
ChatGPT × 保坂|エリー・デューリングのプロトタイプ論とは?
『Jodo Journal 3 』の小特集に、エリー・デューリングの論考「プロジェクトからプロトタイプへ(あるいは、いかに作品にせずにすますか)」、およびインタビュー「プロトタイプ」の翻訳を、ChatGPTと保坂が精読してまとめてもらった。
・Élie During, « Du projet au prototype (ou comment éviter d'en faire une œuvre ?) », in Panorama 3. Salon des prototypes, Le Fresnoy, Studio National des Arts Contemporains, 2002.
・Élie During, « Prototypes », entretien réalisé par Frank Madlener, L'Étincelle, n° 7, 2010.
ChatGPT × 保坂|エリー・デューリングのプロトタイプ論とは?
エリー・デューリング(Élie During)の「プロトタイプ論」は、芸術作品やオブジェクトを、プロジェクト(計画)とオブジェ(物体)の中間に位置するものとして捉える概念です。これは、作品が完成されたオブジェクトではなく、プロセスの中にあるものと考える視点を提供します。デューリングは、プロトタイプを一時的な試作品にとどまらず、それ自体が実験的かつ観念的な存在として自律的な価値を持つと主張しています。
1. 背景
(1) 「プロトタイプ」という概念の起源
• プロトタイプ(prototype)という言葉は、もともとデザインや工業分野で用いられ、製品の試作品や実験的な段階を指します。完成品ではなく、修正・改良が前提となる状態です。
• デューリングはこの概念を哲学や芸術に応用し、作品を「未完のまま持続するもの」として捉えました。
(2) 現代美術における「プロセス」の重視
• 1960年代以降、芸術は「オブジェ」から「プロセス」へと移行し、コンセプチュアル・アートやパフォーマンス・アートでは**「完成された作品」よりも「制作の過程」**が重要視されるようになりました。
• デューリングのプロトタイプ論は、この動向と深く結びついていますが、単なる未完成状態ではなく、プロトタイプ自体が持つ存在論的な価値を強調する点が特徴的です。
2. 内容
(1) プロジェクト、オブジェクト、プロトタイプの関係
デューリングは、プロトタイプを以下の3つのカテゴリーの中間に位置づけます。
1. プロジェクト(Project)
• 構想段階のもの。計画やアイデアのレベルにあり、まだ物理的な形を持たない。
2. オブジェクト(Object)
• 完成されたもの。一般的に「作品」として流通し、美術市場や制度の中に位置づけられる。
3. プロトタイプ(Prototype)
• プロジェクトとオブジェクトの間にあるもの。
• 未完成でありながらも、単なる実験段階ではなく、実際に機能する独立した存在。
• 例えば、ある作品が未完であるがゆえに新しいアイデアを生み出し続けるような状態。
(2) プロトタイプの特徴
• オープンな状態: 作品が固定されず、流動的な状態を維持する。
• 試行錯誤の場: プロトタイプは、制作の「試行」の結果であり、失敗や修正のプロセスを含む。
• 「完成しない」ことの価値: 完全なものではなく、変化の可能性を持ち続ける点に意義がある。
• 美術制度への批判: プロトタイプは、完成品として市場に流通する「作品」とは異なり、美術市場や展示の枠組みを逸脱する可能性を持つ。
3. プロトタイプ論と写真の物質性
デューリングのプロトタイプ論を写真の物質性と関連付けると、次のような視点が導かれます。
(1) 写真の物質性の再評価
• 近代以降、写真はデジタル技術の発展によって**「データ」としての側面が強調**され、物質的な「プリント」としての価値が薄れてきました。
• しかし、デューリングのプロトタイプ論を適用すると、写真は「データか物体か」という二元論ではなく、**「制作のプロセスが開かれた状態」**としての価値を持ちうると考えられます。
(2) 写真をプロトタイプとして捉える
• 写真が「未完成」であることを積極的に評価する視点が可能になる。
• 例えば、アナログ写真の暗室作業や、デジタル写真の編集プロセスは、「最終形」に至る前の段階でありながら、すでに作品の一部として機能する。
• 写真は、印刷・表示・再加工の可能性を持ち続けるため、プロトタイプ的な性質を内包している。
4. クレア・ビショップの『情報オーバーロード』との関係
クレア・ビショップ(Claire Bishop)は、著書『情報オーバーロード(Information Overload)』で、デジタル時代のアートが直面する課題について論じています。
(1) デジタル時代の「過剰な情報」とプロトタイプ
• ビショップは、デジタル化によって情報が過剰に流通し、作品が「完成」しにくい状況を指摘しています。
• 作品はSNSやオンラインプラットフォームで断片化され、**「未完成なまま拡散される」**傾向がある。
• これは、デューリングのプロトタイプ論が示す「完成しないものの価値」と共鳴する。
(2) オーバーロードとプロトタイプの批評的視点
• ビショップは、デジタル時代において、作品は無限に更新・再解釈され続けると述べています。
• これはプロトタイプの「開かれた状態」と類似しつつも、批判的な差異もあります。
• デューリングのプロトタイプ論は、意図的に「未完」を価値として提示するが、
• ビショップの視点では、情報過多による「未完」は、制御不能な状況の結果として発生している。
(3) プロトタイプ論の批判的可能性
• デューリングのプロトタイプ論は、「未完のまま継続する」ことをポジティブに捉えるが、ビショップの議論を踏まえると、その視点には警戒が必要。
• デジタル化の中で無限に複製・拡散されるプロトタイプは、本当に批評的な力を持ちうるのか? という問いが浮かび上がる。
結論
エリー・デューリングのプロトタイプ論は、作品を「完成品」ではなく、「未完のプロセス」に位置づける哲学的視点を提供します。これは、現代美術の流れと深く関係し、写真の物質性やデジタル時代の芸術のあり方にも影響を与えます。さらに、クレア・ビショップの『情報オーバーロード』と比較することで、プロトタイプ論の可能性と限界がより明確になります。
デューリングのプロトタイプ論は、現代のアートにおいて、「未完の状態」や「制作のプロセスそのもの」をどう評価するかという重要な問いを投げかけています。