7日間かけて十勝平野になる旅 #3
9/26 6日目 晴れ
帯広→鹿追→白樺峠→駒止湖→東雲湖→然別湖→幌鹿峠→糠平
本当はこの日に札幌へ帰る予定だった。
しかし、旅中に地図を見ていたら気付いてしまったのだ。
「東雲湖がすぐそこじゃないか」と。
言わずと知れた(?)北海道三大秘湖の一つである東雲湖。
10年ほど前から知っている大通の寿司屋の大将が教えてくれた名所だ。
そんな場所が現在地から100km圏内にあるなんて、行きたい、行くしかない、と思いすぐにルートを調べて宿も取った。
旅中に行き先も予定も180度自由に変えられる。これぞひとり旅。
昨日と同じくまずは最短距離で鹿追へ向かう。
しかし、せっかくなら違うルートで、ということでとりあえず音更の丘を目指す。
然別川にかかる豊年橋を越えた先の名もなき坂、意外と険しい。
しかし、険しい道ほど超えた先の景色が輝くことを知っているから、険しい道ほど楽しい。
この坂を越えると緑一面に一直線に伸びる道。どこにでもあるようで無い、十勝平野ならではの道なんだと思う。
そのまま鹿追市街を越え、戦車注意の看板を過ぎ、とかち鹿追ジオパーク・ビジターセンターへ。
こういう施設は小さい頃から好き。
到着して中に入ると、すぐにスタッフさんが案内に来てくれた。
これから東雲湖に行くことを伝えると、その周辺に特化した解説をしてくれた。
旅中は特に好奇心旺盛が止まらないタイプの私は、たくさん質問をしてしまうのだが、何を聞いても素敵な回答が返ってくる。
この施設を目的地にする旅もアリだなと思わされるくらい、スタッフさんの話が面白かった。
いま自分が走っている十勝平野、これから行く大雪山系の成り立ちについて、事前に知っておくとさらに深く楽しめるような気がした。
昨日走り尽くした十勝平野は、今あるあの目の前の山々無くしては出来なかった場所なんだなと思うと、これから向かう峠への期待も高まる。
施設を後にして、予定には無かったが教えてもらったナキウサギスポットへと向かう。
標高908mの白樺峠を越えたのだが、正直この峠は過去イチ辛かった。キツいんじゃない、辛いのだ。
それも坂的な意味ではない。
そう、虫だ。
わたしは虫がこの世で2番目に嫌いなのだ。
こんだけアウトドア満喫しておいて言うのもなんだが、小さなアリすらも無理なのだ。
白樺峠はてんとう虫の巣窟だった。
とても避けることができないほど大量に飛び回るてんとう虫。はっきり言って地獄だ。
夏日にも関わらずアウターを着てフードも被り身体に引っ付くてんとう虫を随時払い落としながら峠を上る。
早くこの地獄を抜け出したい一心でとにかく回す。ちょっと休みたくても止まったらてんとう虫の餌食なので回し続ける。さすがに脚にくる。
途中、扇ヶ原展望台がある。十勝平野を見渡せる絶景スポットなのだが、てんとう虫地獄なのでとてもじゃないが景色なんてゆっくり見てられない。
写真の黒い点々はぜんぶてんとう虫。
写真もそこそこにとにかく駒止湖を目指す。
やっとの思いで白樺峠を越えると、さっきまでのてんとう虫地獄が嘘のような穏やかな下り坂に入る。
この先一匹も見かけることはなかったのだが、なぜあの白樺峠の上りだけあんなに大量発生していたのか謎すぎる…。
駒止湖周辺散策路では、一瞬ではあったが無事ナキウサギを目撃。鳴き声がかわいい。
然別湖畔に着くと、東雲湖に向かうため白雲山登山口へ。
東雲湖まで片道1時間45分(徒歩)との看板。
薮をかき分け、崖スレスレの道を通り、岩場を抜ける。
後半の岩場まではほぼ平坦なので少し走る余裕もあるくらい。
そうして進む先に見えた景色は、まさに秘境。
手付かずの秘境。
もっと上からの眺めを見たくて、ひたすら岩を登る。上から東雲湖を見ていると、思うように自転車に乗れなかった時期のこと、それを乗り越えてここに自分の足だけで来れた事実が嬉しくてなんだか泣けてしまった。
時間が止まってほしいと、このままここでこの景色に溶け込んでしまいたいと、そう思うほどの景色だった。
戻る前に、ここからのゆかさんに作ってもらった特大梅おにぎりで補給する。
ちなみに、東雲湖が目視できる地点までは1時間10分ほどで行ける。その後岩を登れば上るほど湖の全景が見えてくるという感じだ。
わたしの場合は1時間30分ほど進んだところで満足いく景色だったので、最奥までは行かずに引き返した。あの道はきっとどこかに繋がっているのだろう。
然別湖からカヌーでアクセスする方法もあるようなので、足腰に自信がない人でも行けそうなので、ぜひ行ってみてほしい。
目的を達成してルンルンで来た道を戻る。帰りも小走りする余裕を見せながら、登山口に停めた愛車の元へ。
東雲湖に行くという目的を達成した今、本来であればここから帰路、のはずだった。
しかし、わたしは知ってしまったのだ。
この先にある幌鹿峠が北海道で2番目に標高が高い峠であることを。
峠好きとしては行くしかない。
だからこそこの日は糠平に宿をとったのだ。
然別湖を過ぎパールスカイラインをひたすら上る。
時々6度の勾配、路肩はナシ。
かなり狭い区間はあったが車通りも少ないので問題ナシ。
4km程上るともう頂上だ。
ここにくるまでにすでにかなり上ってきていたため、そんなに上った気がしないのにめちゃくちゃ下れる魔法の峠。てんとう虫地獄を乗り越えた甲斐があったというもの。
