズニーが、20世紀フォックスを買収。

 アナスタシアは2020年、ディズニープラスで配信開始。

 信じられない事に、


 ディズニー
 プリンセス入りを
 果たしたのである。


 ※ 公式の見解は知らん。


 死ぬまで自らをアナスタシアだと言って譲らなかったアンナ・アンダーソンは、自分を題材にしたキャラクターが、プリンセスとなった事を、死後の世界からどう思って見ているのだろう。


 (´・Д・)」 直接本人を名乗るのはリスクが大きいし、劇的な消え方をした人物を探すのは難しい。
 なるほど。自らを「〇〇の生まれ変わり」と称する人が多いのは、そーゆー事なんだろうかね?


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 なお、この先には「結局、アンナ・アンダーソンは何者だったの?」について追記しています。


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(´・Д・)」 文字を書いて生きていく事が、子供の頃からの夢でした。 コロナの影響で自分の店を失う事になり、妙な形で、今更になって文字を飯の種の足しにするとは思いませんでしたが、応援よろしくお願いします。