逆打ちは相当しんどいだろうな。
下りは急カーブ多数で日勝のようにブレーキ要らず、とはいかなかった。木が繁り日陰になっているところが多く路面はほとんど濡れていた。
油断せず、着実に下りる。5月に東神楽でスリップして転んだのが良い教訓になっている。
湧水スポットを越えるとあっという間にぬかびら源泉郷。
この日の宿はペンション森のふくろう。
チェックインして部屋に荷物を置いたら早速もらった温泉チケットで湯元館へ。浴場は2種類あり、日によって男女入れ替わりのようだ。
川を眺めながら入れる露天風呂。出るのが惜しいくらい気持ち良い。
9月下旬、外の気温も低めで一切加水していない源泉がちょうど良い。湯に浸かり熱くなったら出るを永遠に繰り返す。
お風呂から上がり、休憩室で少し横になる。
一日漕ぎまくった後、地元の温泉に浸かって休憩所の畳の上にゴロンする。至福の時だ。
宿に戻ると晩ごはんが用意されていた。
4種類から選べる釜ご飯と3種類から選べる鍋。
悩みつつも牡蠣飯ご飯とキムチ鍋をセレクト。
おかずも地元食材、道産食材を使ったもので、もちろんどれも美味しい。
個人的には、お父さんが近くの山から採ってきたというウドの酢味噌和えが一番美味しかった。
9/27 7日目 晴れ
この日はタウシュベツ橋梁を眺める早朝ツアーに参加。
せっかく糠平に行くならと思い付きで前日に予約したのだ。
ひがし大雪自然ガイドセンターにAM6:00に集合して、タウシュベツ付近まで車で向かう。
わたし以外に参加者は2人。おじいちゃんガイドのお話が面白い。
道中、鹿をたくさん見た。道内各地を巡って鹿との遭遇は何度もあったが、今まで会った鹿の数を超えるんじゃないかと言うくらいの数の鹿。
初めて雄鹿を見た。
鹿の群れを過ぎ、最後は湖畔まで徒歩。
初めて近くで見るタウシュベツ。だいぶ劣化して今にも崩れそうな部分もあり、歴史的建造物の儚さを感じる。
補強して残すという案も出ていたらしいが、予算的にも厳しいこと、そもそも補強してしまったらタウシュベツ橋の良さが失われるのでは、ということからそのまま手を付けずに見守る、ということになったそうだ。
見頃は5月、6月頃なのでわたしが行ったタイミングではだいぶ水没してしまってはいたが、ガイドさんの話も面白く参加する価値は大いにあり。
ツアーに参加せずともゲートの鍵を借りて入ることもできるそうなので、次回はそちらの方法でゆっくり見に行きたいところ。
ツアーから宿に戻ると朝食が用意されていた。
夕飯同様、魅力が止まらない品揃え。
宿をチェックアウトし、273号線をひたすら南下する。
士幌線音更川橋梁跡を通り過ぎる。
タウシュベツとは別に、このあたりのアーチ橋跡を巡るツアーもあるらしい。
峠を下り、一昨日訪問した士幌の道の駅へ再訪。
やっぱり好きだな。
改めてレトロ雑貨コーナーをうろうろしているとかわいすぎる木彫りのクマを発見。
どうやら売り物ではないらしく眺めるだけでがまん。
お腹も空いてきたので音更へと急ぐ。
音更の道の駅から帰りのバスが出ていたので、その前にご飯を食べてゆっくり道の駅を回るというプランだ。
音更の道の駅はご飯屋さんがいっぱい。ショッピングモールのフードコートくらいある。
その中にある「笑麦」といううどん屋さん。
池田町にある美味しいうどん屋さんだ。
時間があれば池田にも行こうと思いつつ今回は断念していたので、嬉しい誤算。
うどんを食べ終え、お土産コーナーを見て回る。
これ美味しかったからみんなにも買っていこうとか、これ買ってったら喜んでくれるかなとか。そういうのを考えるのが好きでいつもパニアがパンパンなのを忘れてお土産を買ってしまう。
でも、これも欠かせない旅の楽しみ。
うどんを食べ終え、まだ時間に余裕があったので今回ゲットした道の駅ピンズを眺める。
雨で停滞した2日間がなければ、三国峠を越え、層雲峡を越え、旭川まで行っていただろうな。
「十勝平野になる旅」としておきながら、いくつも峠を越えたり、往復3時間以上歩いて東雲湖に行ったり。
我ながらトピックの多い旅だったなと思う。
それは、自らトピックを増やす余裕も、予定外のトピックも受け入れて楽しめるキャパシティも持てているということだ。
旅をすればするほど、自分はどんな道が好きでどんな風に自転車に乗りたくて、何をしたいのかが鮮明になってくる感じがする。
乗れば乗るほど、行かなきゃいけない理由ができたり、来た意味を見つけられたり。
自転車に乗るのに理由なんていらないけど、結果的にいつも理由があったから、出せた答えも見えた未来もあるなと思う。
自転車に乗ってる時の「前に進む感覚が好き」
昨年とは打って変わって寝込んで過ごした今年の8月。
本当ならあそこに行ってたのにとか、これもできたはずなのにとか、そういう気持ちがぐるぐるして苛立つような想いもあったけど、「行きたい」って思えてることが、もう前向いてんだよなあ、と。
その想いがあったからこそ、こうやって全道をぐるぐるできてるわけで。
旅の中で、これまでの出来事や思い出を反芻しながら、逃げることも美談にすることも絶対にしないと決めた。
一生考えて、一生正直な気持ちで居続ける。
忘れたいことも消したいことも全て取り込んで自分のアイデンティティにする。
それが「前に進む」ということなのかなと思った2022年でした。
来年も進みます。